2話 港町ラングリー
ラングリーに到着した。
グラード達と合流できたが、夜ケビンの部屋に忍び寄る影が······
2話 港町ラングリー
「気をつけてね」
お母様は僕を抱きしめた。 妹のエイリーン11歳と、弟のコルトロッド8歳も、見送りに出てきた。
「「お兄様行ってらっしゃい」」
「行ってきます!」
始めての一人旅に僕は胸が踊る。
転身したアルナスに僕が乗り、ザギはこの小さな姿ではアルナスについて行けないので、僕の胸元に潜り込んだ。
アルナスが飛び立ち、空の旅が始まった。
いつもザギに乗っているので、アルナスの飛び方はとても快適だ。
ザギは体をくねらせる様に飛ぶ。
いつもは安全の為に専用の鞍を着けるか、前脚で掴んでもらって飛んでいるが、今は鞍無しで飛ぶ練習をしている所だ。
それに比べてアルナスは殆ど振動なく飛ぶ
『ケビン、気持ち良すぎて寝るなよ』
「大丈夫だよ、アルナス」
『そう言ってカイルも落ちた事があるからな』
「えっ? お父様が?」
『あの時はカイザーが受け止めたが、心臓が止まるかと思った。 今はカイザーがいないから、落ちたら死ぬぞ』
「馬の時のハスランからも何度も落ちたって本当?」
『ハハハハハ 本当だ。 1日一回は落ちていたな。 今は随分落ち着いたが、そそっかしいのは相変わらずだ。 皆には分からんように誤魔化しているがな』
「······」
お父様のイメージが少し崩れてちょっとショック
『船は乗った事があるか?』
「うん。 川を渡る時に」
『グルタニアの海は凄いぞ 覚悟しておけ』
アルナスからお父様の話しを色々聞いた。
アルタニアを占拠されて逃げ出した事、トムの農場で働きながらトマスおじさんに剣術を習った事、アルタニアを奪還した事。
お母様が誘拐され、無事に助け出した事(後で知ったが、ザギの話は飛ばしたようだ)
今まで誰も話してくれなかった。
凄い! お父様のイメージ回復!!
気付くとラングリーの港に着いていた。
町の人に聞くと、ドラゴンフライ号は明日到着するとの事。
「どうしよう······泊まる所を探さなきゃ」
僕は急に不安になってきた。
アルタニアの城下町にはよく行かせてもらっている。 買い物とかも一人で出来る。 しかし一人で泊まった事などもちろんない。
「えっと······」
『こっちだ』
僕がオロオロしていると、アルナスが以前泊まった宿まで案内してくれた。 宿屋には星のマークの看板が付いている。
食堂にはスプーンのマークだ。
星のマークとスプーンのマークが両方付いていると、食事付きという事だそうだ。
アルナスが色々教えてくれる。
宿の泊まり方、食事の仕方、風呂の入り方。 風呂は湯船マークの風呂屋もあるが、事前に宿でお願いしておくと部屋に用意してくれる。
知らない事ばかりだった。
案内された宿には基本動物は入れないので、ザギには隠れてもらった。
ただし、アルナスは別だそうだ······本当かな?······
その宿の親父がアルナスを覚えていた。
「お前、もしかしてあのときの狼か?」
アルナスは頷いた
「こんにちは 僕の父を知っているそうですね」
「おぉ! もしかして、あん時の兄ちゃんの子供か! 一人か?」
「はい。 明日ドラゴンフライ号に乗せてもらう予定です」
「そうか、一人で偉いな。 良く来た。 お前も一緒に泊まるんだろう? こっちだ」
本当だった。
あの時お父様達が泊まった部屋だと教えてくれた。
10年以上経つのにあの時の事は良く覚えているそうだ。
グルタニアから帰ってきた時にはドラゴンを連れていて大変な騒ぎになったそうだ。
あの兄ちゃんをこの宿に泊めたとみんなに自慢し、お陰で大繁盛したと嬉しそうに言っていた。
こんな遠い国でも有名なお父様が、とても誇らしかった。
お父様のイメージ大回復!!
