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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第二章 レジェンド・オブ・レジェンド
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9話 拉致

カイル達はクレモリス国王に呼ばれて、農場を留守にする。

その時、ザギが······

 9話 拉致




 アルタニアに戻る予定の前日、カイザーやハスランも既に戻ってきており、収穫も一段落したので、外で簡単な祝杯を挙げていた。 するとそこにローゼンがグーリに乗ってやって来た。


「王様···あっ······カイル様、これを」


 カイルは外では「カイル」と呼んでほしいと皆にお願いしている。


 ローゼンが手渡したのは、どこかの国からの書状のようだ。



「クレモリス国王からです。 ハミルトン殿がカイル様がこちらの国を出発される前に、これを御渡しするようにと」

「この国の王様から?」


 カイルは書簡を開いて目を通した。



【前略······急ぎの用事という訳ではございませんが、御近くに御越しの際には、あなた様の契約されているユニオンビーストの皆様と御一緒に是非私の城に御越し下さい······後略】


「何の用事かな?」

「私には分かりかねます」

「仕方がない。 帰りを一日延ばして明日会いに行くか。 私の帰りが一日遅れる事を皆に伝えておいてくれるか」


「ハミルトン殿がカイル様は必ず招待に応じられるはずだからと、既に通達を出しておられますのでご心配には及びません」

「さすがだな。 エリアスも一緒に行くか?」


 エリアスに簡単に説明した。


「私は遠慮するわ。 あの方は苦手なの。 そうだサラさん、前に言っていたシフォンケーキの作り方を、明日教えてもらえます?」

「そりゃぁ構わないけど、一緒に行かなくてもいいのかい?」

「大丈夫です」


 エリアスは肩をすぼめ、振り返ってニッコリと笑った。


「そういう事だから、明日はおいしいシフォンケーキを作って待っているわ」


 無邪気にそう言うエリアスを見て、カイルは苦笑した。


「私もあの方は苦手だが、前に世話になっているので無下には出来ない。 仕方がない、私達だけで行ってくるか······そうだ、ザギはどうする?」


 少し離れた所にいるザギに大声で話しかけた。


「ニックと一緒に行くのか?」



 明日、トムとニックは近くの畑の応援に行くことになっている。



『······いや』

「では、私達と一緒にこの国の城に行かないか?」

『······ここにいる』

「そうか。 まぁ、何かあるとは思えないが、ザギがいてくれれば安心だ。 エリアスを頼む」

『·········』

「ザギさん、よろしくね」


 エリアスがザギに手を振った。


『·········』





「なぁアッシュ。 どういうことだ? どうしてドラグルがいるのだ?」


 ローゼンがアッシュに顔を寄せて小声で聞いてきた。


「来る途中に出会って、カイル様が一緒に来るように誘ったんだ。 そしたらついてきた。 ドラグルは凶暴だと聞いていたが、付き合ってみると不愛想だが穏やかでいい奴だぞ」


 そんなローゼンを見て、カイルはローゼンとグーリをザギの所に連れて行った。


「彼はザギ。 ザギ、この人はアルタニアの第二騎馬隊隊長のローゼンと、彼と契約しているグーリだ」


 じっとローゼンを見下ろすザギを、ローゼンはポカンと口を開けて見上げていた。


「ローゼン、口が開いてるぞ」


 アッシュに肩を叩かれローゼンはハッとした。


「お·····おお·····近くに来ると、思った以上にでかいな·····グーリも五つ目ででかいと思っていたが、三倍近くはありそうだ·····もしかして、アルタニアにいたドラグルか?」

「そうだ」

「どうりで最近見ないと思った········本当に大丈夫なのか?」


 ローゼンはアッシュの耳元で囁いた。


「大丈夫だよ。 ここの息子などはザギに抱えて飛んでもらったりしているし、笑うところも何度も見たんだ」

「へぇ~~~そうなのか。 味方となると頼もしいな······」



 ローゼンはハッとして、カイルの前に(ひざまず)いた。


「カイル様、私は一足先にクレモリス城に行き、明日カイル様が登城される事を伝えて参ります」



 ローゼンはグーリに乗って飛んで行った。

 


