30話 アルタニア
カイル達は目覚めのナイフり取りにアルタニアに向かう。
無事に目覚めのナイフを取って来る事が出来るのだろうか?
30話 アルタニア
空の旅は思いの外心地良く、初冬の寒さを忘れさせた。
眼下に広がる箱庭の様な美しい森や草原が通り過ぎ、遠くに見える頂上辺りを覆い隠すように雲がかかった山は、絵画の様であった。
日が傾きかけた頃、アルタニアに着いた。
国境辺りに数頭のユニオンビーストが飛んでいるのが見える。
カイル達は国境の手前で降りた。
『我々が奴らを引き付けている間に行け』
「大丈夫か?」
『奴らは国境を越えると追って来ない。 せいぜい国境を出たり入ったりして引き付けておくさ。 気をつけて行け。 何かあれば、遠慮なく呼べ』
「頼んだ」
アルナスとアイザー、ハスランは左右に散って行った。
国境辺りを飛んでいたユニオンビースト達が急に向きを変えて飛んで行った。 アルナスたちが国境内に入ったのだろう。
「行こう!」
『こっちよ』
ハリスが上空で警戒し、ナルナラとイザクにに先導されて国境内を走った。
カイル達は夜の間中走り続け、ユニオンビーストが近付くと隠れてやり過ごした。
朝方には抜け道の近くに到着した。
『この辺りのはずなの。 ちょっと待ってて』
三頭は抜け道の入り口を探しに行った。
この辺りは高い木は少ないが、4~5m程の高さの木が密集している。
「ガサガサ」と音がしたのでカイルは護りの剣を抜いた。 その途端、護りの剣が動き「ガキッ!」っと重い衝撃があった。
カイルの横から小振りの三つ目のユニオンが飛び出し、護りの剣がその爪を防いだのだ。
カイルは飛び退き返す剣で足を切った。 アッシュとウォルターも剣を抜き、駆け寄った。
「殺さないで! 動きを止めるだけに!」
アッシュ達も何度か足を狙って切りかかり、ユニオンビーストは動けなくなった。
するとそれは、ズズズッと土の中に消えていった。
『カイル! 大丈夫?!』
ナルナラ達が慌てて戻ってきた。
「大丈夫だ。 入り口はみつかったか?」
『こっちよ』
ナルナラ達について行くと、蔦が絡まった崖の下に入り口が、あった。
中に入るとジメッとした空気とカビ臭さが鼻を突き、昔、不安と恐怖で圧し潰されそうになりながら、アルナスにしがみついてこの抜け道を通った日が蘇った。
今は不安はない。
成長したなと自分でも思い、フッと笑ってしまった。
抜け道の奥は真っ暗で先が見えない。
『カイル様、松明があります』
イザクが教えてくれた。
「どこだ?」
『アッシュさんの右です』
しかし、月明かりも殆ど届かないので何も見えない。 この辺りには光苔もないようだ。
すると横でボッと明かりが灯った。 見ると、イザクの掌から炎が出ている。
「わぁ、凄いですね、こんな事までできるのですか」
アッシュは感心しながら、松明を手に取る。
「アッシュさん。 松明をイザクの前に」
アッシュがイザクの前に松明をかざすと掌の炎が大きくなり、松明に火が付いた。
五年前は抜け道の中は広く感じたのだが、天井は頭すれすれで、気を抜くと出っ張りに頭がぶつかる。
ウォルターなどは常に首を屈めていないと歩けなかった。
一本道だと思っていたが、時々横に道が延びている。 出口が幾つも有るのだろう。
長い時間、小走りで進むと階段の前に出た。
階段を上り突き当たりを触ってみると、土ではなく書棚の感触だった。
書棚の裏には手を掛ける所も無く、カイルが開けようとしたがびくともしない。
「私が······」
ウォルターは剣を抜き「えいっ!」と書棚に突き刺した。 その剣を手掛かりに「むんっ!」と力を入れると書棚は少しずつ動き出す。
書棚の端が見え、三人で引くと懐かしい部屋が目に飛び込んだ。
掃除もされておらず埃を被っていたが、カイルがいつも謁見者の話を聞いていた部屋だった。
幕から大広間を覗いてみたが、入口辺りに衛兵が二人喋っている。
大広間はかなりの広さなので、多少の音は聞こえないだろう。
「この部屋は秘宝の部屋と反対側の部屋です」
アッシュが残念そうに言った。
この部屋は秘宝の部屋と隣り合わせだが、秘宝の部屋に行こうと思えば、王座のある大広間を通るか、城の中を結構遠回りしなくてはならない。
するとカイルは屈んで隅にある棚の裏を覗いていた。
「えっと、この辺りに······あった。 ウォルターさん、この棚を動かして下さい」
棚を動かすと、壁の下の方に20㎝程の穴が空いていた。
