3話 カイル8歳 契約
アルナスのほかに2人の仲間ができていたのだが、また······
3話 カイル8歳 契約
ーー 三年後 ーー
「7······8······9······10! 行くよ!······どこかな?······こっちかな?」
8歳になったカイルは、アルタニア城のすぐ裏にある兵士の訓練場脇の森でかくれんぼをしていた。
木の裏を見たり藪の中を覗き込んだりしていたが、ふと上を見ると木の枝の間から黒い尾がユラユラ揺れているのが見えた。
「あ! イザク見ぃつけた!」
黒地に白い模様がある小さな猿が木の枝の間からヒョイと顔を出した。そして木の上からスルスル降りてきたイザクは、カイルの肩に登ってきた
『見つかってしまいましたか』
「フフフ······と、いうことは······あ!···ハリスも見つけた!」
すぐ横の木の幹に、隼がへばりついていた。
『今度は直ぐに見つからないと思っていたのですが······』
ハリスも飛んで来てイザクと反対側の肩に止まった。
イザクとハリスはいつもお互いの近くに隠れるので分かりやすい。
「あとは、アルナスだね。じゃあ、二人はあっちで待っててね」
イザクとハリスは森の外に出ていった。
アルナスを探していると、藪の中からガサガサと音が聞こえた。
カイルはほくそ笑みながらそっと近づき、いきなり藪を掻き分けた。
「アルナス! 見つけ·········」
そこにはアルナスではなく白いウサギがいて、カイルに驚いて逃げ出そうとしていた。
「待って!逃げないで!」
ウサギは立ち止まり、振り返った。
紫色の瞳が白い体に映えて、とても綺麗なウサギだった。
「僕はカイル······君の名前は?」
ウサギはカイルの様子を伺っていたが、小さな声で『ナルナラ』と、答えた。
「ナルナラか。よろしく! お友達になってくれる?」
ナルナラは驚いた表情でカイルを見つめていたが、何かを納得したように頷くと、ニッコリと笑った。
『うん!······あなたと契約するわ』
ナルナラはピョンとカイルの腕の中に飛び込むと、カイルの口元をペロリと舐めた。
「フフフ、舐めてくれるんだ。ところで契約ってどういう事?」
『あなたの側にずっと居るってことよ』
「そっか。じゃあ、みんなに紹介するからついて来て!」
カイルはみんなが待っている所に走った。
「イザク! ハリス! この子はナルナラ。あれ?アルナスは? どこに行っちゃったのかな? アルナス! アルナス!!」
『アルナス様は、隠れておられますが?······』
イザクがため息混じりに答えたが、カイルは聞いていない。
かくれんぼをしていた事はすっかり忘れている。
1つの事に夢中になると、他はすっかり忘れてしまうカイルの悪い癖である。
直ぐに藪の中から鮮やかなブルーの目をした大きな黒い狼がのそりと出てきた。
『どうしたカイル。降参か?』
「アルナスったら、なぜ隠れていたの?」
『はぁ? お前が鬼だから隠れていたんだろ?』
「そんな事より」
『「そんな事」?·········はぁ~~~』
アルナスはガックリと肩を落としてため息をついた。
いつもの事だが·········
『「そんな事より」どうした?』
「友達ができたんだ」
『また、動物に話しかけたのか? 私がいない時はダメだと言っただろう? 話ができない奴の中には狂暴な奴もいるんだ!』
「だって、アルナスが側にいないのがいけないんでしょ!」
『だから、かくれんぼをだな·········はぁ~~~ まあいい。それで?』
「うん! 紹介するね! ナルナラ」
カイルの後ろから白いウサギが顔を出した。
『アルナス様、お久しぶり。フフフ······アルナス様はカイルに形無しなのね』
『ナルナラか 森から出てきたのだな? 外は怖いと言っていたのに』
『そうなのですけど······でも来て良かったわ! 私カイルと契約したの』
ナルナラは自慢気に言った。
『我々も既に契約している』
「ちょっと待って! 契約したってどういう事?」
『そうかカイルは知らないのね。契約というのはね······』
『ちょっと待て。私から話す』
アルナスはカイルの前に座った。
『カイル。動物の中には話が出来る者と出来ない者がいるだろう?』
「うん」
『カイルと話が出来る者は[ユニオンビースト]なのだ』
「ユニオンビーストって、おとぎ話に出てくる?」
『そう。それは我々の事だ。私のこの姿は本来の姿ではない。初めて会った日の事は覚えているか?』
「う~~ん、あんまり······でも、もっと大きかった気がする」
『そうだ。それが私の本来の姿だ』
「見せて!」
『今はダメだ』
アルナスは訓練をしている兵士達をチラリと見た。
『話を戻そう。我々は心が選んだ者と契約する』
「契約っ、魂を吸いとられていく?」
『何だそれは? 魂など吸いとらん』
「じゃあ、死んだ後に僕の魂を食べるの?」
『魂など食わん!』
「だって契約すると悪魔に魂を食べられるって、本に······」
『俺は悪魔じゃない!! 黙って聞け!』
「あ······うん」
『契約しても人間には何も問題ない。そして普通の人は我々の言葉がわからない。しかし契約する事でそのユニオンと人の心が繋がり、心で会話が出来るようになる』
「心で?」
『そうだ、声に出さなくても話ができるのだ』
「じゃあ、僕もアルナスと心で話が出来るの?」
《もちろんだ。カイルとは普通に話せるから心で会話をする必要がなかった》
「凄い! アルナスの声が頭の中で聞こえた! 僕の声も聞こえるの?」
『心の中で何か話してみろ』
「うん! え~~~と」
《昨日の夜ね、アルナスが寝言で急に大きな声を出すから、僕びっくりして飛び起きたんだ》
『そ······それは悪い事をした。申し訳ない』
「わぁ~~! ちゃんと通じた! 遠くにいても話せるの?」
『せいぜい目で見える範囲くらいだな。離れるほど聞こえずらくなる』
「そっか·········遠くにいると分からないのか」
『しかし契約すると、契約者の心と繋がっているから、遠く離れていても契約者の感情は分かる。そしてどこにいるかもだいたい分かるのだ』
「え~~~! じゃあ、かくれんぼしてても僕がどこにいるか分かってたの?」
『ま······まぁ、そういう事だな』
「ずっる~~~~~~い!」
『ハハハ、すまん。ただ漠然とこっちの方向にいると感じるだけだが、カイル、覚えておけ。
もし遠く離れていても、カイルが私を必要として呼べば私にはお前の居場所がはっきりと分かるようになる。私は必ずお前の元に駆けつける』
「アルナスゥーーーーー!!って呼ぶの?」
カイルは思い切り大きな声で叫んだ。
『ち······違う! さっきのように心の中で呼ぶだけていい』
「そっか······へへへ」
『ところでカイル、まだいいのか?』
「あっ! もう行かなきゃ! ナルナラ。お父様にナルナラの事をお話したら迎えに来るから、ここで待っていて! みんな! 行くよ!」
カイルはナルナラの返事も聞かずに走り出した。
『クスッ。これから楽しくなりそうだわ』
ナルナラは城に向かって走って行くカイル達の後ろ姿を見ながら、楽しそうに呟いた。
しばらく平和な時が続きます。
(*^3^)/~☆