29話 ディアボロ
カイル達がシドネッタに行く途中で通った森で、ユニオンビーストに出逢う。
彼の願いを聞く為に、カイルはアルタニアに行く事になる。
29話 ディアボロ
シドネッタには明日の夕方には着く予定だ。
道中、ハスランはアネスがここに来た経緯を聞いた。 アネスはハスランが王である[クロードの森]の仲間だ。
数年前、クロードの森から上級ユニオンばかりがいなくなった。
そしてどこかの人間の国がユニオンビーストに襲撃されたという噂を耳にしたのだが、五年前、今度はアルタニアが襲撃されたと聞いた。
アルタニアにはハスランがいる。 アネスはとにかく心配で森を出た。
そしてアルタニアに向かう途中で、倒れている人間を見つけた。 ウォルターだ。
一旦はそのまま通り過ぎたが、どうしても放っておけなくて戻り、その人間を乗せて近くの家まで行った。
その家の人はケガをした彼を受け取ると、裏にある広場にアネスを追い込んだ。
いつでも逃げることはできたしハスランの安否が気になったが、なぜかあの家を離れることが出来なかったという。
『どうしてなのか分からないのです』
そう言うアネスにナルナラが得意げに答えた。
『どうしてか教えてあげましょうか?』
『ナルナラちゃん、分かるの?』
『もちろんよ。 それはね、その髭さんがあなたの契約者だからよ』
『契約者?』
『あなたが森を出たのもきっとハスランの為じゃなくて、髭さんに逢うためだったのよ。 私もそうだったから分かるの』
『ナルナラちゃんも契約しているの?』
『そうよ、カイルとね。 私だけじゃないわ、ここにいるみんなもよ。 そしてもちろん······』
ナルナラは空を見た。
『カイザー様とハスランもよ』
『ハスラン様も? その方と?』
『そうよ。 ねっ!』
ナルナラは綺麗な紫の目でカイルを見上げた。
カイルはナルナラを見て、ニッコリと微笑んだ。
『そうなの······ウォルターが私の契約者······』
『さっさと契約しちゃいなさいよ。 とっても幸せよ』
『ナルナラ、無理に勧めるな』
『はい······アルナス様』
『そういえば、ナルナラちゃん。 カイルさんって何だか私の言葉が分かっているような気がするのですけど、気のせい?』
『あら、言わなかった? カイルはユニオンの言葉が分かるのよ』
『やっぱりそうなの? カイルさん、よろしく』
挨拶をしてくるアネッタに向かって、カイルはニッコリと微笑み、頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
森に入るとカイザーはライオンの姿に転身し、アルナスと先頭を歩いていた。
森の中程まで来た時、カイザーは周りを気にして見回す。
『アルナス、ここはユニオンの棲む森では無いはずだが······』
『その筈だが、かなりの数がいるな』
すると、目の前に真っ赤な四つ目の黒い狼の頭のユニオンビーストが現われた。
体は黒豹で黒鳥の翼を持っていて、どうやら尾は蛇のようだ。 クネクネと常に動いている。
アッシュとウォルターが馬から降りてカイルの前に立ち、剣に手をかける。
『ここは俺たちの森だ。 出て行け』
『ディアボロ!』
『······?······アルナス?······生きていたのか?』
『こんな所にいたのか』
『人間に殺されたのではなかったのか?』
『この通り元気だ。 他の者達も元気だぞ』
『なぜ人間やカイザーと共にいる』
『すまない、私が短慮だった。 人間とはあの後直ぐに和解した。 今は彼と契約している』
アルナスは、カイルを見た。
『ここに何しに来た』
『この森を抜けてシドネッタに行こうとしただけだが、丁度いい。 アルタニアの事は知っているか?』
『ユニオンに襲撃されたらしいな。 俺達のような奴らがいたわけだ』
