25話 初めての協力国
アッシュがいる牧場に行くと、多くのアルタニア避難民が集まっていた。
しかしそこにクレモリス兵が来て、カイル、アッシュ、トマスを捕らえて行った。
25話 初めての協力国
二日後、カイルが再び牧場に行くと、凄い数の人が集まっているのが見えた。
その人達がカイルを見つけると、わぁぁぁ~~~っ!!と一斉に歓声が上がった。
アッシュがカイルの所に慌てて走って来る。
大隊長なのにフットワークが軽い。
「カイル様、話しを聞き付けたアルタニアから逃げてきた人達がほぼ全員集まってしまいました。 皆に何か一言話してあげて下さい」
アッシュは渋るカイルを大きな木箱の上に追い立てるように立たせた。 そしてアッシュが手を挙げると、歓声に包まれていた場がしんと静まり返る。
カイルはコホンと咳払いをする。
「カイルランス·ロングフォードです。 皆さんにお会い出来て嬉しく思います。 皆さんが様々な苦労をされておられる事は聞いています。 これからも大変な事が待っていると思いますが、皆さんならきっと乗り越えていけると信じています。 私も出来る限りの事はさせて頂きたいと思っています。
一緒に頑張りましょう!」
そこに集まった二百人以上の人々が、再び一斉に「わぁぁ~~っ!!」と、歓声を挙げた。
その時、街の方から大勢の人がこちらに走ってくるのが見えた。
よく見ると、武器を手にした50人以上のクレモリス兵だった。
アルナスがカイルの前に立ち、その周りをアルタニア兵が囲んで、剣を抜いて構える。
アルタニア兵とクレモリス兵が睨み合う。
クレモリスの隊長らしき者が前に出てきた。
大柄でガッチリした体格で、やけに眉毛が長く吊り上がっていて、鼻の下に細長い口髭を生やしている。
「武器を捨てろ! この集会の責任者は誰だ!」
アッシュが「私だ」と言って前に出てきた。 そして後ろのアルタニア兵に向かって握った手を挙げる。
「みんな! 剣を納めろ!
アッシュはアルタニア兵に向かって命じると、髭男の前に立った。
「私が責任者だ。 何か知らないが、この者達には手を出さないでくれ」
「来い!」
剣を取り上げアッシュを小突いて連れて行こうとするので、アルタニア兵が再び剣を抜いた。
「やめろ! 大丈夫だ!」
アッシュに言われ、兵達は渋々剣を納めた。
「ちょっと待って下さい! どういう事ですか?」
カイルがアルナスを押しのけ、アルタニアの人たちに「大丈夫ですから」と言いながら髭男に近づいた。 何もしていないのに、なぜ捕まえられるのか納得できない。
「前々から不審な集まりが有るとは聞いていたが、これだけの人を集めて何を企んでいるのか取り調べる」
「クレモリスに対して何かするつもりなどありません」
「調べれば分かる!」
頭ごなしに悪い事を企んでいると決めつけているようだ。 このままではアッシュは無実の罪で捕らえられてしまいそうだと思った。
「では、私も連れていって下さい」
「カイル様! いけません!」
アッシュが慌てて止めたがクレモリス兵がサッサとカイルの剣も取り上げた。
カイルはアルナスに《大丈夫だから待っていてくれ》と言ってから、一緒に兵士に付いて行こうとした。
するとトマスが剣を前に差し出しながら出てきた。
「すまんが私も連れていってもらえないか」
「何だ? 次々と。 まあいい、お前も連れていってやる。 来い!」
◇◇◇◇
三人は城の地下にある取り調べ室らしき部屋に連れていかれた。
窓も無く松明の明かりだけで、照らされる室内には幾つかの椅子が並んでいて、その前に少し立派な机と椅子が置いてある。
取り調べ官(髭男)が座る席である。
6人の兵士がカイル達に剣を突きつけ、マグベラがドカッと立派な椅子に座って、ふんぞり返った。
「お前達は何の為に集まっているのだ? あれだけの人数でこの国に楯突けると思っているのか?」
「私達は······」
アッシュが答えようとするのをトマスが止めた。
「ハンス王は御元気か?」
「な······何だ? お前は」
「ハンス王に、ハミルトンが来たと伝えてはもらえないか」
「何を言っている! 王がお前なんかに御会いになると思うか!」
「お主の名は?」
「お前に関係無い!」
「後で後悔するぞ」
そこへ一人の兵士が慌てた様子で入って来た。
「マグベラ様。 こいつらの仲間が門の前に押し寄せています! 彼らの話しによると······」
兵士はマグベラの耳元で、小声で何かを囁く。
「なに?!」
「それだけでなく·········」
「な!······何だとぉ?!」
マグベラは椅子をひっくり返して立ち上がった。
「ち···ちょっと待っていろ······下さい」
妙な言葉を残して慌てて出ていった。
暫くして妙に落ち着いた素振りをしながらマグベラが戻ってきたが、落ち着きがない。
きっとこの三人の身元が分かったのだろう。
「こ······この方々をお連れする。 剣は必要ない!! 仕舞え!!」
マグベラは剣を突きつけていた兵士達に蹴りを入れてから、カイル達の前に立って歩き始めた。
しかしチラチラこちらを見ながら吹き出る汗を拭いている。
大広間に入ると、でっぷりと太った気の弱そうな王が王座に座っていたが、カイル達を見ると立ち上がり、ドタドタとこちらに走って来た。
「先生! ご無沙汰しております。 アルタニアがあのような事になって心配しておりました」
先生?
