39話 制約
会議の帰り、ローゼンが言った一言が引っ掛かる。
「制約を破る事ができれば······」
39話 制約
カイル達はローゼンを門まで送った。
「カイル様、この国は素晴らしいですね。 私達がここに逃げてきた時、既に受け入れ体制が出来ており、住む場所や仕事が決まるまで宿舎を開放してくれました。 そして家が決まり宿舎から出る時には支度金までくれたのです。
この国に逃げてきた者は幸せです。 セルカークに聞きました」
ローゼンはカイルの横にいるアッシュを見た。
「クレモリス国に逃げた当初は苦労したと······何としてもコーヴを倒し、この国を守りたいです」
「そうですね。 何としても」
「何か制約を破る方法があればいいのですが······」
「制約を······破る?······」
「それでは、失礼します」
ローゼンは帰って行った。 カイルは彼を何とも言えない表情で見送っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
夜、布団に入った。
しかし、なかなか眠りにつく事が出来ない。
ローゼンの言葉が何か引っ掛かる。
「制約を破る······制約を···破る?······」
カイルは飛び起きた。
「そうだ! 制約を破ればいいんた! アルナス!」
カイルはアルナスを連れて部屋を飛び出し、アッシュの部屋のドアを叩いた。
少し寝ぼけ顔のアッシュが出てきた。
「カイル様? どうなさったのですか?」
「アッシュさん! 制約を破るのですよ! これならいけます!」
「カイル様、落ち着いて下さい。 とにかく中へ」
アッシュはカイルを部屋の中に入れた。
椅子に座る間も惜しんでカイルは話しを続ける。
「ローゼンさんが言っていたでしょ? 制約を破れればって。 きっと制約を破れば術が解けます」
「しかしどうやって?」
「思い出して下さい。 ユニオンビーストは[国境を越えるな]と制約を受けています。 無理矢理国境の外に出せば······」
「そうか! やってみる価値はあります!」
「行きましょう!」
『待て!カイル。 カイザーとダンバートに相談しなくては』
アルナスがカイルの前に立ち塞がった。
「アルナス、危険は無いだろう? アルナスとディアボロなら、三つ目を一頭国境の外に出すぐらい」
『まぁ、そうだが······』
「ハリスが戻って次の会議が始まる迄に試そう。 私が行く事はイザクから話してもらう」
カイルは急いで部屋に戻り、服を着替えた。
イザクに説明し、明日の朝、アネスからウォルターに、ウォルターからダンバートに伝えてもらう事にした。
心配そうに見送るイザクとナルナラを置いて、アッシュとディアボロと共に夜空へ飛び立った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
昼過ぎにはアルタニア国境についた。
丁度三つ目が一頭、国境近くにいるのが見えた。
近づくのを待ってアルナスが国境内に入ると、クルリと向きを変えてこちらに向かって来る。
山羊の体に真っ白い馬の尾と、カモメの翼を持つユニオンビーストだ。
アルナスとディアボロは攻撃を交わしながら国境に誘導するが、すばしっこくてなかなか思うようにいかない。
『ディアボロ! 私が奴を引き付ける。 隙を見て体当たりでもして国境の外に飛ばせ』
『任せろ』
遠くにアルナスの気配に気付いたユニオン達がこちらに向かって来ているのが見える。
アルナスは引き付けながら、ディアボロの前を横切った。
ディアボロが体当たりしようとしたが『あれ?』スカッとかわされた。
『何をしている!!』
アルナスは振り向きざま、爪を引っ込めたままの前足で三つ目をバシッ!と、叩いた。
三つ目は錐揉みしながら落ちて行く。
『あぁっ!! カイル! 危ない!!』
三つ目が落ちていく先にはカイルがいた。
しかしカイルは森からこちらに向かって来るユニオンビーストに気を取られていた。
アルナスの声にハッとして上を見上げた時には、目の前に三つ目が迫って来ていた。
慌てて飛び退いたが、錐揉みする三つ目の爪がカイルの胸を掻き、血が吹き出した。
「ぐわぁっ!!」
