最終話 帰還
全ての事が解決し、アルタニアに戻る事になった。
最終話 帰還
城の地下、最奥の牢から王と王妃が助け出された。
王と王妃は別々の部屋で、光も届かない小さな牢に鎖で繋がれていたらしい。
しかしゴーダントも命まで奪う事までは出来なかったようで、きちんと食事は運ばれていたようだ。
二人とも体は随分弱っていたが、命に別状はなかった。
◇◇◇◇
翌日、カイルとエリアスはグルタニア国王の私室に招かれた。 長い間暗く狭い部屋に閉じ込められていたので、自室の椅子に座るのが精一杯なのだそうだ。
カイル達が入ると、グルタニア国王は支えられながら立ち上がり頭を下げた。
まだ若く、三十代半ばの優しそうな王だった。
「ロングフォード様。 この度は大変なご迷惑をおかけした上に、私共までお助け頂き、御礼と御詫びをどのように致せばよいものか······誠に申し訳ありませんでした。 そして、誠にありがとうございました。」
グルタニア王は、フラフラしながら再び頭を下げた。
「あなた方が牢に囚われている事を教えてくれたのはザギですから、私達は何もしていません」
「ザギ?」
「六つ目のドラグルです」
「あ······そうでしたね。 実はまだ近くで見ていないのです。 ドラグルが城に入ってきていたなんて信じられません。 ゴーダントとシャーザもドラグルと契約していたとか······」
「はい。 ゴーダントの契約相手のドラグルは死にましたが、シャーザは今回の事を本当に悔やんでいます。 寛大な御処置をお願いいたします」
「王妃様を誘拐した者に対して···ですか?」
「ユニオンビーストは心が汚れた人間とは契約しません。 それはドラグルも同じだと思います。 シャーザと彼の契約相手のゴトーは、きっとゴーダントやグドゥーに命令され、仕方なく従ったのだと思います。
彼はいずれこの国になくてはならない人材になると思います。
そして、それはゴーダントも同じだと思います。 彼は大変人望のある医者だったと聞きました。 本当の彼は優しい人なのでしょう。
ただ彼には他の人には無い能力があり、宰相と言う思いもよらない権力を得、グドゥーと言う強大な力まで手に入れてしまった事で、何かが狂ってしまったのだと思います。
しかしグドゥーは死に、妻もこうして無事だった事ですから、彼にも寛大な御処置をお願いいたします」
「おぉ······何とも心の広い御方だ。心に留め置きさす」
結局ゴーダントはカイルの申し出もあり、彼の医療技術を失うのは惜しいという事で、宰相の地位は剥奪され、城も追い出されはしたが、監視付きではあるが街で治療を続ける事を許された。 そして希望者には無償で医療知識を教える事を義務付けられた。
シャーザ達ゴーダントの側近達も鞭打ちの刑の後、階級を下げられたが、そのまま兵士を続ける事を許された。
◇◇◇◇◇◇◇
その翌日、新年に沸き返るグルタニアを後にする為、カイル達はドラゴンフライ号の前にいた。
横ではアルタニアの兵士達が馬を引き、規則正しく船に乗り込んでいる。
その光景をカイル達と一緒に見ていたグラードは「王様。 本当にあっちに乗らなくていいのですか?」と聞いてきた。
「グラードさん、カイルと呼んで下さい」
「いや···しかし······もうそういう訳には······」
「お願いします」
グラードは困ってアッシュを見る。
「こういう御方ですから······」
アッシュは頭を掻きながら苦笑いをした。
「そうか?······じゃあ、カイル。 俺達の船でまた働きながら帰りたいなんて、本当にいいのか?」
「一ヶ月も何もしないでいる方が私には苦痛です。 体を動かしている方がいいですから」
「あっちの船でも出来るだろう?」
「あの人達が私を働かせてくれると思いますか?」
規則正しくキビキビ歩き、甲板にはビシッと背筋を伸ばして並んで立っている兵士達を見た。
「······それもそうだな······しかし、変な王様だな」
グラードは何とも言えない顔で笑った。
「よく言われます」
カイルも笑った。 するとエリアスがカイルの後ろから顔を出した。
「あのう······私も何かお仕事をさせて下さいますか?」
グラードはびっくりした顔でエリアスを見る。
「王妃様もですか?! お身体の方はもうよろしいのですか?」
「エリアスと呼んで下さい。 もうすっかり元通りです。 さすがに力仕事は出来ませんが、掃除でも雑用でもなんでもします」
「えぇ~~っ······王妃様···じゃなくて、エリアスさんを働かせるのですか?······この王様有りて···だな······仕方がない。 では、厨房をお願いします」
「はい! 任せて下さい!」
エリアスが楽しそうに笑った時、ナルナラが突然カイルの胸に飛び込んできたので慌てて受け止めた。
「おっと! どうした?」
両肩にいるハリスとイザクも、両側からカイルの顔にしがみついてきて震えている。
『ド···ドラグルです』
イザクに言われて上を見ると、ザギと四頭のドラグルが降りてきて、ゴトーに乗っていたシャーザが飛び降りてこちらに走ってきた。
シャーザはカイルの前に来るなり片膝を着き胸に手を当てた。
「王様、並びに王妃様。 御目汚しだとは思いましたが、どうしても御詫びと御礼を直接申し上げたく、皆の代表としてまかり越しました。 この度は誠に申し訳ございませんでした」
シャーザは深く頭を下げた。
「そして、王様の温情ある御言葉の御蔭で早くも解放され、ゴトーと共にこの国の兵士として働くことを許していただく事が出来ました。 誠にありがとうございました。 この御恩は決して忘れません」
