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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第三章 エボリューションフラッシュ
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3話 グルタニア

 長い船旅を終え、グルタニアに到着したケビン。

 手掛かりは見つかるのか?


3話 グルタニア




 そうこうしている内に5日が過ぎ、出航する日になった。


 ギースに連れられてドラゴンフライ号に行くと、既にみんなは働いていた。



 二段ベッドが二つ、部屋の両側にある部屋に案内され、四人部屋だが一人で使っていいと言われた。



 船員の邪魔にならないようにすれば自由にしていいと言われているので、甲板に出てみた。



 港がどんどん遠退いていく。 こんな長い船旅は初めてなので、わくわくする。

 珍しい船内を隈無く探険した。




 しかし半日もしたら、飽きた。




 ギースが壁に何かを塗っている


「何を塗っているの?」

「これか? これは防腐剤と防水用のペンキだ」

「僕にも手伝わせて」

「やってみるか? こうやって······」 


 塗り方を丁寧に教えてくれた。




 その日から、色々と仕事を教えてもらっては手伝った。


 楽しい!


 これぞ男! って感じ?



 一度、結構な雨風で船が揺れたが、ケビンは平気だった。

 いつもザギの背中でもっと揺れてるせいか、逆に揺れを楽しんでさえいた。



 ◇◇◇◇



 一ヶ月が過ぎようという頃、甲板で仕事を手伝っていると、マストの見張りの船員が大声で怒鳴った。


「嵐の壁が見えてきたぞ!!」


 みんなが船縁(ふなべり)に駆け寄り前を見ているので、ケビンも見に行った。 水平線の先が黒くなっている。 あれが嵐の壁なのか。




 グラードが駆け寄ってきた。


「ケビン、この前話した嵐に入る。 絶対に甲板には出るな! 興味本意でも絶対に表を覗くなよ! そのまま海に()まれるぞ! 分かったな」

「はい!! ザギ行こう」


 ケビンは自分の部屋に入った。

 なぜかザギがコウモリに転身して、ベッドの縁にぶら下がった。


「何してるの?」

「前に話しただろ? この嵐は、我々飛翔系のユニオンには危険だと」



 そう言えば聞いたような?


 どんどん揺れが酷くなってきた。

 船が真横に向いているのではないかと思うほど激しく揺れる。



「ザギ 大丈夫?」

『······何とか』


 良く見ると目が回ってる。




 やることがないので色々ザギに話しかけたが、『あぁ』とか『うん』とかしか返事がないからつまらない。



 仕方がないので部屋を出て、船内をウロウロしてみた。 凄い揺れで歩くのもやっとだ。


 甲板に出るドアの小さな丸窓に波しぶきがぶつかり砕け散る。 天井にぶつかりそうなほどカンテラが激しく揺れている。

 近付いて窓から外を覗いた。 しかし外は真っ暗で水しぶきしか見えない。

 ゴーゴーヒューヒューと凄い風が吹いているのがわかる。



 ちょっとだけ外を見てみたくなった。



 ほんの少し開けてみた。

 隙間からヒュー! と大きな音を立てながら風が吹き込む。


「やっぱりやめよ」と、ドアを締めようと思った途端、凄い風でドアが外側に開き、そのまま外へ体が持っていかれた。


「うわぁっ!! ぐえっ!」


外に放り出されそうになった時、誰かに襟首を(つか)まれ、船内に放り込まれ、床に叩きつけられた。


「いってぇ~~っ!」


 振り返ると鬼の形相で腕を組んだグラードが立っていた。



 ヤバい!



 もの凄い剣幕で長い間説教を受けた。




 注意された事は絶対守ろうと、心に誓った。




 どうにか嵐も通り抜け、やっとザギも小さなドラグルの姿に戻り、ケビンの話し相手になってくれる。


 しかし、船の仕事が気に入ったケビンは次々と新しい仕事を教えてもらっては覚えていった。



 ザギはちょっと面白くないので、ケビンが仕事をしている間は大鷲の姿でマストの上にとまって、何もない海を眺めていた。



 ◇◇◇◇



 半日もしない内にグルタニアが見えてきた。

 アルタニアでは見ることの無いほどの大きく高い山がそそり立つ。


 港につく頃には、山頂が見上げるほどの上の方にある。


『ケビン口が開いているぞ』


 またザギに突っ込まれた。




 その時、小さい方の山から何かが飛んで来た。 ドラグルだ。

 青、茶、黄、紫と、それぞれ微妙に色合いが違うドラグル4頭が、真っ直ぐにドラゴンフライ号に向かってきた。


「ザギの仲間?」

『そうだ。 ちょっと行ってくる』


 ザギは大鷲の姿のままでドラグル達の所に飛んでいった。

 ザギはここにいるドラグル達のボスだと言っていた。 小さくなっていてもボスのままでいられるのか、ちょっと心配だ。


 直ぐに戻ってきた。


「もういいの?」

『この船に来られても困るから、また顔を出すと言っておいた』

「大丈夫だった?」

『?』

「小さくなっちゃって、ボスじゃないとかって言われたりしなかった?」


『ハハハ そんな心配してくれていたのか。 問題ない ハハハハハ』



 ちょっと顔がひきつっているように見えるのは気のせい?



