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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第二章 レジェンド・オブ・レジェンド
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6話 ザギとニック

トムの家まで付いてきたザギ。

ドラゴンが大好きなニックは大興奮する。

 6話 ザギとニック




 日が落ちかけた頃、トムの家についた。

 いつものようにトム達は家の前で待っているのだが、ドラゴンを連れているのを見て、カイル達が舞い降りると駆け寄ってきた。


「カイル! ドラゴンじゃないか! どうして······」

「トムさん、今年もよろしくお願いします。 彼はザギ。 途中で知り合ったので一緒に来てもらいました」

「凄い!! カイル兄さん! ドラゴンとも知り合いだったの?!」


 ニックがキラキラした目でザギを見ながら興奮している。


「ニック、ドラゴンではなく、ドラグルという種族のユニオンだ」

「ドラグル?」

「クレモリスにも来ていると聞いたが?」


「うん。 一度だけ遠くから見たことがあるけど、こんなに近くで見る事が出来るなんて

······やっぱりカッコいい!!」

「そういえば、ニックはドラゴンが好きだったな」


 ニックの部屋にドラゴンの絵が飾ってあるのを思い出した。


「ニック、紹介しよう」



 カイルは少し離れた所に降り立ったザギの所にニックを連れて行った。



挿絵(By みてみん)



「ザギ、彼はニック。 あちらにいる男性がトムと、彼が契約しているセリーヌ。 そして女性がサラ。 ここに十日ほど滞在する」

「ザギ! よろしく! わぁ~~······すごいなぁ~~~」


 ニックはザギの顔を見上げてから、頭の方から尾の先まで移動しながら眺めた。


「カイル兄さん、ザギに触ってもいいかな」

「構わないそうだ」

「やった!」


 ニックが腕を伸ばしたが、やっと胸のあたりに手が届くほどの大きさだった。


「凄い! とっても硬い! でも思ったより手触りがいいや」


 するとザギが、頭をニックの方へ近づけてきた。

 ユニオンビースト達は一瞬構えたが、ニックは大喜びだ。


「カイル兄さん! 顔を触ってもいいの?!」


 目をキラキラさせた。


「いいと言っている」

「抱きついてもいい?」

「構わないと言っているぞ」

「ほんとうに?! ザギ、失礼しま~~~~す!」


 ニックはザギの鼻先に抱きついた。 両手で抱えきれない程の大きなザギの顔に自分の顔を擦り付けた。


「わぁ~~! ザギって冷たいかと思ったら、とっても温かい!」


 炎を体に有するユニオンは体温が高く、自分でもある程度調節できる。


 ザギもされるがまま、大人しく六つの目を閉じていた。




 ドラグルは凶暴な種族だとカイザーは言っていたが、とてもそうは見えなかった。

 確かに見た目は恐ろしいが、今日一日ザギを見ていると、無口だが穏やかで聡明そうに見えた。





「カイル! ニック! 家に入るわよ!」


 既にみんなと家に向かっているサラが呼んだ。


「え~~っ! ザギも転身出来るのでしょ? 家に入れるくらいの大きさの動物になれない? 僕の部屋に来てよ」

『転身する事は出来るが、我々はこの姿に誇りを持っている。 だから転身はしない』「······だそうだ」


 カイルが通訳した。


「そうか······残念だけど、流石(さすが)ドラゴン······じゃなくてドラグル。 誇り高き種族だね」


 ザギは口の端でニッと笑った。


「それなら仕方がないけど、夜の間にどこにも行かない?」


 ザギは頷いた。


「絶対だよ! どこにも行かないでね」


 再びザギは頷き、その場に寝転がった、


「じゃあ、明日ね!」


 ニックは名残惜しそうに何度も振り返りながら家に入った。




 カイザー達は鳥の姿で、ザギから少し離れた木に止まった。 問題はないだろうが、一応監視をするためだ。

 ザギは暫く家の方を見ていたが、やがて丸くなり、自分の太い尾の下に顔をうずめた。



 ◇◇◇◇



 朝早くニックがパジャマに上着を羽織った姿で、ドアを勢いよく開けて出てきた。


「ザギ! いてくれた」


 ニックは一つだけ目を開けたザギの鼻先に抱きついて、顔をこすりつける。


「良かった。 寝ている間にどこかに行っちゃってたらどうしようと心配してたんだ。 ちょっと待ってて、直ぐに着替えてくるから」


 ニックは嬉しくて飛び跳ねるようにして家に走って行った。




 暫くしてニックと男達が作業着に着替えて出てきた。

 ニックは少し離れたところに寝ているザギの所まで走っていき、目の前に立った。


「ザギ、お待たせ。 今から厩舎に行くんだ。 こっちだよ、来て」


 さすがに厩舎の中にザギは大きすぎて入らないので、入り口から顔を突っ込んで中を覗くと、ザギの気配に厩舎の中の動物達が騒ぎ出した。

 しかし暫くすると落ち着きを取り戻し、大人しくなり、その後は顔を近づけても気にする様子もなかった。





 厩舎の中のみんなが一頭の牛の柵の前に集まった。 その牛のお腹は大きく膨らんでいる。

 トムとアッシュが牛の体を触って調べていた。


「今日には産まれそうですね」

「そうだな。 ニック、今日はこいつについていてくれ。 出産が始まったら呼びに来い」

「うん、わかった父さん」




 トムとカイルは畑に向かい、ニックとアッシュは厩舎の仕事を始めた。

 ザギは珍しそうにその光景を見つめ、ニックは時々ザギの所に行っては仕事の内容をいちいち説明していた。 ザギも分かっているのかいないのか、大人しく耳を傾けていた。



 みんなが朝食を食べるために家に戻っても、ニックは牛の様子を見るために残り、ザギに牛の出産について説明をしたりしていた。




 少ししてからエリアスがルーアンとニックの朝食を持ってきた。


「ニックさん、朝食です。 どう? 牛の様子は」

「うん······もう少しかかりそう」

「そう······」



 エリアスはルーアンと入口にいるザギの横に来た。


「私、出産って初めて見るの。 楽しみだわ。 ザギさんはそういうの見たことあるの?」


 ザギは首を横に振った。


「きっと感動するわよ。 そうそう、サラさんにニックの部屋を見せてもらったのだけれど、ドラゴンの絵が飾ってあるの。 本当にドラゴンが好きなのね」


 ザギとエリアスは、牛の柵の前でパンをほおばっているニックを見た。


「······彼はザギさんの契約者ではないの?」


 ザギは再び首を横に振った。


「そう······残念ね。 でも、優しくしてあげてね。 じゃあまた」




 アリアスはルーアンと家に戻って行った。

 その後ろ姿をザギはいつまでも見ていた。






ニックが契約者だったら良かったのに······


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