11話 追跡
トムの農場に着いたカイルはエリアスが連れ去られた事を知る。
11話 追跡
朝靄の中を、カイル達はトムの家に向かっていた。
ローゼンが前を飛ぶカイルを見ながらアッシュに話しかけてきた。
「カイル様は凄い人気だな」
「人間とユニオンの救世主だからな」
「御人柄も素晴らしい」
「うん あの方の為なら死ねる」
「私もだ」
「死んだらアニータさんが悲しむぞ。 ローゼンももうすぐ子供が産まれるのだろう? 二人とも命を大切にしてくれ」
突然カイルが話しに入ってきた。
「まぁ、この平和な世で命を掛ける事などなさそうだけどな」
「本当にそうですね。 ハハハハ」
「ハハハハハ」
◇◇◇◇
トムの家の前に舞い降りると、ニックが飛び出してきた。
「カイル兄さん、お帰り!······あれ?······ザギは?」
「ザギ? 一緒に留守番していたのではないのか?」
「えっ?······あれ?······エリアスさんとルーアンは?」
「エリアス?······エリアスもいないのか?」
ニックの顔からサッと血の気が引いた。
「母さん!! エリアスさんもザギも、兄さんと一緒じゃないって!!」
ガッシャンガラガラ! と何かがひっくり返る音がして、汁を滴らせた掻き混ぜ棒を握り締めたサラと、パンを持ったままのトムが慌てて出てきた。
「カイル! エリアスさんと一緒に城に行ったんじゃなかったのかい?!」
「エリアスは来ていません。 どういう事ですか?」
「あ···いや······昨日カイルの見送りエリアスさんは表に出ただろう? あのまま戻ってこなかったから、てっきりカイルと一緒に行ったのだとばかり······そうだ・······あの後表で何か音がした気がしたから表に出たんだ。 でもエリアスさんもザギもいないから、てっきり······」
カイルは何とも言えない不安に胸が押しつぶされそうになった。 その時、ハリスの声がした。
《カイル様! ルーアンです!》
慌ててハリスの姿をを探すと、トウモロコシ畑の上空を飛んでいる。 急にカイルが走り出したので、みんなが慌てて後を追う。
ディアボロが一番にトウモロコシ畑に飛び込み、中程にルーアンが倒れているのを見つけた。
『ルーアン! 大丈夫か! ルーアン!!』
ルーアンは動かないが息はある。 カイルが追い付いてきた。
「あっ! ルーアン!! しっかりしろ!!」
カイルが揺すると、ルーアンが目を開けた。
『う···ううん······あれ?······ディアボロ様······みんなもどうしたの?」
「しっかりしろ! 何があった! エリアスはどうした!」
『エリアス?······あっ! ザギが! ウッ!』
ルーアンは起き上がろうとしたが、痛みで蹲った。
「大丈夫か? ルーアン。 ザギがどうしたんだ! 何があった?!」
『ザギが突然、エリアスを掴んでどこかに連れて行こうとしたから、私···止めようとしたの······追いかけて······でも、一撃でやられてしまって······」
「ザギが? なぜ?······」
考えても答えが出るはずもない。
「仕方がない、ザギに敵う筈はないんだ······それよりもルーアン、エリアスはどこにいる?······無事か?」
ルーアンは南の方を見た。
会話をしているのか、いつまでも黙ったままだ。 カイルはしびれを切らしてルーアンの肩をつかむ。
「ルーアン、エリアスは?」
『エリアスは······多分···無事······』
「多分?」
『無事······だと思うわ······でも変なの······ぼやっとしているの······エリアスの気配がとても掴みにくいの』
「気絶しているのか?」
『違う······心が見えないの』
「見えない? ルーアンを呼んでいないという事か?」
『違うの! 心がないの!』
「無い?······無いとはどういう事だ?」
『分からない! 心が空っぽなの!! 見つけられないの!!』
ルーアンは恐怖に引きつった顔で助けを求めるように、カイザーを見上げた。
『カイル、もしかしたら、何か術でもかけられているのではないか?』
「コーヴの時のような操る術か?」
『分からないが、そうとしか考えられない』
「術を······という事は、人間が裏で糸を引いているという事か······とにかく追うぞ! こっちの方角でいいのだな」
カイルは南を指した。
『多分······』
「飛べるか?」
『翼は何ともないから、大丈夫』
「アッシュ! ローゼン! ザギを追う!!」
カイル達はルーアンを先頭に飛んで行った。
トム達は茫然とカイル達を見送った。
◇◇◇◇
ハスランの上でカイルは考えた。
なぜザギはエリアスを連れ去ったのか······もしかして各国にいたドラグルはエリアスを探していたのか?······と、いう事はザギは心を許したふりをしてエリアスを連れ去る機会をうかがっていた事になる·········
そういえば、前にアニータさんがトトントに乗っていた時にザギが来たと言っていた。 遠目で見ると、転身したトトントとルーアンは似ている。
ドラグルは白いユニオンと契約している女性を探していたのかもしれない。
そう考えると彼らの行動に納得がいく。
彼らは人間を観察していたのではなく、探していたのだ。
裏で糸を引く人間······そいつがエリアスを必要としているのか······
なぜ?······何の為に?······エリアスを連れ去って何をするつもりなんだ!······
なぜエリアスなんだ!!
カイルはハスランの鬣をグッと握り締めた。
「···様······カイル様」
アッシュに声を掛けられ、我に返った。
「えっ?」
「大丈夫ですか?」
「···あぁ······」
「エリアス様はきっと御無事です。 必ずお助けする事が出来ます」
「······うん······」
「カイル様、こちらはアルタニアの方向です。 一度城に戻りましょう」
「そうだな······それがいい。 ザギを含め、最低でもドラグルは六頭いる。 それに後ろに人間がいるのだとすれば、ザギの国の人間だろう。 契約している者もいると言っていたから、あれだけのドラグルを動かすなら、それなりの人間の可能性が高い。 兵がいると考えておいた方がいいだろう。
私達だけでは手に負えない。 兵を整え後から来てもらうよう手筈をしてくれ。
ナルナラを案内役に置いていく」
とにかくカイルは冷静に考える事に全神経を集中した。
「そうだ······ザギは島国だと言っていた。 そして話してはくれなかったが、どういう訳か空を飛んでその島には行けないような気がする。 兵達を乗せる船の用意も必要になるはずだ」
「確かそのあたりに詳しい者がいました。 私はその者と話してきます。 カイル様はハミルトン殿に説明を、ローゼンは兵の準備の指示をしに行ってくれ」
「分かった!」
「指示だけ伝えたら、私達は先行してザギを追う」
◇◇◇◇
カイル達は休まず飛び続け、アルタニアに入った。
城壁を越えると直ぐにアッシュの前にトトントが飛んで来た。
『ディアボロ様~~! 予定の日に戻って来なかったから、アニータが心配して·····』
「トトント!いい所に来た。 詳しい話は出来ないが、暫く留守にする。 アニータさんに伝えてくれ! 頼んだ!」
驚くトトントを残して大広間のテラスに舞い降りたアッシュ達は、そのまま城内へ駆け込んで行った。
三人は指示を終えると旅の準備を整え、再びテラスから飛び立った。
カイルの手には眠りの槍が握られていた。
◇◇◇◇
五日間エリアスの気配を追って南に向かって飛んだ。
途中で寄った町で聞くと、ザギ達ドラグルは確かにこちらの方向に飛んで行ったそうだが、確実に距離は開いていっていた。
エリアスを見つけられるのでしょうか?
!!ヽ(゜д゜ヽ)(ノ゜д゜)ノ!!




