21話 クレモリス国
18歳になるカイルは、トマスとクレモリス国の王都に向かった。
そこである人物と出逢う。
21話 クレモリス国
十三歳だったカイルは、もうすぐ十八歳。
背が高く、美形で逞しい立派な青年に成長していた。
カイルがトマスの所から訓練を終えて帰って来た。
「サラさん、明日王都に買い物に行く事になりました。 それで朝にトマスさんが山から降りて来るので、朝食を御一緒にと言ってしまったのですが、構いませんか?」
「もちろんだよ! 日頃のお礼も兼ねて御馳走を作らないといけないね。 えっと······あれはあったかな?」
サラは快く承諾してくれ、パタパタとキッチンに走って行った。
今から張り切っている。
◇◇◇◇
翌日の早朝に、トマスが来た。
待ちわびたカイルがドアを開けると、トマスが少し照れた様子で立っていた。
「トマスさん、ようこそ! どうぞ中に」
トマスが乗って来た馬を表に繋ぎ、中に招き入れようとした時、アルナスが横をすり抜け出て行った。
「アルナス、どこへ行くんだ?」
『熊公が来ている』
アルナスが顎で示した山道の入口の茂みの中に、半分ほど隠れている熊公がいた。
アルナスはその茂みに向かって走って行った。
隠れているつもりなのか、実は隠れる気などないのか、中途半端な隠れ方だ。
『熊公、こんな所にいて人に見つかったらどうする。 隠れるならちゃんと隠れろよ。 隠れる気がないのなら山に帰れ。 もしくは、人が怖がらない姿に転身しろ』
『·········』
『そんなに心配なら、契約しろ』
『·········』
『契約すれば相手の心が共にある。 見ていなくても契約者の感情が流れ込む。 何かあれば分かるようになるのだ』
『·········』
アルナスは何も言おうとしない熊公を説得するのを諦めた。
『······ふぅ······街に行くだけだ。 私も付いていくので心配するな。 大丈夫だ』
『·········』
熊公は暫くアルナスと家を交互に見ていたが、やがて森の中に入って行った。
◇◇◇◇
家の中ではみんなで朝食を食べていた。 やっと落ち着いて椅子に座ったサラにトマスが頭を下げる。
「サラさん。 いつも美味しい弁当を本当にありがとう」
「いえいえ、そんな事しか出来ませんから。 こちらこそいつもカイルがお世話になって、ありがとうございます。 今日は街に買い物に行くのだそうですね」
「練習に使っていた剣がボロボロになってきましたのでな。 ちょうど今日はカイルの誕生日なのでプレゼントしようかと。 中古位しか買ってやれませんが」
「とんでもない、充分です!」
カイルは本当に嬉しそうで、いつになくウキウキしている。
食事を終えるとハスランに乗り、アルナスだけを連れて街に向かった。
ナルナラたちは御留守番だ。
ここはアルタニアの隣国、クレモリス国の郊外。 王都である街までは結構遠い。
途中で昼食を取り、昼過ぎになってやっと到着した。
街の東門から少し離れた所でハスランから降りる。 ハスランはいつでも呼び寄せることができるので、街の外で待ってもらうのだ。
トマスの馬を東門の脇にある預り所に預け、王都の中に入った。
街の中はかなりの賑わいだ。
四階、五階の建物が立ち並び、ずらりと店が軒を連ねている。 その間を沢山の人が忙しげに行き来しているのだが、服装などもオシャレできらびやかだ。
カイルは買い物で近くの町にはよく行くが、王都は初めてだった。
「わぁ~~~」
カイルは子供の頃に一度、アルタニアの街を歩いた事があるが、それ以来の賑やかな街だった。
見る物全てが珍しい。
「街は初めてか?」
「子供の頃に一度、アルタニアで」
「そうか······でもあんまりキョロキョロするな、みっともない。 あっ、ちょっと待っていろ」
トマスは前を歩いている兵士を呼び止め、何かを聞いていた。
「こっちだ」
「何を聞いていたのですか?」
「この街で一番腕のいい鍛冶屋の場所だ。 武器屋や中古屋でも売っているが、剣を買うなら鍛冶屋がいい。 最近開いた店という事だが、とても腕がいいらしい。 あぁ、そこだ」
間口の狭い小さな店だった。
中には剣や槍等の武器の他、鋤や鍬等の農具も所狭しと並んでいる。
「どなたかおられるか?」
声を掛けたが返事が無かったので、取り敢えずトマスが剣を物色していると、ガッチリした体格の老人が奥から出てきた。
「いらっしゃい、剣をお探しかな?」
カイルはその老人を見て驚いた。
アルタニアの[市]で指輪を売ってくれたガントだった。
「ガントさん! ガントさんじゃないですか! 私です、カイルです!」
ガントは背の高いその青年をじっと見ていたが、後ろからヌッと現れた黒い狼を見て驚いた。
「カ···カイル様······ですか? そうだ! カイルランス様だ!! あぁ······よく御無事で······」
ガントは目に涙を浮かべ、ひれ伏した。
「やめて下さい、ガントさん!」
カイルは膝を着き、両手でガントを抱き起こした。
「ガントさんもよく無事で」
「兵士の方々に逃がしていただきました。 指輪をお売りした時に頂いた金貨袋をお守りのように持ち歩いていたのですが、それのお陰でこの店を出す事ができました。 本当に感謝しております。 そうだ! アッシュ殿もこの国においでです」
「アッシュさんが?!」
「アッシュ殿は、ずっとカイル様の事を心配しておいででした」
ガントとカイルのやり取りを黙って聞いていたトマスが口を開いた。
「ガント······私を覚えておいでか?」
ガントはトマスの顔をじっと見ていたが、見覚えのある顔にハッとして破顔した。
「ハミルトン殿?······ハミルトン殿ではないですか!! おぉ······お懐かしい。 貴方様も無事逃げ出せたのですね」
「いや、私は随分前にアルタニアを出てこの国で暮らしていた。 カイル様とは偶然お会いしたのだ」
「あのぅ······お二人は、お知り合いだっのですか?」
「ああそうだ。 ガントはとても腕のいい鍛冶師でアルタニアの兵士でこの男を知らない者はいないよ。 それより先ずは剣を売ってくれないか? カイルの···カイル様の誕生日プレゼントとして買いにきたのだが」
「そうでしたな······今日はカイル様の御誕生日でした。 ハミルトン殿、どれでも好きな剣を持って行って下さい」
「それでは私からのプレゼントにならないではないか。 代金は払わせてくれ」
トマスは一振りの剣を選び、代金を払った。
ガントが「少しお待ちを」と、奥から鞘ベルトを持ってきてカイルに渡した。
「僭越ながらこれは私からのプレゼントです。 ぜひお受け取りを」
シンプルだが、作りのいい物だった。
カイルは快く受け取った。
「わぁ! 凄いや! ガントさん、トマスさん、ありがとうございます!」
カイルは喜んで今貰ったばかりの剣を鞘ベルトに付け、腰に巻いた。
カイルは、超美形に育ちました。
背が高い美形って、大好き。
( 〃▽〃)