◇◇◇◇
翌朝、食事を終えて部屋に戻った途端、宿のおやじが来た。
「坊主、ドラゴンフライ号が着いたぞ。 グラード船長にあの兄ちゃんの子供が来たという事を伝えてもらった。 直ぐに来ると思うからこの部屋で待ってろ」
至れり尽くせりで感謝!
暫くするとノックがあった。
開けると顔中ひげだらけの物凄い大男が立っていた。 ウォルターおじさんより大きく見えるし、ヒゲが少し怖い。
ちょっと気後れして一歩下がる。
「お前がカイルの息子か?」
「えっと······グラード船長ですか?」
「そうだ」
「カイルランスの息子のケビンスロッドです。 お父様から船長に手紙です」
手紙にはこうあった。
[前略······ケビンをグルタニアのゴーダントに合わせてやってくれないか。 ザギが大変な事になっているのでゴーダントに相談して欲しい]
「ザギが?」
ザギがケビンの胸元から顔を出した
「????ザギ?か??」
「なぜかこんなに小さくなってしまって、どうしたら元に戻れるかゴーダントさんなら何か知っているかもって」
プッと、グラードはつい笑ってしまった。
「あ、すまん。 あまりにも可愛かったもので」
ザギは、みんなが同じ反応するのでもう慣れているようだ。 だから笑われても平気な顔をしている。
「事情は分かった。 しかし出航は五日後だ。 それまでこの宿で待っていてもらわないといかんな」
「5日後ですか······」
「ちょっと先だが、こんな町には来たこと無いだろ? たまにはいいぞ。 そうだ、船を案内してやろう」
「はい!」
宿を出ると、ザギは懐から出て肩に乗ってきた。
道行く人が珍しそうにザギを見る。 大概の女の人の反応は「可愛い!」だ。
ちょっと嬉しい。
でも、本当の姿を見たら驚くだろうなと思ったら、笑えてくる。
海が見えてきた。
「わぁ~~凄~い!」
さっきアルナスの上からも見えたけど、間近で見るともっと凄い。
ザザッと波が打ち寄せ、岸壁に砕け散る。
多くの船が停泊する中で、一際大きな船がドラゴンフライ号だった。 思わず見上げる。
「わぁ······」
「ケビン、口が開いているぞ」
ザギに言われて慌てて口を閉じた。
「船を見るのは初めてか?」
「いいえ。 でも、こんなに大きな船は初めてです」
「これから行く海はこれくらい大きな船でないと行けない。 厳しい海だが、大丈夫か?」
「はい!」
本当はちょっと不安。
いや、かなり不安。
「ハハハハ、そうか」
ヒゲだらけの怖そうなグラード船長は笑うととて優しそうな顔になる。 少し安心した。
船の中はとても大きく、古いがとても綺麗だ。
すれ違う船員さん達はみんなが気持ち良く挨拶してくれる。 そして全員がアルナスと知り合いのようだ。
アルナスさん、凄い!
グラードさんは一人一人に僕の事を紹介してくれる。 そしてその度にみんなが一様にお父様の事を誉めてくれる。
物凄い鼻高々
お父様、凄い!! イメージ大大大回復!!
お昼ご飯も船員さん達と一緒に食べた。 豪快で気持ちのいい人達ばかりだ。
今日から出航まで、ギースさんというおじさんが僕の世話をしてくれる事になったので、アルナスは一旦アルタニアに戻って行った。
ギースさんが町中を色々案内してくれた。
思ったより広い。 1日では回りきれないので、明日も迎えに来てくれる。 と言っても、ギースさんは同じ宿の隣の部屋だ。 殆どの船員達が同じ宿に泊まる。
◇◇◇◇
翌日は芝居小屋に連れて行ってくれた。
驚いた事に、演目は[勇者様とザギ]! お父様がお母様を助けた時の事だ。
お父様の名前は出ず一貫して「勇者様」だが、ザギはそのまま「ザギ」で出ている。
本名出していいのか? 人権侵害にならないの? ドラグルだけど。
まぁザギが気にしていないみたいだからいいか。
その話の中でお母様を誘拐したのは「ザギ」という事になっている。
ザギを見たら、目線を逸らされた。
······本当なんだ。
でも、最後は「ザギ」が大活躍!