カイルが子供の頃、イタズラで秘宝の部屋に行こうと壁に穴を空けたのだが、途中でみつかり、棚で塞がれてしまったのだ。
壁の向こう側も棚で塞がれている。
「あちらの棚を動かせますか?」
「やってます」
ウォルターが手を突っ込んで動かすと、割りと簡単に動いて空間が出来た。
「イザク、通れるか?」
『多分』
「部屋のガラスケースの中に古びたナイフがある、 鍵はかかっていないはずだ。 取ってきてくれ」
イザクは隙間からグイと入り込んだ。
直ぐに古びたナイフを持ったイザクが出て来た。
『これですか?』
差し出されたナイフにカイルが触れた途端、眩い光が放たれ、古びたナイフに美しい輝きが戻った。
「おお~~っ!」
ウォルターが小さく感嘆の声をあげる。
衛兵が光に気付いていないか覗いてみたが、相変わらず話しに夢中になっているようだ。
「急いで戻ろう」
急いで抜け道に入り、書棚を元の位置まで戻して帰りを急いだ。
◇◇◇◇
抜け道の出口に近付くと、外はまだ真っ暗だった。
既に丸二日近く過ぎている。
抜け道の中で携帯食を食べ、仮眠を取ってから空が白み始めた頃、出発した。
上空を警戒するハリスがユニオンビーストが近付けば教えてくれるので、安全な間は出来る限り急いで走り、夕方には国境近くまで来ていた。
しかし目の前には草原が広がり、少し先に小規模な森があるのだが、そこまでは結構な距離がある。
その森の少し先が国境である。
来る時にはアルナス達がユニオンを引き付けてくれ、夜陰に紛れて何事もなく通り過ぎる事が出来たが、まだ明るい。
ユニオンには夜目が効く者もいるが、やはり昼の方が見つかりやすい。
ハリスが見回ってくれ、今だと言うので走り出した。
もう少しで森という所まで来た時、ハリスが降りてきた。
『ユニオンが近付いて来ました! 急いで!』
カイル達は急いで走り抜けようとしたが、見つかった。
空から一頭、こちらに向かって降りてきた。
後ろの森からも一頭のユニオンが凄いスピードで突進して来るのが見えた。
空から来る一頭をカイルが迎え撃った。
一撃目をかわし、飛びのきながら翼を切ったが浅かった。 直ぐに態勢を整えて襲って来る。
横を見ると、森から走ってきたユニオンとアッシュとウォルターが戦っていたが、そのユニオンは足を切られ動きが鈍ってきている。
ハリスとイザクも転身してカイルに加勢しているが、なかなか動きを止める事が出来ない。
その時「ウォルター!!」とアッシュの悲痛な声が聞こえた。
気付かないうちに現れたもう一頭のユニオンにウォルターが襲われ、背中を爪でえぐられ倒れている。
《カイザー! ハスラン! アルナス!!》
呼び終わると同時に前の森からアルナスが飛び出し、カイルと対峙しているユニオンに飛び掛かった。
カイザーとハスランもあっという間に残りの二頭を倒していた。
S級の彼らと三つ目のユニオンとの力の差は明らかだった。
『アルナス! ウォルターさんが!』
『私に乗せろ!』
「アッシュさん! ウォルターさんとアルナスに乗って!」
『急げ! 我々の気配にユニオンが集まって来ている!』
ウォルターを乗せ、アッシュが後ろから支えた。
『カイル! 我々が囮になっている間に急いで逃げろ!』
カイザーはそれだけ言うと、ハスランと共に空に飛び上がった。
『カイル! お前も乗れ! 空は狙われる。 走っていくぞ!』
アルナスは三人を乗せて走り出した。
上を見ると、カイザーとハスランに沢山のユニオンが群がって来ている。
『掴まれ!』
アルナスは目の前に現れたユニオンを飛び越えた。
横から後ろから、ユニオンの影がが十頭、二十頭と増えてきた。
『ウォルターを落とすなよ! あと少し飛ぶぞ!!』
アルナスは翼を広げ、飛び上がった。
地上を走るユニオンが上を見ながら追いかけてくる。
「アルナス!! 右から来た!!」
右から大きなユニオンが飛んできた。
『あと少しだ!』
こちらに向かって飛んでくるユニオンの四つの目がはっきり見えた時、突如向きを変えて戻っていった。
国境を越えたのである。
《カイザー、ハスラン、来て》
直ぐに二頭が国境を越えて来た。
空を見ると、物凄い数のユニオンビーストが何事もなかったように、ゆっくりと戻って行くのが見えた。
カイザーもハスランも大きなケガは無く、ナルナラとイザク、ハリスも直ぐに合流した。
今回は護りの剣が活躍しました。あれがなければ、カイルは危なかったですね。
!Σ( ̄□ ̄;)




