4話 グルタニアの秘宝
グルタニア国王から晩餐の招待を受けた。
そこで可愛い王女に会う。
4話 グルタニアの秘宝
出航まで5日ある。
今回もギースに色々案内してもらう予定になっているが、グラードに了解を得て、先にドラグル達に会いに行くことにした。
山羊に転身したザギに乗って、西の山に向かった。
ザギの気配に気付いたのか、5頭のドラグルが山から降りてきた。
「あれ? さっきより1人多いね」
『赤いのは契約者がいるから、普段は城にいる』
よく見ると、赤いのには鞍が着いていて人が乗っている。
ドラグル達がケビンの前に降りてきた。
ザギが先に説明してくれた。
赤いのがゴトー 契約者はシャーザ
青いのがグール
茶色がダグ
黄色がヨナ
紫がネミル
ヨナとネミルはメスだそうだ。
でも、繁殖しないのにオスメスがあるんだ。 後で聞いたら、心の問題だそうだ。
『彼はケビン。 私の契約者だ』
ザギはドラグル達の前でとても誇らしげだ。
『やっぱり契約出来たんですねボス』
『いいなぁ~』
『ヨナとネミルなんか、契約者を探すって昼は鷲、夜になるとコウモリの姿になって国中を飛び回っていたんだぜ。 ドラグルの誇りはどこに行ったんだよ!』
『だって、契約したいもの。 でも、この国にはいなさそうだわ』
『契約者といたいなら、ドラグルの姿にこだわらないほうがいいぞ。 私なんか、今は殆どドラグルの姿にはならない。 この姿ならケビンを乗せてやれるし、鷲の姿でどこにでも付いていける。 部屋の中までな ハハハハハ』
やっぱり少し引きつっているように見える。
『ところで、この国まで何しに?』
『いゃぁ~、 その、なんだ、ケビンが······そう、私にはよく分からないがケビンがこの国に用事があるとかで、付いてきたハハハハハ』
やっぱり隠したかったんだ。
その時、ゴトーに乗ってきた人が降りきてケビンの前に来た。 シャーザだっけ?
「私はグルタニア国第一騎馬隊のシャーザと申します。 あなたがカイルランス様の御子様と言うのは本当ですか?」
「あっ! 始めまして。 ケビンスロット·ロングフォードです。 父を知っているのですか?」
それを聞いて突然、シャーザはケビンの前で片膝を着いて、手を胸にあてた。
「私は以前、カイルランス様に命を頂いた者です。 同じく国王もカイルランス様に命を助けて頂いた事があり、その御子息であるケビンスロット様にお会いしたいと申しております。
是非とも城へお越し下さい」
《どうしよう ザギ》
《いいんじゃないか?》
《いいのかな、僕が決めちゃって》
《グラードが文句を言うかな?》
「う~ん、グラードさんに聞いてみないと」
「もちろんグラードさんと船員の皆様もご一緒に今夜の晩餐にお越し下さい」
晩餐?
「あの~、お洋服がこれしかなくって、正装は持っていないんですけど」
「そのままで結構です。 ドラゴンフライ号の皆様にもその様に······」
「······分かりました。 では後で行かせてもらいます」
「ありがとうございます」
勝手に決めちゃった。 まぁいいか。
シャーザは知らせるために、先にゴトーに乗って戻っていった。
ケビンもグラード達にその事を伝える為に戻ることにした。
『じゃあ、お前らも早く契約者を見つけろよ ハハハハハ』
捨て台詞を残してザギとケビンも町に戻った。
ドラグル達は山羊の姿で走っていくザギを見送っている。
『どうして飛んで行かないんだろう? その方が早いのに』
『町中にドラグルが下りるのも迷惑だからでしょ? でも、羨ましいわ』
『本当だわね』
ヨナとネミルはケビンを乗せたザギを羨ましそうに見つめた。
『バレずに済んだ』と、こっそりザギが胸を撫で下ろした事は、誰も知らない。
◇◇◇◇
日が傾きかけた頃、ケビン達はグルタニア城を訪れた。
門番に名前を告げると「暫くお待ち下さい」と、門番が脇の扉から慌てて中に入った。
すると、プォーッ!と、御触れのラッパが鳴り、大きな城門がゆっくりと開かれていく。
中では城門から建物の入口まで、両脇にズラリと兵士が並んでいる。
そして「ケビンスロット・ロングフォード様のお成り!」と言う御触れの声があった。 それと同時に兵士達がダンダン!と、二回足を鳴らし、剣を抜いて一度天に捧げてから、クルリと向きを変えて柄を胸に当てた。
これは、大国の国王に対する最上級の儀礼である。
ドラゴンフライ号の船員達はもちろん、違う意味でケビンも驚いた。
ビシッと姿勢を正し整列している兵士達の間を平服の男達が通り抜けていく。
ケビンは薄汚れた旅の服で何だか申し訳ないと思うのだが、そこは王族。 姿勢を正して余裕をもって歩いている。
しかし船員達は「どうも、どうも」と言って、兵士達に頭をペコペコ下げながら通り抜けた。
建物の入口に到着する前に大きな扉が開かれ、40台半ばのキリッとした国王自ら出迎えに来た。
国王はケビンに駆け寄った。
「ケビンスロット様。 わざわざの御越し、痛み入ります。 グルタニア国王ヨンジェ·ワイルドワンドです。 御目にかかれて光栄です」
「ケビンスロット·ロングフォードです。 本日は御招き誠に恐れ入ります」
おっと、ちゃんと王子様してる。
「さぁ中へ」と案内されると、ケビンは右手と右足が同時に出ていた。
あらら、緊張してたのね。
ヨンジェ国王は、歩きながらケビンの父親から助けてもらった経緯をかいつまんで話してくれた。
ラングリーで見た芝居の話と殆ど同じだった。
芝居の役者さん凄い!!
