44話 出発前夜
カイルは、エグモント国を訪問した。
エグモント国は今、コーヴの叔父が王座に着いていた。
44話 出発前夜
カイルはオスウエスト国に戻る前に、再び各国に寄った。 どの国も順調に準備が進められている。
最後にエグモント国に寄った。
空から見るエグモント国は荒廃が激しく、どの村も殆ど人の姿が見えなかった。
青々とした畑だけが、やけに美しい。
王都に入ったが、王都とは思えないほど荒れ果て、たまに見かける人々は誰もがやつれ、生気の無い顔をしている。
それでもポツポツ開いている店もあり、何とかしてこの国で生きていこうとしているのが分かる。
カイルがエグモント国王に謁見を申し込む書状を出すと、直ぐに返事があり、城内に通された。
今は前国王の弟(コーヴの叔父)の[ダントリー]が王座に就いている。
カイルが広間に入ると同時にダントリーが立ち上がり、カイルの元に駆け寄るといきなりひれ伏した。
「カイルランス様! 誠に申し訳ありません! お詫びのしようもございません!」
「やめて下さい。 責めに来たのではありません。 頭を上げてください」
カイルはダントリーを抱き起し、王座に座らせた。
「この国も大変なようですね」
「はい。 とにかく人がおりません。
コーヴが大虐殺をし、その後の酷い政治と死体を直ぐに埋葬しなかった為に疫病が流行り、バタバタと人が死んでいきました」
ダントリーは首を振る。
「生き残った者達で力を合わせ、何とか今までやってきたのですが、原因が原因なだけに、こちらから他国に援助を求める事も出来ず、オスウエスト国からの援助のみ受けさせて頂いております。
ただ不思議な事に、以前ユニオンビーストに踏み荒らされた畑だけは、手入れをする者が居ないのにも関わらず、豊富な実りをつけてくれます。 そのお蔭でどうにか生き延びる事が出来ている次第です」
ダントリーはいかにも疲れ果てた様子だった
「ところでカイルランス殿。 各国にユニオンビーストが入り込んでいるという噂を耳にしたのですが、本当でしょうか?」
「はい。 この者達もユニオンビーストです」
カイルはアルナスとカイザーだけを連れていた。
ダントリーは二頭を見て恐怖の色を浮かべた。
「この国を襲撃したユニオンビーストはコーヴ王子の術にかかり、操られていただけです。
本来のユニオンビーストは決して人に危害を加えたりする事はありません。 御安心下さい」
「そ···そうですか······そんな大人しい生き物を、コーヴは人殺しに使っていたのですか······」
「我々はアルタニアを取り返すつもりでいます。 詳しい方法は教えられませんが、その時もし抵抗にあえば、コーヴ王子の御命を奪う事になるかもしれません······お許し下さい」
「わざわざそれを伝えに?」
「彼は一国の王子です。 出来る限り手にかける事はしたくありませんが······」
「もちろん構いません! もし生きたまま捕らえる事が出来た時は、ぜひこの国にお連れ下さい。
国民の前で絞首刑に致します」
「·········」
カイルは涙目で訴えるダントリーに、かける言葉が見つからなかった。
「それでは急ぎますので、失礼します」
帰る前に王都の上を一回りしてみたが、空から見る街中は本当に酷いもので、人は少なく、壊れた家はそのまま放置されているのが見て取れる。
アルタニアもこうなっているのかと思うと、胸が張り裂けそうだった。
◇◇◇◇◇
オスウエスト国に戻ってからも忙しい毎日が続き、アルタニアに向けて出発する日の前夜、カイルは城の中庭のベンチに座って星を見ていた。
「とうとう明日だ。 上手くいくのだろうか······実はコーヴに全て知られていて、待ち構えられていたらどうしよう······」
『昨日のタントゥールからの連絡では、問題なさそうだと言っていたのだろう?』
「そうだけど······」
『お前がドンと構えていないと、周りを不安にさせる。 絶対大丈夫という顔をしておけ』
「···うん······」
カイルは「はぁ~~っ」と、大きくため息をついた。
「どうしたの? 大きなため息なんかついて」
エリアスとルーアンが、カイルを見かけて降りてきたのだ。
エリアスはカイルの横にフワッと座った。 なんだかいい香りがする。
「眠れないの?」
「···ちょっと······」
「大丈夫。 うまくいくわ」
「···うん······」
カイルはそっとエリアスの肩を抱いた。
「寒くないか?」
「大丈夫·········星がきれいね」
「うん。 そうだね」
星を見上げていたカイルは、足元に座っているルーアンを見た。
「ルーアン」
『?······なに?』
「······エリアスを頼む······」
『大丈夫よ。 任せて』
エリアスとルーアンはアルタニアには行かない。
「もしもの時は、必ずエリアス守ってくれ」
「カイル!!」
エリアスの強い語気にカイルは驚いた。
「えっ?!」
「カイル!! もしかして、失敗することを今から考えているの?! あなたがそんな事でどうするの?! あなたは自分とみんなをもっと信じるべきだわ!!」
カイルは驚いてエリアスの顔を見ていたが「プッ!」と、噴き出した。
「何? 私、変なこと言った?」
「いや······そうじゃない。 エリアスの言うとおりだ。 そうじゃなくて······今から尻に敷かれているなと思って······」
「し!···尻に?······失礼ね!」
エリアスは頬を膨らませてみせた。
「すまない。 頼もしいなと思って」
「あら、知らなかったの? 女は強いのよ」
「そのようだ」
「ふふふ」
「ははは」
その夜は、遅くまで寄り添う二人の姿があった。
エリアスは良いパートナーになれそうですね。
(*^^*)




