7話 秘宝
カイルと父王グラントの誕生日会が行われる。
7話 秘宝
前夜祭の夜は、カイル一家とエリアス一家の六人だけで毎年恒例となっている内輪だけの誕生日会が行われる。
カイル達がプライベート用の食堂に入ると既にみんなは席に着いていたが、何故かブライト近衛隊長が部屋の隅に立っていた。
ごく普通の家の様なこの部屋は[お誕生日おめでとう]と書かれた大きな垂れ幕や手作りの花やリボンなどで飾られている。
毎年ラウレアが使用人達に手伝ってもらって豪勢に飾り付けてくれるのだ。
毎年の事ながら、やっぱり嬉しい。
これを見ると「誕生日が来たんだな」と、実感する。
カイルの足元にいるウサギを見てグラントが聞いてきた。
「カイル。 その子がナルナラか?」
「はい、そうです。 ナルナラ、お父様も言葉がわかるんだよ」
『あらそうなの? ナルナラよ、よろしく』
「タルラの森から来たのか?」
『そうよ』
「では、アルナスと知り合いなのか」
『もちろんよ』
「もちろんカイザーは知っているな?」
『カイザー?·········』
ナルナラはテーブルの向こう側にいるカイザーが見えてなかった。
『も······もしかして······この大きな気配って······』
恐る恐るテーブルを回り込むと、カイザーと目が合った。
『!!!』
ナルナラは、思わず後ろ足で立ち上がり、直立不動となった。
『は······初めて お···御目に、か···かかりまちゅ』
ナルナラは緊張のあまり、声が裏返ってしまっている。 カイル達は、笑いを堪えるのに必死だ。
イザクは声を出さずに、転げ回って笑っている。
《カイル! 言ってよね! 言ってよね! カイザー様がいるなら、そうと言ってよね!》
《知ってると思ってたし。 ククク》
ナルナラはばつが悪そうにカイルの後ろに隠れた。
◇◇◇◇
誕生日会が始まった。
ダンバートが音頭を取り、みんなが杯を掲げて「おめでとう~~」と、乾杯をした。
「さて、カイル。 今日はお前にとって特別な誕生日だ」
「特別?」
グラントの言葉にカイルは首を傾げる。
「ブライト、持ってきてくれ」
ブライト近衛隊長は布の掛かった大きな台を引いてきた。
布を取るとそこには古びた剣と盾、槍とナイフが並べられている。
グラントは立ち上がり、その台の前に立った。
「これらはこの国に伝わる秘宝だ」
「秘宝ですか? 物凄く古そうですね」
「そう。 しかし昨日までは遠い昔に作られたとは思えないほど綺麗に輝いていた。 しかし今朝、光を失った」
「どういう事ですか?」
「この秘宝は継承者を選ぶ。
昨日までの継承者は私だけだったが、お前が八歳になった今日から、お前も継承者と認められた証に秘宝が光を失った。
そして十八歳になってからお前がこの秘宝に触った時、再び光を取り戻す。 その時から継承者はカイル······お前唯一人となる」
「僕だけ?」
「そうだ。 新たな継承者が産まれ、その子が十八歳になりこの秘宝に触るまで、お前はこれらの力を使う事ができる」
「秘宝の力······ですか?」
グラントは剣を手に取り、カイルに渡した。
「その剣は[護りの剣] この剣の柄を握っていれば相手の攻撃を自ら動いて受けてくれる」
「自ら?」
「使えばわかる。 勝手に動くのだ。 しかしいくら護りの剣といえども万能ではない。
剣に使われるのではなく、この力を巧く使えるようになりなさい」
「秘宝の力を使えるように······」
今度は盾を差し出した。
「これは[癒しの盾] 文字通りこの盾に腕を通していれば傷や病気を治してくれる。 小さなケガならあっという間に治ってしまう。
今日からこの剣と盾は手元に置きなさい」
「はい!」
