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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第二章 レジェンド・オブ・レジェンド
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15話 ドラゴンフライ号

いよいよ船旅が始まった。

たまたま一緒になったトルンというユニオンビーストと知り合う

 15話 ドラゴンフライ号




 波一つない真っ黒な海面の上にカイルは立っていた。


 沖の方をずっと見つめていると、遠くの方の海面が急に盛り上がってきた。

 すると突然強い風が吹き寄せ、今まで凪いでいた海面が荒れ狂い始めた。


 上下に波打つ海の上にいたカイルは立っている事が出来ず、右へ左へ転がされる。

 転がりながらも先程盛り上がった場所が垣間見えた。


 その辺りだけ波はなく、薄明かりに照らされたその盛り上がった海面から、何かがゆっくりと浮き上がってきた。


 それは仰向けに横たわる女性だった。 エリアスだ!


 今度はエリアスの向こう側の海面が(わず)かに泡立ち、そこから黒いフードをすっぽり被った男がゆっくりとせり上がってきた。


 フードの男の後ろには巨大な影が大きく翼を広げているように見え、カイルの恐怖を一層駆り立てた。


「エリアスを離せ!!」


 大きくうねり続ける波の上を転がりながら、カイルは必死でエリアスに近付こうとするが、一向に前に進めない。


 その時、虚ろな顔で上を向いていたエリアスの顔が、ゆっくりこちらを向いた。 


「カ·イ·ル······た·す·け·て······」



 フードの男の口元がフッと緩んだ。

 そして胸元からキラリと光るナイフを取り出し、両手で握られたナイフをゆっくり頭の上に振り上げた。


「やめろ! やめてくれ! お願いだ!!」


 カイルは転がりながら必死で懇願したが、その言葉は男に伝わる事はなく、振り上げたナイフをエリアスの心臓めがけて振り下ろされた。


「やめろぉ~~~っ!!」


 カイルは手を前に出したまま起き上がった。





「カイル様 大丈夫ですか?」


 ベッドの横には心配そうな顔のアッシュとローゼン、そしてアルナスがカイルを覗き込んでいた。


「あぁ······また、あの夢か······」


 カイルは(つぶや)き、手の甲で額の汗を拭いたが、その手が震えている事に気が付いた。


「すまない······大丈夫だ」


 カイルは再び横になり、アッシュ達に背を向けて布団をかぶってしまった。


 アッシュとローゼンは心配しながらもベッドに戻り、アルナスがカイルの枕元に頭を乗せた。


《カイル······大丈夫だ······絶対大丈夫だ》


 カイルは向きを変え、アルナスの顔を見た。


《アルナス······いやな夢を見た······エリアスが殺される夢だ。 私は恐ろしい······エリアスを失ったらどうしよう······》

《大丈夫だ。 決してそうはならない······カイルが助け出すのだろう?

