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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第二章 レジェンド・オブ・レジェンド
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7話 ザギとニック2

ザギとニックは親交を深めてゆく。

 7話 ザギとニック2




 もうすぐ昼という頃、牛の様子が変わり破水した。


「お父さんを呼びに行かなきゃ!」


 みんなが厩舎に着いた時には既に足先が出ていたので、その足に縄をくくりつけて牛の陣痛に合わせて引っ張る。

 ザギは入口からでは見えないので、厩舎の横に回って窓から覗き込んでいる。

 

 陣痛の度に少しずつ出てきた子牛が、敷き詰められた(わら)の上にドサッと落ちた。

 子牛の濡れた体を(わら)で拭いてあげてから、立ち上がろうとするのをみんなで見守る。


 エリアスなどは感動して涙を流していて、ザギも興味深げにじっと見ていた。



 母牛が優しく()めているうちに子牛はようやく立ち上がろうとし始めた。


 何度も何度も立とうとしては転んでいた。 そうしてやっとの事で立ち上がる事ができると、ふらつく足で母牛の乳に何とかたどり着き、勢い良く母乳を飲み始めた。


 みんなはホゥッと溜め息をつき「もう大丈夫」と笑顔で頷きあった。 ニックは窓から興味深く(のぞ)いている六つの目に向かって親指を立てた。





「安心したらお腹が空いたね。 エリアスさん、行きましょ」


 サラとエリアスは、走っていった。



 ◇◇◇◇



 昨年から昼食は外で食べている。

 青空の下でお弁当を囲んで座り、ユニオンビースト達もその周りに寝転がっている。


 ザギもニックのすぐ後ろに頭を置いて寝ていた。



 お弁当のおかずに、昨夜の残りのローストチキンが切って並べてあった。

 ニックはそれを一切れつまみ「ザギ、これ美味しいよ、食べてみて」と、ザギの鼻先にブラブラさせた。


 するとザギは一つの目だけを開け、地面に(あご)を着けたまま口を少し開けたので、ニックがローストチキンを投げ入れてあげた。


「どう? 美味しいでしょ?」


 ザギは美味しかったようで、口の端を上げてニッと笑って見せた。


「じゃあこれは?」


 今度はソーセージを口の中に入れると、また美味しそうに笑った。


「野菜も取らなくちゃね」


 ニックはピーマンが入った炒め物をザギの口の中に入れると、今度はザギがグエッ!と不味そうな顔をした。


「ハハハハ! 好き嫌いはダメだよ、ハハハハ!」


 ニックは面白そうに腹を抱えて笑った。




 その様子を見ていたカイルはカイザーに心の中で話した。


《問題なさそうだな》

《そのようだ》




 ◇◇◇◇




 食事が終わる頃、ニックの前を一羽の鳥が横切った。


「いいなぁ······僕も空を飛んでみたい······そうだ! ザギ、乗せてよ!」


 えっ?という顔で悩んでいる様子のザギだったが、ふとカイルの方を見る。


『いいだろう。 カイル、ついて来てくれ』

「分かった。 ニック、乗せてくれるそうだ」

「やったぁ! ありがとう!」


 ニックは飛び上がって喜んだ。


 他の者たちが仕事に戻った後、カイルはニックをザギに乗せてあげた。

 しかし、ザギには毛がないため(つか)まる所がない。 首の大きなトゲには位置的に掴まる事ができない。

 仕方がないので(うろこ)(くぼ)みに指を入れ、しっかりとザギにしがみついた。


 ザギがゆっくりと翼を広げ、飛び上がった。




「ハスラン!」


 カイルもハスランに乗り、ザギの後を追った‼️


「わぁ······あ···あぁ···落ちる······」


 ニックはしがみつくのに必死だった。


 ハスランやアルナスと違い、ザギは体をくねらせるように飛ぶ。 掴むところがなくて安定しない上に首にしがみつこうにも手が回らないし、上下に動くのでどこかに掴まっていないと振り落とされる。

 指先に力を入れ、首に張り付いているしかないのだ。


「ニック! 足に力を入れろ! 膝で挟み込め!」


 ニックは足に力を入れた。 すると少し安定して余裕が出てきたので、調子に乗ってカイルに手を振ろうとした。


「カイル兄さ~~~ん······わっ!」


 片手を離した途端ザギからずり落ち、空中に投げ出された。


「ハスラン!」


 ハスランは慌ててニックの下に回り込み、カイルがニックを受け止めた。


「手を離す奴があるか! 肝を冷やしたぞ! まったく······油断するな。 ここは空の上だという事を······」

『クックックッ』


 ハスランが笑いを堪えているのが聞こえた。


 以前、カイルがハスランから落ちた時、アルナスに全く同じ事を言われてこっぴどく怒られた事を思い出した。


「······気をつけろ······」


 カイルはバツが悪そうにその一言だけ付け加えた。


「ごめんなさい······はぁ~~っ······死ぬかと思った。 カイル兄さん、ハスラン、ありがとう」


 そこへザギが横に来た。


『大丈夫か?』

「心配ない」

『そうか。 では、ニックをそこに立たせてくれ』

「?······ハスランの上に?」


『今度は落ちないように、足で掴んで飛んでやる』

「分かった。 ニック、支えてやるから立ち上がれ」

「え~~? ここに?」

「ザギが掴んで飛んでくれる。 ほら······」


 カイルは後ろからニックを支えて立たせた。 するとザギは鋭い爪の前足で、ニックの脇の下をそっと掴んで離れた。


「どうだ? ニック、今度は大丈夫そうか?」

「うん! しっかり持っていてくれるから、全然平気!」


 それを聞いたザギは、カイルに『この辺りで待っていてくれ』と言うと、スピードを上げてあっという間に山の向こうに消えていった。



『カイル殿、彼らだけで大丈夫でしょうか?』

「大丈夫だろう。 この辺りに降りて待とう」


 ハスランは下に降りていった。



 ◇◇◇◇



 ニックは興奮していた。


 空気は冷たいがザギの足は温かく、寒さは気にならなかった。

 ザギは凄いスピードで飛び、急上昇したかと思えば今度は錐揉みしながら降下した。 そして、高い木の間を縫うように飛んだ。


 ニックを避けるように、直ぐ目の前の木が右に左に通りすぎる。


 ニックは目が回りそうになりながら「おお~~~っ!」とか「わぉっ!」と奇声を発している。


『ハ~~ッハハハハハ』


 それを聞いたザギは面白そうに声をあげて笑った。




 森を抜けると大きな湖に出た。


 今度はゆっくりと水面ギリギリを飛んだ。 翼を動かす度にザギの尾が水面を叩き、規則的に大きな水しぶきを上げている。

 直ぐ下の穏やかな水面にはザギとニックが映っていて、ニックは水面の自分に手を振った。


 ザギは首を曲げ、そんなニックを見てニッコリと笑った。



 それからまた高く上昇し、クルリと向きを変えてカイル達が待っている所に戻っていった。



 ◇◇◇◇



 家に戻ってからもニックは興奮覚めやらず、何度もみんなに飛んだ時の事を声高に話し、(しま)いにはトムに「いい加減にしろ!」と怒られていた。


 


 それからもニックはザギに収穫した物を見せて説明したり、途中でザギに手を振ったりしていた。




 そしてその夜、ニックはこっそり出て行って、ザギに月明かりの中を飛んでもらった。 さすがにそれにはカイザーがついていったらしい。





 その日から毎日のようにニックはザギに、空の散歩に連れて行ってもらうようになっていた。







ドラゴンに乗ってみたい!

(  ̄ー ̄)

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