て、そこ?
晩餐の部屋に入ると綺麗な王妃様と、可愛い王女様と、そして小さな王子様がいた。
王女様は、ケビンの一つ下らしい。
ヤバい! 王女様が可愛いすぎる!!
王女様の名前はエリエンヌと言うらしい。 御母様エリアスからエリを使わせてもらったと。 王子様はカイルス。 こちらも御父様の名前を勝手に頂いたと、恐縮された。
お父様ヤッパ凄い!! お母様もついでに凄い!
立派なシャンデリアが吊るされている広間には美しいユニコーンの大きな絵が飾られており、天井にはドラグルが飛んでいる絵が描かれている。
そして美しい彫刻が施されているテーブルには、豪勢な食事の準備が整っている。 船員たちは今にもかぶりつきそうに御馳走に釘付けだ。
国王の「無礼講で······」と言う言葉で、船員達は遠慮なく食事に食らい付いていた。
エリエンヌはケビンの隣に座り、ザギの話しや船旅の話しなどで盛り上がった。
話し易くてとっても良い子!!
食事が終わり、帰ろうとしたら「是非とも皆さん、今夜は泊まっていって下さい」と、言われた。
グラードと「やっぱり帰ろう」と、相談していたが、船員達の視線が痛い。
ちょっとケビンも帰りたくなかったので、お言葉に甘える事にした。
ケビンは豪華な主賓用の寝室に通された。
どこもこういう部屋は同じなのか、ちょっと家(城)を思い出した。
テラスに出てみると、潮の香りと共に、波の音が遠くに聞こえる。
「ザギ」
『なんだ?』
「ここはいい所だね」
『そうか?』
「アルタニアには戻らず、ここに居たいとは思わない?」
『全く』
「そっか······なら良かった」
手摺に止まるザギは、ケビンを見上げた。
『ホームシックか?』
「そんなんじゃないよ」
下を見ると中庭に誰かいる。
「あっ! ザギはここにいて」
ケビンは走って部屋を出ていった。
『ははん 恋か?』
ちょっとザギは嬉しそうだ。
中庭に降りるとエリエンヌがいた。
ケビンは息を整えてから、なに食わぬ顔で近付いた。
「あっ、エリエンヌさん」
白々しい
「あら、ケビンさん」
「眠れないの?」
「ちょっと」
「じゃあ、少しお話しする?」
「ええ」
二人は遅くまで中庭で話しをし、楽しい時間を過ごした。 ザギはそんな二人をいつまでも微笑ましく思いながら、バルコニーから見ていた。
◇◇◇◇
翌日、また豪華な朝食を頂いてから城を出た。
門までエリエンヌが見送りに来てくれた。
名残惜しい!
その日から、荷の積み込みの手伝いが終わるとギースと町見学の繰り返しで、あっという間に5日間が過ぎた。
朝、出航しようとしたら、なにやら大人数がこっちに向かってくる。
ザギは早々にマストに止まって我関せずだ。
「あっ!」
エリエンヌがいた。
国王と王妃までも一緒に見送りに来てくれた。
「カイルランス様と、エリアス様によろしく御伝えください。 エリエンヌ」
「はい。 御父様」
エリエンヌは近付いてきて、ケビンの首にペンダントをかけてくれた。
先には3㎝ほどの大きめの琥珀色の綺麗な珠が付いている。
「ケビンスロット様。 これは、我が国に伝わる秘宝です」
「そんな大切な物を」
「実は、ゴーダントからこれを貴方に渡すように進言されました」
「ゴーダントさんから?」
「彼には予知能力があります。 この宝珠がケビンスロット様には必ず必要になるから、お渡ししてほしいと言われたのです」
ケビンは宝珠を手に取ってみた。 確かに綺麗な珠だが、ただの珠だ。
でも、エリエンヌから直接首にかけてもらった物だから、とても大切に思えた。
「ありがとうございます。 大切にします」
国王にお礼を言ってから、エリエンヌに近付き、もう一度「大切にします」と、小声で囁いた。
名残惜しい!! 帰りたくない!!
そう思いながらも、波止場で大きく手を振ってくれているエリエンヌに大きく手を振り返した。
綺麗な宝珠を握りしめながら。
ケビンの初めての恋?
でも、もうお別れなのね。
(;_;)/~~~
また会えるでしょうか?