 ◇◇◇◇



 荷降ろしを一緒に手伝い、既に到着している分だけの荷を積み込んだ頃には日が傾きかけていた。

 取り敢えず今日は宿屋に入り、ゴーダントの所には明日行くことになった。


 船員が2人、ゴーダントの居場所を聞きに町に出たのだが、一人は直ぐに戻ってきた。



「えらく早いな。 彼の家は分かったのか?」

「はい船長。 彼はこの町では有名人らしく、直ぐにわかりました。 しかし······」

「しかし、どうした?」


「かなりのお歳で今は臥せっているそうです。 一応ダンが繋ぎに行ってくれたのですが、かなり悪いようだと聞きました」


 そういえば王妃(エリアス)誘拐事件の時、すでにかなりの高齢に見えた。 グラードはケビンを見る。


「話しはできそうなの?」

「ダンが戻ってこないとわからないな」




 夕食を取りながらダンの戻りを待っていると、割とすぐに帰ってきた。


「ゴーダントさんが是非ともケビンに会いたいと言っていました。 朝イチに来てほしいと」



 ◇◇◇◇



 翌朝、グラードと繋ぎをつけてくれたダンも一緒にゴーダントの所に行った。


[モノキビ]と言うキズに効く薬草が二枚重なっている看板がある所が町医者だ。



 中には白い服を着た若い医者が3人いた。

 沢山の薬草が吊るしてあり、壁中に小さな引き出しがついていて、独特の薬草の匂いが部屋の中に満ちている。

 30歳くらいの医者がダンを見て駆け寄ってきた。


「おはようございます。 中でお待ちです」




 奥の部屋に入ると、明かり取りの窓が一つだけあるだけの少し薄暗い部屋のベッドに、白髪で白く長いヒゲの老人が寝ていた。 痩せ細り顔色も悪く、話すことが出来るのか心配なほど弱っているように見えた。


 ゴーダントはこちらに気付くと起き上がろうとしたが、体が思うようにいかないようだ。 案内してくれた医者が駆け寄り、ゴーダントを抱き起こした。



「あ···あなた様がカイルランス様の御子様ですか?」

「はい。 ケビンスロット・ロングフォードと申します」

「カイルランス様は恙無(つつがな)くお過ごしですか?」

「はい」

「エ···エリアス様も?」

「はい」


「ご兄弟はおられるのか?」

「妹と、弟が」

「そうですか······そうですか·······良かった。 本当に良かった」


「両親を御存知なのですか?」


 ゴーダントは、この方は(ゴーダント)がした事を御存知ないのか? と、驚いた顔でグラードを見た。 グラードは肩をすぼめて見せる。



 ケビンは、悪い宰相の話しは聞いているが、名前まで知らないし、誰も教えてくれなかった。

 だからゴーダントがエリアスを誘拐させた張本人だという事を、ケビンは知らない。




「昔、とんでもない御迷惑をおかけしたのにも関わらず、広いお心で恩赦(おんしゃ)を頂いたのでございます。 お陰様で、このように穏やかに過ごさせていただいておる次第でございます。 あの······宜しければ···お手を······」


 ゴーダントは震える手を前に差し出した。 骨と皮だけのしわしわの手だった。


 ケビンが一歩近付き手を差し出すと、ゴーダントはその手を両手で包み込んだ。 そして、祈る様に額に着けて、目を閉じた。


「あの時間違いを起こさなくて本当に良かったです。 ありがとうございます。 ありがとうございます」


 何度も呟いている。 しかし何に感謝しているのかケビンにはよく分かっていない。


「あの······」


 声を掛けられハッとして、ゴーダントは名残惜しそうにケビンの手を離した。




「申し訳ございません。 それで、私に聞きたい事がお有りとか?」

「ザギが小さくなっちゃって。 ゴーダントさんなら何か知っているかもって聞いて来ました。 なぜか分かりますか?」

「小さく?」


 肩に乗る小さなドラグルに始めて気が付いた。


「これが······ザギ?」

「そうです。 なぜ小さくなったのか、ザギにも分からないそうです」


 ゴーダントは驚いた目でしばらくザギを見詰めていたが、何か思い当たる事があった様子だ。


「小さなドラグル······小さな······小さなドラゴン······」


 何かを一生懸命思い出そうとしている。 何かを思い出したのかパッと顔を上げる。



「そうじゃ! [小さきドラゴン]と言う言葉がどこかに書いてありました。

 どこじゃっけな?······あっ! そうじゃ! (いにしえ)の伝説が書かれたかなり分厚い本じゃ。 その本の名前は······」

「もしかしてレジェンド·オブ·レジェンド?」


 (いにしえ)の伝説と言われて、父親(カイル)が持っていた本を思い出したのだ。



「そうじゃ! それじゃ!······ん? 御存知なのですか?」

「その本ならお父様が持っています」

「そうですか、それは奇遇な。 確か、その本の最後の方にその様な記述がございました。

 ただ、それ以上は思い出せません。 お役に立てなくて申し訳ございません」

「いいえ、十分です。 ありがとうございました!!」




 ゴーダントは満足そうに頷きなから、ケビンの出ていったドアをいつまでも見詰めていた。






嵐の中、グラードがいなければケビンはどうなっていたか······

考えると、怖い!

((( ;゜Д゜)))

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