37話 カイルの弱音
静かな時間が流れる。
そんな中、昔を思い出すカイルの中に湧き出る不安。
37話 カイルの弱音
その夜、カイルはアルナスを連れて中庭を歩いていた。
高い木の上にはカイザーとハスランが止まっている。
「······アルナス······アルタニアにいる人達はどうしているのだろう······」
アルナスは何も言わずにカイルを見上げた。
「私にアルタニアを救う事など出来るのだろうか······ユニオンビーストが恐ろしい種族でないことは誰よりもよく分かっている······しかし、ブライトさんが殺された時の夢を今でも見る事がある。
その時の恐怖が甦る。
三つ目のユニオンでさえ三人がかりでやっと倒せる程人間とは力の差がある。 そんな三つ目を一瞬で倒すS級のユニオンがあちらにもいる。
人間など太刀打ちできる訳がない······」
カイルは星が輝く空を見上げた。 ただカイルには美しい星の輝きなどは目に入っていない。
「各国の兵士が戦いに加わってくれると言ってくれているが、そんな人達がユニオンに殺されるのか······私がお願いに来たが為に······」
『······何をそんなに弱気になっている』
「この国の平和に暮らす人達を見ていると、戦いに巻き込む事がいけないように思える」
『アルタニアの次にこの国が襲われるかもしれないのだぞ。 今が平和だからと言ってはいられない。 コーヴがアルタニアを出る前に何とかしなければ、また多くの人が殺される。
それでもいいのか?』
「············」
カイルはベンチに腰を下ろした。
《カイザー、ハスラン》
二頭がカイルの前に降りてきた。
「ハスラン。 ブライトさんが亡くなる時、声が聞こえたと言っていたな」
『はい』
「彼の心の中は?」
『無念な気持ちでいっぱいでしたが、最後の瞬間まで恐怖もなく、穏やかでした』
「······そう······」
カイルは暫く黙って足元の石を拾って、手の中で転がしていた。
「······カイザー······父の声は聞こえたのか?」
『はい。「アルタニアとカイルを頼む」······と』
「······そう······」
『グラントは襲撃があった時から死を覚悟していた。 いや······エグモント王が殺されたと聞いた時からかもしれない。 彼からは最後までアルタニアやカイルを心配する気持ちしか感じられなかった』
「······うん······」
『ダンバートも同じ気持ちだ』
「ダンバート様が?」
『先ほど話しているのを聞いた。 「アルタニアの次はどこを攻めるか分からないが、もしこの国なら私を生かしてはおかないだろう。 自分が死んでからの事も決めておかなければ」と。
アルタニアだけの事ではない事は分かっているだろう?
カイル。 その前にコーヴを何とかしなくてはならない。 それはカイルにしか出来ない。 私の心がそう感じている。
カイルがいたから多くのユニオンの協力を得ることができた』
「それはカイザーとハスランが······」
『カイルの為に我々は動いている。 カイルが人間とユニオンを結び付けているのだ』
「私が······」
『ただし、カイル殿は後先考えずに行動される時があります。 必ず我々かダンバート様に相談してから行動を起こして下さい』と、ハスラン。
『ハハハハ。 カイルの突っ走り癖はそう簡単には治らないからな。 私がしっかり監視させてもらう』
「アルナス!」
『小さな頃はいつもカイルに振り回されたものだ』
『結構それを喜んでいたように見えたが?』
「え~~そうなのか? アルナス」
『そんな訳ないだろう』
『いやいや、 いつも嬉しそうに話していたぞ』
『ハスラン! 私がいつ!』
『ハハハハ』
『何だか楽しそうね』
「ルーアン? エリアスも」
エリアスが部屋着に上着を羽織ってルーアンと一緒に立っていた。
「窓から見えたから······元気がなさそうに見えたけど、気のせいだったみたいね」
「あ······うん······」
「あっ! まだ持っていてくれたのね」
エリアスの目線はカイルの胸元に向けられている。
「え?······ああ」
カイルは胸元のペンダントに触れた。
いつもは服の中に入れているのだが、今は部屋着の上に上着を羽織っただけなので服の外に出ていた。
「私が生きていられたのは、もちろんアルナス達のお陰だけど、これが護ってくれたと思っているんだ」
「よく効くでしょう?」
「うん。 とても」
エリアスもカイルの横に腰掛けた。
「この五年間、色々あったのね」
「うん······多くの人が死んだ······私は何も出来なかった······」
「でも、何もしなかった訳ではないわ」
「昔、ハスランに言われたんだ。 先ずは出来る事を精一杯やれと······」
「そうね。 今は沢山の人とユニオンビーストが、カイルの呼び掛けで動き出そうとしているわ。
きっと全てが上手くいくわ······きっと······」
カイルはエリアスの肩を抱き、エリアスはルーアンの首元を優しく撫でながら、二人は空を見上げた。
空には降って来そうなほど沢山の美しい星が「大丈夫だよ」と言いたげに、瞬きながら二人を見守っているのが見えた。
カイルとエリアスはいい雰囲気です。
数少ないロマンスが······
ウォルターとアネスは置いといて······
( ゜ 3゜)




