18話 エリアスの居場所
グルタニアに到着し、情報集めを始めた。
その時、恐ろしい話しを聞く。
18話 エリアスの居場所
アルナスとディアボロが、午後から仕事を始めたカイル達を甲板で見ていると、ルーアン以外のユニオン達が全員集まってきた。
『やっとグルタニアに着いたな』
『しかし、我々は何も出来ない!』
『アルナス、そう苛立つな』
『しかしカイザー、離れていては間に合わんかもしれない』
『大丈夫だ』
『なぜそう言い切れる』
『私はカイルを信じているからだ』
そこへトルンが顔を出した。
『みんな、大丈夫だったかい?』
『やぁトルン。 忠告してくれたお陰で助かったよ。 そうだ、いいところに来た』
イザクは乗っていた木箱から飛び降りた。
『カイザー様からお話があるそうだ。 カイザー様』
『どうした?』
アルナス達と話していたカイザーが振り返った、
『前に話したトルンです』
カイザーはトルンに一歩近づいた。 するとトルンはカイザーの気配に気圧されるように一歩下がった。
『お···おいらに何か?······』
カイザーは今までの経緯を簡単に話した。
『お前はグルタニアの者だと聞いた。 仲間はいるのだろう?』
『もちろん沢山いるぞ······それが何か?」
『今話した女性を探してもらいたい』
『それくらいお安い御用だ。 ただ···今の話だと、その人は旦那と一緒にいる可能性が高い。 おいら達は旦那の近くに近寄れねえ。 恐ろしくて近づくと体がすくんでしまって動けねえからな』
『無理はしなくていい。 ドラグルと一緒か否か、それだけでも分かれば助かる』
『それなら簡単だ。 任せてくれ』
◇◇◇◇◇◇◇
翌日の昼過ぎ、グルタニアが見えてきた。
カイルは身を乗り出して前を見た。 水平線から大きな山が顔を出している。
近付くにつれ、グルタニアの全貌が見えてきた。
海から突如高い山がそそり立ち、西側に瘤のように小さな山が盛り上がっている。
思った以上に大きな島で、高い方の山は圧倒されるような高さだった。
『カイル、我々はあそこに見える島で待つ』
アルナスは港より少し西側にある木が生い茂った島を指した。
『くれぐれも、無茶をするな』
「分かっている。心配するな」
『分かっておられないから心配なのです』
「ハスランまで······エリアスを無事に助け出すまで無茶は出来ないから、本当に大丈夫だ」
『カイル······』
「カイザー大丈夫だって」
『そうではない。 トルン殿だ』
「トルン?······あぁ、助けてくれるユニオン?」
カイザーが見る積み荷の間から、小さなネズミが顔を出していた。
「君がトルンか?」
『あんたがカイルさんかい?』
「そうだ」
『へぇ~~、俺達の言葉が分かるって本当だったんだ』
「よろしく頼む」
カイルは小さなネズミに頭を下げた。
『えっ···あぁ······人間に頭を下げられるなんて初めてだ。 まぁ、人間と話すことも初めてだけど···』
ちょっと照れたように笑った。
『ではトルン、イザク、後を頼んだ。 カイル、幸運を祈る』
嫌がるルーアンを連れて、ユニオン達は飛び立って行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
グルタニアに到着した。
小さな方の山の麓にあるグルタニアの港は思った以上に大きく、かなりの大型船が数隻と、多くの小型船が停泊していた。
カイル達は荷下ろしを手伝おうとしたがグラードに追い立てられ、ギースに連れられて先に宿屋に入った。
「俺達も終わり次第情報を集めに行きます」
それだけ言うと、ギースは戻って行った。
部屋に入るとカイルの懐に隠れていたトルンが出てきた。
『何か分かれば、ここに来ればいいんだな』
トルンはドアの隙間から出て行った。 そしてカイル達も情報を集めに街に出た。
◇◇◇◇
グルタニアの人達はドラグルの事は知っていても、たまに姿を見る程度で詳しいことを知る者はいない。
分かった事といえば、ドラグルがグルタニア城に出入りしている事と、この国の国王と王妃は原因の分からない重い病気にかかって、他国に療養中だという事。
そして[ゴーダント]という宰相が摂政を務めているという事だった。
ドラグルが城に出入りしているという事は、今は留守にしている国王の指示か、宰相自身が裏にいる可能性が高い。
そんなことを考えながら宿に戻ると、船員の殆どの者は情報集めから既に戻っていた。
そして集まった情報は、カイルが集めた物とそう変わらなかった。
その時[オグリ]という船員が駆け込んできた。
