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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第二章 レジェンド・オブ・レジェンド
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12話 港町ラングリー

ザギを追って港町ラングリーに着いた。

気持ちだけが焦る。

 12話 港町ラングリー




 六日目の夕方、海が見えてきた。


 夕日に照らされキラキラ輝く海面の遥か先に水平線が見える。 エリアスはあの水平線の先にいるのかと思うと胸が張り裂けそうだ。


 目に見えない敵がそこにいるかのように、カイルは水平線を(にら)みつけた。





 大きな港町が見えてきたので少し手前で降り、歩いて町に入った。




 ここは[ラングリー]という港町。 この町にはユニオンビーストと歩いている人はいない。


 狼はまだ大丈夫だが、グーリの大きなゴリラの姿は周りの人が驚くのでミミズクの姿でローゼンの肩に止まっている。


(グーリは転身すると、顔は山羊の角が生えたマンドリルで、赤や青の模様があり、体はゴリラ。ミミズクの翼と黒豹の長い尾が二本生えている)




 思ったより広い町を横切り波止場に着いたが、その頃には既に日が暮れていた。


「カイル様、情報を集めて来ます。 ここでお待ち下さい」


 アッシュとローゼンは走っていった。



 カイルはそこに置いてあった木箱に腰掛け、海を見つめた。


「ルーアン······エリアスの様子はどうだ」


 カイルは海から目を離すと二度とエリアスと会えなくなってしまいそうな気がした。 白く泡立ちながらザザッと音を当てて打ち寄せる波の先を見つめたままでルーアンに聞いた。


 真っ白い犬の姿のルーアンもまた、水平線から目を離さないで答えた。


『変わらないわ······あっちの方だという事だけは分かるのだけれど······』




   ◇◇◇◇◇◇◇◇




 先程までの波の音が突如消え、波一つない真っ黒な海面の上にカイルは立っていた。


 沖の方をじっと見つめていると、遠くの方の海面が急に盛り上がってきた。 すると突然強い風が吹き寄せ、今まで()いでいた海面が荒れ狂い始めた。


 上下に波打つ海の上にいたカイルは立っている事が出来ず、右へ左へ転がされた。

 転がりながらも、先程盛り上がった場所が垣間見えた。


 その辺りだけ波はなく、薄明かりに照らされたその盛り上がった海面から、何かがゆっくりと浮き上がってきた。


 それは仰向けに横たわる女性なのだが、よく見るとエリアスだった。



「エリアス!!」



 ハッとして目が覚めた。 うたた寝をしていたのだ。


 カイルは両手で顔を擦り「······夢か······」と、呟いた。




 そこへアッシュが戻ってきた。


「カイル様、この海の先には[グルタニア]という島国があるそうです」

「グルタニア······」


「なぜだか分からないのですが、グルタニアは常に嵐のように荒れ狂う海に囲まれていて、その嵐に近寄ると、鳥は平衡感覚を失い飛ぶことが出来なくなるのだそうです」

「それでか······しかし、そんな海を船は行けるのか?」

「経験の多い船長が舵を握る大型船なら可能だそうです。

 グルタニアにはこちらには無い資源があるらしく、こちらからも多くの物資を積んで商船が行き来しているそうです。

 丁度その商船がこちらにいて、三日後の早朝出発だそうです」


「······三日後······」

挿絵(By みてみん)

 カイルは目に見えて落胆した。


「申し訳ありません。 明日にでも出航してもらえないか、それとも他に船を出してもらえないか頼んだのですが、ダメでした」

「いや······ご苦労だった」

「それともう一つ······言いにくいのですが······船に乗せてもらうには条件が······」


「条件?」

「船員として働けと······」

「そんな事か。 もちろん構わない。 じっとしているよりその方が助かる。 それで、何日ほどで着くのだ?」


「それが······一ヶ月程かかるそうです」

「一ヶ月···か······」

「すみません!」


 アッシュは90度に頭を下げた。


「アッシュの責任ではないのだから、頭を下げたりしないでくれ」

「はい······すみません···あ······」


 そこへローゼンが走ってきた。


「カイル様、やっと宿が取れました。 昨日、数隻の商船が着いたとの事で人が多く、どこもいっぱいでなかなか空いていなかったのですが、やっと無理を言って空けてもらいました。

 三人一緒の狭い部屋しか取れませんでした。 すみません」


 ローゼンも頭を下げた。


「ローゼンまで······頭を下げないでくれ。 ご苦労だった」

「それが、この国では基本ユニオンも含めて動物は入れないそうで、アルナスだけは一緒に入る事を許してもらえたのですが、他のユニオン達は外にいてもらわなければいけません······力不足で本当にすみません」