「ハンス様、達者にされていたか」
「はい!! それで、そちらがアルタニアの王と言うのは本当ですか? グラント王は?」
国王の名はハンスというらしい。 トマスと知り合いのようだ。
「覚えておいでではないか? カイルランス様です。 グラント王は崩御されたそうです。 それで今はカイル様が王です」
「先生······疑う訳ではありませんが、小さな頃にチラリと見ただけなので、お顔までは······」
「お久しぶりですハンス殿下。 覚えておいででないのは仕方がないと思います。 よろしければ私がカイルランスであることを証明してご覧にいれますが······」
「出来るものならやってみせろ」
出来るだけ威厳を示したいのだろう。 何気に横柄な物言いだ。
「では、窓を一つ開けて頂いてもよろしいか?」
「窓? 構わんぞ。 おい! 窓を開けろ」
兵士が窓を開けると二羽の鷲が入ってきた。
そしてカイルの両脇に降りたかと思うと、黒い鷲は大きな黒い狼に、白い鷲は大きな白いライオンへと姿を変えた。
「ひぃ~~~っ!」
ハンス王は驚いて数歩下がり、尻餅を着いた。
「な······何だ? こいつらは!」
「この黒い狼をご存知ありませんか? アルタニアの王子はいつも黒い狼を連れていたのはご存知でしょう?
そして父······アルタニア王が亡くなったので、カイザーが私の元へ来ました。 カイザーはご存知ですよね。 信じていただけましたか?」
ハンス王は少しばつが悪そうに、よっこらしょと起き上がった。
「ああ······わ······分かった。信じよう」
アルナスやカイザーをチラチラ見ながら王座に戻って「あービックリした」と呟きながら、ドカッと座った。
「しかしなぜ鳥が狼やライオンに変わるのだ?」
「彼らはユニオンビーストだからです」
「ユニオンビースト?! こいつらはユニオンビーストだったのか!!」
それを聞いた周りの兵士達が剣を抜いて構えた。
「待って下さい! 本来ユニオンビーストとは聡明で心優しい種族です。 エグモントやアルタニアを攻撃したのは、エグモントの第二王子のコーヴがユニオンビーストを操る術を使っているからです。
彼らは決して危険ではありません」
「本来に暴れたりしないのか?」
「はい。 決して」
カイルの顔に嘘は無さそうだし、トマスも頷いている。
ハンス王はやっと力を抜き、手を挙げて兵士に剣を納めさせた。
「しかし、先生とカイルランス殿が、なぜ私に会いに?」
「自分から会いに来た訳ではないのですが······」
トマスは汗をだらだら流しているマグベラをチラリと見た。
「そこにいるマグベラ殿が······」
マグベラはビクッ、として大きな体を出来る限り小さくしている。
「私とカイルランス様がこの国にいる事を知り、是非国王に会ってほしいと頼みに来られまして」
「おぉ! そうであったか! マグベラ、良くやった!」
マグベラはどうしていいか分からず「はい」「いえ」「あの」「えっと······」と、挙動不審になっている。
マグベラがアタフタしてい隙に、アッシュが一歩前に出て片膝を着いた。
「クレモリス国王陛下。 御聴き入れ頂きたい義がございます」
ハンス国王は「うん? 何だ?」と、快くアッシュに耳を貸してくれた。
「私はアルタニア国騎馬隊大隊長アッシュ·セルカークと申します。 現在ヨルドア牧場に身を寄せており、アルタニアの避難民の代表を致しております。 我々はアルタニアをまだ諦めておりません」
「うんうん、そうだろう。それで?」
「我々アルタニア民は、月に一度メルボルの宿屋で集会を行っております。 そして兵士だった者達は来たる日の為、週に一度ヨルドア牧場にて武術訓練をさせて頂いております。