剣と盾を受け取ったカイルは感激の眼差しで見つめている。
グラントはカイルの反応に満足そうに頷き、今度は槍とナイフを手に取った。
「この槍は[眠りの槍] 少しでもこの槍で触った者は瞬時に眠ってしまうのだ」
アルナスは横で顔をしかめている。
「そして、眠りの槍で眠った者をこの[目覚めのナイフ]で目覚めさせる事ができる。 不思議な事に、槍もナイフも切りつけても傷がつく事はない。 しかし継承者以外の者にはこれらの能力を使う事が出来ず、只の剣であり只の槍ということだ」
「凄い·········」
「これらの秘宝をお前の誕生日の贈り物とする。 今日からは次期国王としての自覚を持って行動しなさい」
「はい! お父様。 ありがとうございます」
「そこで、誕生祭が終わったら武術訓練を始める。
秘宝の光は失ったがもちろん能力はそのままだ。 巧く使いこなせるように頑張りなさい。
勿論、国王になる為に色々必要な事もみっちりと仕込んでいくからそのつもりで。 もう遊んでる暇はないぞ」
「げっ!」
カイルはガックリと肩を落とした。
みんなはそんなカイルを見て笑い、励ました。
◇◇◇◇
「お父様。 僕からのプレゼントです」
カイルは気を取り直して、グラントに黒い皮の袋を差し出した。
グラントは「何かな?」と言いながら袋から箱を取り出し、蓋をあけた。
「こ······これは! これをどこで?」
「町の鍛冶屋のおじいさんが、大切にしていた物だそうです」
「鍛冶屋?······やはり······これを見てみろ」
グラントはカイザーに指輪を見せた。
『これは······あの方の物です』
「お父様、あの方って?」
「これは私の御祖父様。 お前の曾祖父に当たる方の物だ」
「じゃあ、鍛冶屋のおじいさんが言っていた[ある御方]って······」
「ふむ。 私が子供の頃、この指輪を付けた御祖父様の大きな手が好きだった。 しかしある時、御祖父様の手からこの指輪が無くなっていた。 どうしたのかと聞くと、腕の良い鍛冶師にやったと言っていた。
そんな指輪が巡り巡って私の元に来るなんて。
カイル、本当に素晴らしいプレゼントだ。 ありがとう」
カイルは誇らしげにエリアスと目を合わせ、ニッコリと笑いあった。
ラウレアからは二人に手作りの膝掛けが贈られ、ダンバートはグラントが前から欲しがっていた特注の[ロッキングチェア]を贈った。
「じゃあ、次は私」
エリアスは立ち上がり、カイルの首にペンダントをかけた。
丸い硬貨のような台座に三枚の葉が重なった模様が彫られ、見たことのない文字で何かが書かれている。
裏には[カイルランス]と名前が刻まれていた。
「これは私の国に伝わる御守りなの。 お願いがある時は、そこに描かれている[ホープツリー]の葉を三枚重ねて飾っておくと願いが叶うの。
それから、そこには[願いは必ず天に届く]って古代文字で書いてあるのよ」
「格好いい! ありがとう! 大切にするよ!」
カイルは本当に嬉しそうに、ペンダントをアルナスやナルナラ達に自慢していた。
「最後は私からカイル君に」
ダンバートの侍従が鞘ベルトの付いた剣と盾を持ってきてカイルに差し出した。
「これは訓練用の剣だ。 カイル君に秘宝は少し大きいからな。 グラントと相談して決めさせてもらった」
「わぁ!! カッコいい!!」
カイルは剣を抜いてみた。
カイルに合わせて少し小振りだが、軽くて振りやすい。
鞘もベルトもシンプルだが綺麗な模様が描かれており、盾にはアルナスそっくりな黒い狼の絵が彫られていた。
「凄い!······凄いや!! ありがとうございます!!」
その日は、ごく普通の家族のように、夜更けまで誕生日会を楽しんだ。
勝手に動く剣って……………
(ー_ー;)