「そうか······」

「すみません」


 またローゼンは頭を下げた。

 カイルは「ふぅ~~っ」と大きく溜息をついた。


「アッシュ、ローゼン、あまり気を使われると余計に気が滅入る。 いつも通りにしてもらえないか」


 アッシュとローゼンはハッとして顔を見合わせ「「すみません」」と、再び頭を下げてから「「あっ!」」と言って顔を見合わせた。 


 アッシュは頭を掻き、ローゼンもつられるように頭を掻いている。 それを見たカイルは思わず「プッ」と吹き出した。


「さあ! 案内してくれ!」



 カイルは立ち上がり、二人の肩を叩いて促した。



 ◇◇◇◇




 翌朝、宿の一階の食堂で朝食を食べた後、アッシュとローゼンは情報収集と買い出しに出かけた。


 一人になったカイルはアルナスと宿を出た。 すると直ぐにイザクが駆け寄り、肩に乗ってきた。


「イザクおはよう。 みんなは?」

『あちらに』


 イザクは上を指差した。

 そこには大小の鳥が三羽止まっていた。


「みんな、おはよう······ルーアンは?」

『海辺に』

「そうか······」




 カイルは歩き出した。



 入り組んだ路地を抜けると大通りに出た。 沢山の人が歩いていて、馬車や牛車、荷車が忙しく行きかっている。


 カイルは海に向かって足を進める。



 途中で何人かに話を聞いてみた。



 この国は[レイドン国]


 そして、レイドン国を挟んで西と東に大きな国と、グルタニア以外にも幾つかの島国があり、この港町ラングリーは貿易の中心になっているという。


 まだまだ世界は広い。知らない国が幾つもあるのだ。




 港に出ると大小の船が何隻も接岸されていて、沢山の人が荷を下ろしたり運び入れたりと忙しそうに働いている。



 ルーアンが白鳥の姿で倉庫の上にとまっている。 その横にカイルを追いかけてきたカイザーたちが並んでとまった。




 忙しそうに行き来している沢山の人達の間を縫って、接岸されている船を見ながら歩いた。 その中に【ドラゴンフライ号】と書かれた一段と大きな船があった。

 思わず立ち止まり見上げていると「見かけない顔だな」と、後ろから声をかけられた。


 振り返ると顔中ヒゲだらけの大男が立っていた。

 カイルも背が高い方だがそれ以上の長身で、ガッチリしているので小山の様に大きく見える。



『髭を生やした時のウォルターさんに似ている』などと、ふと思って笑みがこぼれた。



「俺の顔がおかしいか?」

「あっ! 違います、すみません······知り合いに似ていたもので······大きな船ですね」


 カイルはドラゴンフライ号を見上げた。


「おう! これくらいの大きさがないとあの海は越えられねえ。 もしかしてお前、明後日この船に乗る奴の仲間か?」

「あ······この船はグルタニアに行く?」

「そうだ」


 カイルは手を差し出した。


「明後日からお世話になるカイルです。 よろしく」


 男は大きなゴツゴツした手でカイルの手を握り締めた。


「この船の船長をしているグラードだ······そいつらか? アッシュが言っていた動物達とは······犬じゃなくて狼か? それに珍しい猿だな」

「他にもいます」


 カイルはルーアンとカイザー達が止まっている倉庫の屋根の上を指差した。


「彼ら以外にまだ二頭います」


 グラードは驚いた顔をしてカイルを見た。


「鳥を······飼っているのか?」


 白い(わし)白鷺(しらさぎ)(はやぶさ)。 そして白鳥までが並んで屋根に止まっているのは何だか不思議な光景だった。


 カイルは「まあ」とだけ答えた。


「あんたは動物使いか何かか?」

「いいえ···彼らは友人です」

「友人?······まあいい。 ここで何してるんだ?」

「特に何という訳でもなくブラブラと······」

「そうか······おっと! こんな所で油を売ってる場合じゃなかった。 じゃあ、明後日な」


 グラードが行きかけると「グラードさん!」とカイルが呼び止めた。



「何だ? まだ何か用か?」

「もしよろしければ、今日からお手伝いしてもいいですか}

「そりゃあ構わんが、きついぞ」

「どうせ暇ですし、体力には自信がありますから」

「じゃあ、ついて来い」

「はい!」


 カイルはハリスを呼んだ。


『何か?』

《アッシュさんに私がこの船にいることを伝えておいてくれ》

『承知しました』


 ハリスは飛んで行った。


《アルナスとイザクはここにいてくれ》

「おい! 何している、来るなら早く来い!」

「はい! 今行きます!」


 カイルはグラードの所に走って行った。



『カイル様······じっとしていられないのですね』


 グラードの後をついて歩いていくカイルの後姿を見てイザクが言った。


『·········』



 アルナスも心配そうにカイルの後姿を見つめた。









気の良さそうなグラードさん。

先に進みたくても進めないカイル。

可哀想。

。・゜゜(ノД`)



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