ただ、今まで届け出る事を致しておりませんでした。 この場で陛下のお許しを頂きたく存じ上げます」
「そうかそうか、それは殊勝な事ではないか。 分かった、これからもその集まりを認めようではないか」
ハンス王はトマスに寛容な所を見せる事が出来て、満足げだ。 チラチラとトマスの顔色を窺っている。
「あの······王様。 私からも一つお願いがございます」
「なんですかな? カイルランス殿」
「先ほどこの者が申した様に、我々はアルタニアを諦めておりません。 そこで事を起こす時には是非御力をお借りしたいのです」
ハンス王は顔色が変わった。
「そなたらの為に私の兵を貸せと言うのか? そんな事は出来ん! あんな化け物相手に私の兵に死ねと言うのか?!」
「王様、コーヴはエグモントを落とした後、滅茶苦茶な執政をした為に直ぐに破綻をきたしてエグモントを潰してしまったために、今度はアルタニアを攻め落としました。 そんなアルタニアも既に酷い状態だそうです。
もし、エグモントの様にアルタニアがダメになると、必ず新たな国を攻めに来るでしょう。
ここクレモリス国はアルタニアに一番近い国です。 次に狙われる可能性は高いと思われます·········ちなみに、どちらの国でも国王は直ぐに殺されています」
「わ······私を脅迫しているのか!!」
ハンス王は太った顔を真っ赤にして怒鳴った。
「いいえ、真実を言っているのです。
私はこれ以上、エグモントやアルタニアのような目にあう国を増やしたくありません。 コーヴがアルタニアを捨てる前に何とかしたいと思っているのです」
「何か策はあるのか?」
「いいえ······残念ながら今はまだ何もありません。 しかし各国に散ったアルタニアの民と連絡を取り、各国の協力を仰ぎ、同時に各地に住むユニオンビーストにも協力を要請したいと思っているのです。
私としても操られているだけのユニオンビーストを力でねじ伏せたいとは思いません。 何かきっと策はあるはずです。 その為には、まずは出来る事から始めるつもりです」
「そ···そうか······協力する。 協力するぞ! 何とかしてくれ!
私に出来る事なら何でもするから言ってくれ。 そうだ。アッシュと言ったな」
「はっ」
アッシュは再び片膝を着いた。
「牧場での訓練では何かと不便であろう。 我が国の訓練場を貸そう。 ついでに先生に、我が国の兵士の指導もして頂けるならこれ程の事はない。 いかがですか? 先生?」
「毎日とはいきませんが、それで良ければ」
「もちろんです先生!」
ハンスは手を叩いて喜んだ。 それだけ信頼されていることが見て取れる。
······トマス・ハミルトンってどれだけ凄い人なんだ······
◇◇◇◇
城の外へ向かう途中、カイルはトマスに聞いた。
「トマスさんはハンス王と知り合いだったのですね」
「昔の教え子だよ。 出来のいい生徒では無かったが、やけに懐いてくれていた。
ある時、山への散策に付き合わせれていた時、ハンス様が突如出てきた熊に襲われて危ない所を助けてやった事がある。 それからというもの、それまで以上に慕ってくれて、私がアルタニアに士官してからも時々この国に呼ばれて兵士の育成に力を貸したものだよ」
「そんな事が······お蔭で助かりました」
「いや、私が居なくても君達なら何とか出来ていたと思うが······」
「とんでもないです。 ありがとうございました」
マグベラって、アニメとかで出てくる小物の隊長のイメージです。
弱い者には強く、強い者には弱い。
でも、そんなに悪い人じゃ無かったりするんですよね。
(^^)b