シャーザは再び深く頭を下げた。
「良かったですね。 これからもゴトーと共に頑張ってください」
「はっ!」
ナルナラ達三頭にしがみ付かれた状態なのが、ちょっと残念。
シャーザはゴトーの所に戻って行った。
カイルは動きにくそうにしながらニコニコして見ていたが、ザギの方に目を向けた。
「ザギも見送りに来てくれたのか?」
『いや······私もアルタニアに行く』
「えっ?······いいのか? 今はザギがボスなのだろう?」
『承諾は得ている』
カイルはナルナラ達にしがみ付かれて動きにくそうに、ザギの後ろに控えているドラグル達を見た。
「しかし······なぜ?」
『ニックに会いたい』
「もしかしてニックはザギの契約相手?」
『残念ながら違う。 しかし出来るだけ彼の側にいたい。 いなければならない気がする』
「もしかすると、いつかそこにザギの契約相手が来るのかもしれないな」
『そうなればいいな······お前達を見ていると私も契約者に会ってみたいと思う。
しかし······カイルも大変そうだな クックックッ』
三頭にしがみ付かれて動きにくそうなカイルを見て笑った。
『ザギ! 呑気に話をしていないで、あのドラグル達をどうにかしてよ!!』
ナルナラがカイルの腕の中で震えながら怒鳴った。
『ハハハハハ! ナルナラ達には奴らの気配は強すぎるか。 この子達が怖がっている。 いいからもう行け!』
ザギが振り返ってそう言うと、ドラグル達は飛んで行った。
やっとナルナラ達から解放された。 しかしザギが声を出して笑うところを始めて見た。
「ザギもそんな風に笑うんだな」
カイルが不思議そうに言うと、ザギは申し訳なさそうに言う。
『······いや······なんだ······あの頃は後ろめたい事があったから、心から笑えなかった』
「そういえば、五つ目は四頭しかいなかったな、ザギと戦った奴はまだ土の中か?」
『もちろんだ。 あの野郎、しつこく向かってくるから、完膚無きまで叩きのめしてやった。 出てくるまでは早くても一年はかかるだろう ガハハハハ!』
「ザギ······キャラが変わったな······」
『さっきも言っただろう? こっちが本来の姿だ』
「そ···そうか······私はこっちの方が好きだ」
『ハハハハハ それは良かった』
「そうだ、グラードさん!」
少し離れた所で船員と話しているグラードを呼んだ。
「どうした?」
「ザギをドラゴンフライ号に乗せてもいいですか?」
「えっ?······か···構わないが······乗るかな?······」
グラードはザギとドラゴンフライ号を見比べた。
『心配するな。 我々は転身しないとは言っていたが、船の上だけは別だ。 このままの姿で乗れる船は無い』
「そうか、それなら心配ないな。 しかし、嵐の間はどうしていたんだ? 君達がスッポリ入る箱か何かで体を固定していたのか?」
『ハハハハハ! それは面白い! いい考えだが私は御免だ。 我々は嵐の間コウモリに転身する』
ザギはコウモリの翼をピラピラと動かして見せた。
『天井の梁かベッドの手摺にでもぶら下がっていれば、目が回っても転がる事は無い。 これは私が考えた。 良い考えだろ? アルナス』
『くそう!! 羨ましいぞ! またあの地獄を通るのかと思うと、うんざりだ』
『俺も······』
ディアボロも本当に嫌そうな顔で、溜息をついた。
『そうだ! お前ら、カイルに体のサイズに合わせた箱を作ってもらえよ。 船内に顔だけ出して並べてやる。 ハ~~ッハッハッハッハ!』
ザギは面白そうに高笑いし、ユニオン達は大きな溜め息をついた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
その年の秋、カイル達はトムの家に向かう空の上にいた。
「カイル様、トムさんの家には何年も行っていないなかったような気がしますね」
そういうアッシュの前には半年遅れて結婚したアニータが乗り、横をトトントが飛んでいる。
「色々あったからな」
「エリアス様はいらっしゃる事ができなくて、本当に残念がっておられましたね」
「仕方がない。 やっと安定期に入ったとはいえ、長旅は妊婦には危険すぎるからと、医者に止められたからな。 次に来ることが出来るのは何年後になるか······」
「乳飲み子を連れてくる訳にはいきませんから、御子様が大きくなってからとなると、随分先になりそうです」
「ローゼンの子供は、女の子だったな」
「はい。 いつもデレデレの顔で話してくれます」
「可愛いだろうな······アニータさんはまだ?」
カイルはアッシュの前に座っているアニータに聞いた。
「残念ながらまだです。 早くほしいですわ。 ねっ! あなた」
「そ···そうですね······」
アッシュは真っ赤な顔で頭を掻きまくっている。 相変わらず······そして誤魔化すように前方を指さした、
「あっ! カイル様、見えてきました」
トムの家の前ではみんなが出てきてこっちに向かって手を振っている。
そして、ニックの横にはザギが座っていた。
E N D
長い間、読んで下さってありがとうございました。m(_ _)m
短い番外編をこの後載せています。
そして次の章でカイルの子供の物語も書きましたので、また楽しんで下さいね。
評価、ブクマ、レビューを頂けるととても嬉しいです。
これからもお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
杏子でした。