 自分を信じろ。 協力してくれる沢山の仲間を信じろ。 絶対に大丈夫だ······絶対にそんな事にはならない》

《······うん······》


 カイルはアルナスの首に腕を回し、目を閉じた。




   ◇◇◇◇◇◇◇◇




 翌朝ドラゴンフライ号に行くと、ギースが待っていた。


「カイルさん、おはよう。 イザクちゃんもおはよう」


 イザクはカイルの肩からギースの肩に飛び乗った。


「ハハハハハ、来てくれたか。 やっぱり可愛いなぁ」


 イザクはギースを気に入ったというより、自分達が他の人に可愛がられると、カイルの心がパッと明るくなるのが嬉しかった。



「こちらはアッシュさんでしたね。 そちらは?」

「ローゼンです。 よろしく」


 ローゼンの肩には大ミミズクの姿をしたグーリが乗っている。


「このミミズクがローゼンさんと契約している······」

「グーリです」

「可愛いですね······で······アッシュさんが連れている子が」

「ディアボロです」


「·········あぁ、船室にご案内します」 


 とりあえず、スルー。




 案内された部屋は二段ベッドが三つ置いてある六人部屋だったが、もちろんカイル達だけだ。


「後で船長の所に来てください。 上の操舵室にいます。 では······イザクちゃんまたね」


 ギースはベッドの上に飛び乗ったイザクに手を振って出て行った。




 カイル達は荷を置くと直ぐにグラードの所に行った。 ギースも既にそこで待っていた。


「やぁ、来たか」

「ローゼンです。 よろしく」

「おう。 それでは三人とも、今から只の船員として働いてもらうから、そのつもりで」

「「「はい」」」


「お前らの仕事はギースが教えてくれる。 分からないことがあれば何でも彼に聞け」


 カイル達はギースに連れられ、船室を出て行った。

 ギースは船内をくまなく案内してくれた。 どこも磨き上げられ、塵一つ無いのには驚いた。 




 ユニオン達は甲板やマストの上など、思い思いの場所で船員達の邪魔にならないようにしていた。


 アルナスとディアボロは甲板の隅に座っていた。



『あんた達、どっから来たんだい?』


 どこからか声がした。 小さな気配を辿ると、積んである木箱の間から小さなネズミが顔を出していた。


『そういうお前はこの船が住処なのか?』

『いやいや、おいらはグルタニアのもんだ。 ちょいとあっちの町に遊びに行ってたんだが、やっぱり戻ろうと思ってな。

 あんた達はこの辺りの()()じゃないだろう? こんな大きな気配は旦那達以外はないからな』


『旦那? もしかしてドラグルの事か? ドラグルを知っているのか?』

『もちろん。 グルタニアでドラグルの旦那達を知らないユニオンはいねえよ』

『ザギを知っているか?』

『ザギ? 誰でぃそれは? もしかして旦那のうちの誰かか?』

『そうだ』


『残念だが知らねえな。 旦那達の事は知っているが、友達じゃねえからな。 遠くでチラッと見るだけだ。 旦那達には恐ろしくて近づけねえ』

『俺達には平気で近づいているじゃないか。 気配の大きさは大して変わらないだろう?』


『あんた達の気配は何て言うか······温かくて優しい。 どちらかというと近付くと安心する。 でも旦那達の気配は、何だかいつもピリピリしていて恐ろしくて体がすくんじまう。

 あぁ······そいうえば、旦那のうち一人だけ、あんた達ほどではないが、あったかい気配の旦那がいたな······』


『それはきっとザギだ。 ザギの気配は我々と変わらなかった。 それが普通だと思っていたが、きっと他の奴の気配は違うのだろう』

『そうだな······』


 その時、船員がアルナス達の所に近づいて来た。


『おっと! いけねえ、またな』


 ネズミはサッサとどこかに消えて行った。


「よお、アルナス、ちょっとごめんよ」


 船員は先程までネズミが顔を出していた木箱の一つを抱えて行った。





 アルナス達の目線の先にはカイルとアッシュが働いていた。

 ローゼンはどうやら厨房の手伝いに引っ張って行かれたようだ。 実は料理が好きな彼は、家でもよく奥さんの手伝いをするらしい。


 厨房にグーリは入れてもらえないので、仕方なく厨房の入り口の上に止まっていた。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日もカイル達や船員達が忙しく働くのを見ながら、アルナスとディアボロと、今日はイザクも一緒に甲板の隅に座っていた。



 昨日のネズミが顔を出した。


『やぁ!』

『船旅はどうだい?』

『悪くない』


 アルナスが答えた。


『ふふん······そう言っていられるのも今のうちさ』

『まあ、海が荒れる日もあるだろう』

『あんた達の中には鳥は入っているのかい?』

『鳥?···ああ······私とこいつは』


 アルナスはディアボロを見た。


『そりゃあお気の毒に』

『どういう事だ?』


『グルタニアに近づくと嵐の中を通る。 その中に入ると大変みたいだ。 おいらはちょいと目が回る程度だが、飛翔系の獣が入っている奴は大変みたいだぞ。 上と下がひっくり返るみたいになるらしい』

『どういうことだ?』


『前にこの船に乗った[鳩]が入った奴が言ってたんだが、嵐の間ずっと坂道を転がっているみたいなんだと。 床に這いつくばってみても、知らない内にまた転がっているらしい。 そこで何とか積み荷の間に挟まってどうにかやり過ごしたと言っていた。

 せいぜいケガをしないように気を付けな』


『忠告ありがとう。 ところで、お前の名は?』

『おいらはトルンだ』

『私はアルナス。 こいつがディアボロで、そっちがイザク』

『そうかい。 一ヶ月一緒の船旅だ。 また話し相手になってくれや。じゃあな』




 トルンは人間の気配を感じて、どこかに行ってしまった。





毎晩のようにみる悪夢にカイルは怯える。

可哀想に

(。´Д⊂)

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