······許そう。
芝居が終わって大興奮!! 他の観客も立ち上がって拍手をしている。 僕は大声で自慢したかった。
勇者様は僕のお父様だよ!!
◇
そんなケビンの事をじっと見つめる男達がいる事に誰も気付かなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
宿に戻ってからもケビンは大はしゃぎで、ベッドの上で跳び跳ねながら私に解説してくれる。
勇者様は妻を救う為に城に侵入し、出合う敵をバッタバッタと倒したが、外に出ると百人の敵に囲まれた。 勇者様危うし! しかしそこに現れたのはザギ! 敵を薙ぎ倒し勇者様を助け出す。
この部分だけは、何度聞いても痛快だ。
もう五回目だが許そう。
とうとう話し疲れて布団の上に倒れるようにケビンは眠った。
静かだ。
表で猫がニャー(どこにいるの?)と、鳴いた。 違う誰かがニャー(こっちだよ)と鳴いた。 猫のユニオンがいる。
どこにでも小さいのはいるなぁ······などと考えていると、ドアの外から人の気配とヒソヒソ声が聞こえてきた。
「この部屋ででいいんだな」
「この目でちゃんと確認しやした」
ドアがカチャっと、静かに開いた。
「鍵かかっていやせんぜ」
本当だ······ケビン、鍵かけろよ。
三人の男が、足音を忍ばせて入ってきた。
「いるいる」
私に目線が釘付けだ······目的は私か?
面白そうだから、大人しく見ていた
一人が布袋を手に私に近付いてくる。
「いい子だな。 声を出すなよ······しぃ~~っ 何にもしないから大人しくしろよ」
大人しく見ていたらその男はバサッと布袋を被せ、私を捕まえた。
嘘つき! 何にもするじやねぇか!
「チョロいな さっさと行くぞ」
男が私の入った布袋を担ぎ上げた。
「えっ···えっ??」
すると布袋が急に重くなってきた。
どんどん重くなり、袋がビリっと破けてドサッと何かが出てきた。
この部屋に入り切れないほどのバカでかいワニに転身してやった。
「「「わぁ~~~!!!」」」
私を抱えていた奴は腰を抜かしている。
とりあえず逃げないように、優しく足をくわえた。
「ひぃ~~!!」
騒ぎを聞きつけ、宿泊客がバタバタと出てきた。 殆どがドラゴンフライ号の船員だ。
姿を見られる前に元の小さなドラグルに転身した。
「どうした!! わっ!! お前らは何者だ! ここで何をしている!!」
グラードが怒ると怖い。 あっという間に3人の男達を殴り倒した。
しかしグラードはベッドで倒れ(たように寝)ているケビンを見て驚いた。
「大変だ!! ケビン!!」
船員達に男達を放り投げると、ケビンに駆け寄り抱き上げた。
「ケビン! 大丈夫か!!」
「う···う···うん······? グラードさん?」
大丈夫そうなケビンを見てグラードは泣きそうな顔で抱きしめた。
「良かった 良かった······死んだかと思った······」
「どうしたの?」
グラードはホッとして、ケビンを離してベッドにへたり込んだ。
私はパタパタと飛んで、さっきの男の足元に降りて睨み付けてやった。
「ひぃ~~」
何だか臭い。 この野郎しょんべん漏らしやがった。
これからはダメ押しの脅しはやめようと思った。
船員たちに捕まえた男達を警邏詰め所に連れて行ってもらい、グラードは私が説明するのをケビンがそのまま訳してもらって聞いていた。
「バッカ野郎!!」
グラードはすごい剣幕で怒鳴った。
えっ? なぜ私が怒られるんだ?
「人間はな! お前らと違ってナイフの一突きで死ぬ事もあるんだ!!
お前が袋に入っている間にケビンが刺されでもしてたらどうする!!」
······そんな事考えてもみなかった。 人間は我々と違う事を失念していた。
ガックリ肩を落としていると、ケビンが優しく抱きしめてきた。
「護ってくれて、ありがとう」
おっと、ヤバい······泣きそうだ。
これからは、危険は事前に防ごうと心に誓った。
ドラグルの姿は小さくても、頼りになります。
( ̄ー ̄)b