  ◇◇◇◇◇◇◇



 翌朝、朝食を食べ終わるとトムとニックはセリーヌを連れて収穫の応援に出かけた。

 カイルとアッシュも正装に着替え、部屋から出てきた。 サラとエリアスは片づけをしている。


 カイル達を見て顔を上げた。


「もう行くのかい?」

「はい」

「気をつけてね。 あぁ、エリアスさん。 ここはいいから見送りに行っておいで」

「すみません。直ぐに戻ります」

「ついでにちょっと厩舎(きゅうしゃ)に寄って来てくれるかい? 今朝、子牛の乳の吸いが悪かったってニックが言っていたから、ちょっと様子を見てきておくれ」

「分かりました」



 エリアスは、カイルの後を追って表に出た。



「行ってらっしゃい。 気をつけてね」



 カイルは「行ってきます」と言って、エリアスの頬にキスをし「エリアスを頼む」と、ルーアンの頭を撫でた。


 そして、少し離れた所からこっちを見ているザギに「今日は遅くなるかも知れないが、エリアスを頼む」と、手を振ってからハスランに乗り、王都に向かって飛んで行った。





 エリアスはカイルが見えなくなると少し離れたと所にいるザギの前まで行った。


「子牛を見に行くのだけれど、一緒に行きましょ」


 そう言うと、ルーアンと厩舎の方に歩いて行った。



 ザギはその後ろ姿をじっと見つめ、南の方に目をやって少し考えていたが、小さく溜め息をつくと、エリアスのいる厩舎にゆっくりと向かった。




 ザギが厩舎の入口から頭を突っ込んで中を見ると、エリアスとルーアンがニコニコしながら子牛を見ていた。


 ザギに気付いたエリアスが走って来た。



「フフフ、今、赤ちゃんを見たら、凄い勢いでお母さんのお乳に吸い付いていたわ。 心配なさそうなので戻りましょ」




 エリアスが厩舎を出ようとしたが、ザギが入口を塞いでいるので出られない。


「?····ザギさん。 そこにいると出られないわ」


 ザギはエリアスを見つめ、横にいるルーアンをチラリと見た。



「ザギさん?」

『········』


 ザギは一歩下がって道を開けた。



「フフフ、もっと赤ちゃんを見ていたかった? でもサラさんが心配しているから、大丈夫よって早く知らせてあげないとね」


 エリアスがザギの前を通り抜けようとした時、ザギの鋭い爪を持った前足が、そっとエリアスを掴んだ。


「あら? ザギさん? 今は相手してあげられないわ······?······ザギさん?」



 ザギは南の方を見ると、大きく翼を広げ飛び上がった。



『ザギ!! エリアスをどこに連れて行くつもり?!!』


 ルーアンは転身し、慌てて追いかけた。



 ザギはルーアンを待っていたかのようにゆっくり飛んでいた。 

 そして慌てて飛んできたルーアンが近付くと、長くて太いワニの尾をルーアンに向かってバシッ! と思い切り打ち付けた。


 吹き飛んだルーアンは(きり)もみしながらトウモロコシ畑の中にズドドッ!! と、叩きつけられて動かなくなった。


「キャァ~~ッ!! ザギさん。 何するの?!!」



 ザギはエリアスの言葉が耳に入っていないように、暫くルーアンを見ていたが『すまない·····』と(つぶや)き、南の空に消えていった。





 朝食の片付けをしていたサラは、ズドンッ! という音が聞こえた気がして洗い物の手を止め表に出た。


「エリアスさん。 何か音がしなかった?······あれ?······ルーアン!······ザギ?······誰もいないね······」

 

 サラは厩舎の方に行ってみた。 しかし誰の姿も無かった。


「そうか。 やっぱり離れるのが嫌だったんだね。 カイルと一緒に王都に行ったのか。 ザギも行かないって言ってたみたいなのに······まぁいいか。 でも、行くなら一言言ってくれればいいのに······」


 サラは何も疑わず、家に戻って行った。






「ザギさん! どうしたの? お願いだから戻って! なぜこんな事をするの? ザギさん!!」


 エリアスがいくら言ってもザギは聞く耳を持たず飛び続け、小さな山を二つ越えた大きな山の中腹辺りに降り立った。




 そこには山小屋があり、その周りには、五頭のドラグルがいた。

 五つ目の彼らはザギより二回りは小さく角がない。 そして五頭共微妙に色合いが違う。


 ザギの気配を感じたのか、中から五人の男達が飛び出してきた。


「この女か! ザギ、やったな! どうにか間に合いそうだ」


 男達がザギに掴まれているエリアスを取り囲んだ。


「あなた達は何者です! なぜこんな事をするのですか!」

「ほぉ~······気丈なお嬢さんだ。 おい! 仲間を呼ばれる前に薬を飲ませるから押さえろ」


 一人の男がエリアスの両手と頭を押さえると、先程の男が腰の袋から小瓶を取り出し、中の液体をエリアスに無理矢理飲ませた。 ザギに掴まれたままなので身動きが取れない。


「ゴホッ!······何をするのですか! 何を飲ませたのですか!」


 薬を飲ませた男はニヤニヤしながらエリアスを見ている。


「どうせこのまま何も分からずに死ぬんだ。 自分が何をされるのか教えてやろう。 この薬を飲むと心が無くなるそうだ。 だからお前と契約しているお友達は呼べなくなる。

 そしてお前はゴーダント様の為に生贄になるんだ」

「生···贄······?」


 その言葉を聞いて、エリアスから血の気が引いた。


「なぜそんなバカな事を···ザギさんお願い······カイルの所へ······帰し···て

······お願い······ルーアン······私は···ここ···よ······カイル

······た······す·········け·········」


 エリアスの目から涙が一筋流れ落ち、そして意識がなくなった。




「薬が効いてきたみたいだな。 女、右手を上げろ」


 焦点の合わない目をしたエリアスはゆっくり右手を上げた。


「手を下せ」


 今度も言われるまま手を下した。


「よし! もう大丈夫だ。 これでこの女は俺達のいいなりだ······今は昼過ぎだから、次は夕方に飲ませればいいんだな。 ザギ、女を放してもいいぞ」


 男にそう言われたが、ザギはエリアスを放そうとしない。


「ザギ! 女を放せ!」


 それでもザギは放そうとせず、男を(にら)みつける。


「シャーザ、どうなっているんだ?」


 シャーザとは、この男達の中でただ一人、赤みがかったドラグルの[ゴトー]と契約している。


『ザギは俺の獲物だと言っているそうだ』


 シャーザはゴトーから聞いた言葉を通訳した。


「フン! 手柄を自分の物にするつもりか?」

「まぁ、いいじゃないか。 急いで帰るぞ」



 シャーザは怒っている男の肩を叩いて小屋に向かった。


 男達は一旦小屋に入り、帰り支度をして出てきた。



 そして五つ目のドラグル達に鞍を着けると、それぞれドラグルに飛び乗り、南の空へ飛び立って行った。






エリアスが拉致されてしまいました。

何の為に?······生け贄って?!······

!!ヽ(゜д゜ヽ)(ノ゜д゜)ノ!!

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