『それは違う。 今回アルタニアに攻め込んだユニオン達は一人の人間に操られている。 そのためユニオンに多くの人間が殺され、我々にさえも攻撃してくる』
『何だと!』
『アルタニアのユニオン達を救うのに、力を貸してほしい』
『断る』
『何をそんなにピリピリしている?』
『俺はアルタニアを襲撃した時、お前まで殺されてタルラの森に戻るのは危険と思い、倒れているルーアンを連れて生き残った者達とここまで来た。 しかしあれ以来ルーアンが目覚めない。 あの人間にやられたせいだ』
『アルナス、眠りの槍だ』
カイザーが言った。
『その様だ。 それなら目覚めさせるのは簡単だ』
『アルナス、目覚めのナイフはアルタニアだ』
『あっ!······そうだった。 しかしアルタニアを取り戻しさえすれば、ルーアンを直ぐに目覚めさせる事が出来る』
『ちょっと待て』
ディアボロが話しに割って入った。
『何の話をしている?』
『ルーアンが眠っているのは[眠りの槍]という特別な槍のせいだ。
[目覚めのナイフ]で目覚めさせる事が出来る。 しかし目覚めのナイフはアルタニアにある』
『では、取ってきてもらおう』
『今は無理だ! 知っているだろう? 今はアルタニアには入れない』
「ちょっといいかな? アッシュさんウォルターさん、大丈夫ですから」
カイルがハスランから降り、アッシュとウォルターの肩をポンと叩いてからアルナス達の横に来た。
「アルナス、私にいい考えがある。 私が取りに行ってくる」
『無茶だ! カイル!』
「ユニオンは人間の気配にはあまり敏感じゃないだろう? うまく隠れれば抜け道迄行けるはずだ。 ナルナラ達が一緒に来てくれればユニオンの気配に気付いてくれるから、奴らが近づく前に隠れればいい。
そうして私はアルタニアから逃げてきた」
『しかし、抜け道迄の道は覚えているのか?』
『私が知っているわ!』
ナルナラがカイルの前に出てきた。
『お久しぶり! ディアボロさん。 カイルが使った抜け道かどうかは分からないけど、幾つかの抜け道の入り口がある場所を知っているの』
「良かった、ナルナラ。 眠りの槍で眠っているルーアンをそのままには出来ない。 アルタニアのせいで何十年も眠っていたのだろう?
俺はあの時の子供ではない。 今の俺なら行けると思わないか? アルナス」
『·········』
「アルナス、国境まで連れて行ってくれ」
アッシュがカイルの話を聞いて慌てて来た。
「カイル様! アルタニアに行くとは、どういう事なのですか?」
カイルは簡単に説明した。
「わかりました。 私も行きます」
ウォルターがアッシュの後ろでコクコクと頷いている。
そんなカイルを見て、ディアボロが驚いた。
『何だ? そいつは。 我々の話しがなぜわかる』
『カイルはアルタニアの王だ。 ユニオンの言葉がわかる』
『ほぉ~~~。 そう言って逃げるのではないだろうな』
そう言いながら、ディアボロはなぜかアッシュを見ている。
「アルナス。 国境までどれくらいかかる?」
「飛べば半日とかからない」
「では、三日後の夕方迄には戻れると思う。 馬達を置いて行くが、危害を加えないでもらいたい」
『わかった』
アッシュ達は馬から鞍と荷を外し、必要な物を取り出し、カイルは今着けている剣を外して護りの剣と癒しの盾を取り出した。
アルナス、カイザー、ハスランが転身した。
ハスランは馬の頭に鹿の角、白鳥の翼に鋭い爪を持った鷲の前足とエランドの後ろ足だ。
そしてハスランのいつもの長くて美しい馬の銀色の鬣と尾を持っていた。
「おお~~~!」
ウォルターは後退りし、アッシュも彼らの転身した姿は初めてなので、驚きは隠せなかった。
カイルはアルナスに、アッシュはカイザーに、ウォルターはハスランに乗り、ナルナラとイザクも乗せてハリスと共に飛び立った。
真っ黒な体に真っ赤な瞳のディアボロさんは、ちょっと怖い
(;・ω・)