「船長! 大変だ!······はぁはぁ······水······」
その男は慌てて水を飲んだ。
「何があった!!」
「12月31日に······ゴクゴク······」
オグリは残った水を飲み干した。
「12月31日と言えば、明後日じゃないか! それがどうした!」
「12月31日の昼が夜になる時に、儀式が行われるそうです!」
「昼が夜になるとは······なんだ?」
「······さあ······」
オグリは首をかしげる。
「儀式とは何の儀式だ?」
「······さあ······」
再び首を傾げた。
「お前が聞いてきたのだろう! 分かるように説明しろ!!」
「何の儀式か分かりませんが、その儀式の生贄の女を捕まえたと······」
「「「なにぃっ!!」」」
皆が一斉に立ち上がった。 そしてカイルの背中をスッと冷たいものが流れ落ちた。
胸が締め付けられる。 不安が恐怖に変わっていくのを感じ、体が震えてくる。
カイルは全身全霊をかけて取り乱さないように努めた。
「生贄だと確かに言ったのか?」
「はい」
「そんなふざけた野郎は何処のどいつだ! 何の為に!」
「す···すみません······分かりません。 そんな話をしているのを聞いただけだと言っていました」
「誰から聞いたと言っていたのだ?」
「誰と言われても······酒場で兵士がコソコソ話しているのが聞こえたと······」
グラードはカイルと顔を見合わせた。
「決まりだな」
「はい」
カイルはグッと手を握り締めた!
「そうなると城にいる可能性が高いが、グルタニア城は広い。 中を探し回る訳にもいかんだろう。 それに城の中とは限らんしな。 廃屋や山の中の可能性もある。 どうにかして居場所を探り当てる必要があるな」
「·········」
カイルはそれには答えず、イザクを呼んだ。
暫くするとイザクが戻ってきた。
『何か』
「どうだった?」
『今、トルンが大勢の仲間に頼んで町中や郊外の山の中まで探してくれていますが、やはり城にいる可能性が高いようです』
「そうか······」
その時、部屋の隅から『カイルさん』と声がした。
トルンだ。
「どうだった?」
『島中探したが、いねえ。 城の中の上の方に旦那達がいるんだが、どの部屋なのか、どの辺りなのかは調べる事は出来なかった。
でも、調べられなかったのは城の上の方だけだ。 きっとそこにいる』
「ありがとう。 助かった」
「お前、今ネズミと喋っていなかったか?」
グラードに聞かれたが、カイルは笑ってごまかした。
『カイル様······一つ気になる事が······』
「なんだ? まだあるのか? イザク」
『西にある小さい山の頂上に祭壇のような物があり、兵士の見張りが常についているそうです。 そこを見に行った時、ドラグルが兵士を乗せてその場所から飛び立って行くのを見ました』
「·········」
カイルは込み上げてくる怒りと恐怖を抑えるためにグッと目を閉じた。
しかし体の震えだけは止められなかった。
「どうした······イザクは何て言った?」
グラードはカイルの只ならぬ様子に緊張する。
「やはり彼女は城に捕らえられているようです。 それと······西の山に祭壇があると······」
「祭壇? 祭壇だと! そこで儀式とやらを行なうと言うのか?!」
カイルは急に立ち上がった。
「グラードさん、皆さん。 本当にありがとうございました。 後は私達で何とかします」
カイルは深々と頭を下げると、さっさと部屋に上がって行った。
アッシュとローゼンも頭を下げてから、呆気に取られているグラード達を残し、慌ててカイルの後を追った。
◇◇◇◇
「カイル様、どうしたのですか?」
部屋に入るとカイルは頭を抱えるようにベッドに座り込んでいる。
「エリアスを拉致したのは、どう考えてもグルタニア国だ。 これ以上グラードさん達を巻き込むわけにはいかない」
「そうですね。 それにもう十分すぎるほど善くしていただきました。 これからどうします? もう時間がありません」
カイルは考え込んだ。
「イザク、ザギの気配は探せるか?」
『可能です』
「エリアスはザギと一緒にいるような気がするんだ。 その時に城の様子も探っておいてくれ。 明日の夜に忍び込む······いいな。 アッシュ、ローゼン」
カイルは二人を見上げた。
二人は「もちろん」と、ニッと笑った。
「カイル様、必ず助け出しましょう。 必ず上手くいきます」
「ああ」
カイルも無理に笑って見せた。
エリアスの居場所が分かった。
城に忍び込んでエリアスを助ける事が出来るのでしょうか?
(;゜0゜)