カイルはそのまま後ろへ飛ばされ、ズドン!と倒れた。
その時カイルから何かがキラリと飛んで行った。
三つ目もズドドッ!と地面に叩きつけられて、気を失った。
「カイル様ぁ!!」
アッシュが慌てて近寄ると、カイルは胸から血を流してうずくまっている。
アルナスはカイルの側に降り、呆然と立ちつくしている。
『カイル!! ああぁ······私が······私のせいで······』
ディアボロが気を失っている三つ目に近付くと、『ううっ······』と、唸ってから目を開けた。
ディアボロは思わず身構えたが、どうやら正気に戻っている様子なので『ふう~~っ』と息を吐いた。
『あれ?······ここは?······』
『術は解けたか······大丈夫か?』
『僕は······あっ! あの野郎!!』
三つ目は飛び上がった。
『おい!待て!』
ディアボロは慌てて追い、三つ目の前に回り込んで行くてを塞ぐ。
『待てと言っている! コーヴの所に行くつもりか? また術に掛けられるだけだぞ! とにかく戻れ!』
ディアボロと三つ目は国境の外に降りた。
『僕は······奴が心に割り込んで来るのです。 嫌だと思っても体が奴の命令に逆らえないのです······僕は······この口で······この爪で······何人も殺した······逆らう事が出来ず······人間を······何人も殺した······』
『操られていても、意識はあるのか······それは辛かったな······お前の名は?』
『トトント』
『俺はディアボロ。 そして倒れているのがカイル。 アルタニアの本当の王だ』
『あの人を·······僕が?』
『気にするな、あれくらいでは死なん。 ぼぉ~~っとしていたあいつが悪い。 トトントはどこの森だ?』
『クロードの森です』
『あぁ、ハスランの森か』
『ハスラン様を知っているのですか?』
『奴もカイルと契約している』
『あの人と······』
トトントは申し訳なさそうにアッシュが手当てしているカイルを見つめた。
『大丈夫だ。 それよりクロードの森ならハスランが既に話をつけていると思うが、我々はアルタニアと操られた仲間を救う為に動いている。 事を起こす時には森の皆と力を貸してくれ』
『もちろんです!』
『それでは、森で待て』
『ありがとうございました』
トトントはカモメに転身して飛び去っていった。
無事に飛んで行ったトトントを見送ってから、自分の契約相手の方に振り返る。
『さてと······』
アルナスは相変わらず『私がカイルを······』と、ぶつぶつ言っている。
それを横目にディアボロはカイルを手当てしているアッシュの前に来た。 いつまでも呆然としているアルナスを見てチッ!と呟く。
《アッシュ、急いで俺にカイルを乗せてお前が支えろ》
「はいっ! カイル様、ディアボロさんに乗ります。 立てますか?」
「······はい」
カイルはアッシュに支えられ、痛みを堪えてディアボロに乗ろうとした時、ハリスが来た。
『カイル様ぁ!! 大丈夫ですか?!』
「ハリス······首尾···は?」
『タントゥールさんから手紙を預かってきました』
「そうか···よく···やった」
『そんな事より、大丈夫ですか?』
「心配ない」
カイルは少し笑って見せ、どうにかディアボロに乗ることができた。
《アッシュ、全速力で飛ぶから、カイルが落ちないようにしっかり支えろ》
「はいっ!」
『アルナス! 行くぞ! アルナス!!』
アルナスはまだぶつぶつ言っている。
『ハリス! あそこで呆けているバカの頭を一発叩け! 先に行くぞ!』
ディアボロはアルナスを置いて飛んで行った。
『アルナス様! 帰りますよ!』
声をかけてもアルナスが気付かない様子なので、ハリスは翼でアルナスの顔をバチンと叩いた。
『えっ? あっ!······あぁ』
やっと我に返ったアルナスは慌てて飛び上がった。
ハリスも続いて飛ぼうとした時、地面に光る物を見つけた。
『あれは······』
それを口にくわえると、急いで後を追った。
とうとうケガをしてしまいました。
カイルは大丈夫なのでしょうか?
(@ ̄□ ̄@;)!!




