2話 カイルとの出逢い
カイルが、この物語の主人公です。
暖かい目で見守って下さいね(*^3^)/~☆
2話 カイルとの出逢い
アルナスはゆっくりと目を開けた。
起き上がろうとしたが身動きが取れない。 見ると、体中鎖で縛り上げられていた。
そして周りには沢山の仲間が横たわっていた。
『なんだ······これは······』
「目が覚めたか?」
話しかけてきたのは、あの長い槍を持っていた男で、横にはカイザーが立っていた。
「そなたがタルラの森の王とみた。 そうだな」
アルナスはその男にチラリと目線を向けたが、聞こえなかったかのように横にいるカイザーに向かって問いかけた。
『カイザー、これはどういう事だ?』
『それは、こちらのセリフだ、アルナス。 この方の質問に答えよ』
『人間の?』
『この方は我々の言葉がわかる』
『?·········あぁ、こいつがアルタニアの王か』
「そうだ。 私がアルタニアの王ロンダリオだ。そなたと話がしたい」
アルナスは周りに横たわる仲間を見て唸るようにつぶやいた。
『これだけの仲間を殺されて、話も何もないだろう』
「よく見ろ。 眠っているだけだ。死んではいない」
隣に横たわる仲間をよく見ると、気持ちよさそうに寝息を立てていたのが分かり、アルナスはホッと胸を撫で下ろす。
「暴れないと約束してくれるなら、その鎖を解いてやろう」
『······分かった。暴れたりはせん。 暴れはしないが、鎖を解く必要はない』
そう言うとアルナスの体がみるみる小さくなっていき、黒い狼の姿となり、スルリと鎖から抜け出した。
「流石だな。カイザーの言う通りだ。 君達を縛り付けても意味がない。 しかし、目が覚めた途端にガブリというのは御免だから縛らせてもらった。······そこでだ。
タルラの森の王アルナス。
何故このような暴挙に出たか教えてもらおう」
『人間が悪い!』
アルナスは牙をむいた。
『何度追い払っても我々の森に入ってくる。 ユニオンの中にも気の荒い奴等もいる。 そいつらが森に入ってくる人間を襲い始めた。 このままでいくと·········』
「いつかは殺してしまう······か?」
『そ······そうだ! 我々のような恐ろしい化け物が森にいると知れば、もう森へは入ってこないだろう』
アルナスは、焦って答えた。
本当は、人間が大好きな事を知られないように。
「そういう事か。 驚いて転んだ者や、崩れてくる建物の破片に当たってケガをした者はいたが、襲われた者がいないのも変だとは思っていたのだ。 さすがは心優しいユニオンだな。 ······いや、······すまなかった」
ロンダリオは深々と頭を下げた。
「君たちの森に入り、君たちの仲間を殺す輩がいることを、私は最近知った。 面目ない。 そいつらは捕まえて厳罰に処した。二度と同じごとはないと約束する」
アルナスは人間に大きなケガがなかったと聞いて思わず少しホッとした顔をみせてしまったのをごまかすように、威厳たっぷりと顎を上げた。
『そうだ! 我々の森に入りこむ人間が悪い! お前も王なら民をちゃんと監視しろ!』
威厳たっぷりに怒鳴ったが、狼の姿なので、ロンダリオより目線が低いのが残念だった。
「そうだな······謝って済む問題ではないことは承知しているが、このとおりだ」
ロンダリオは再びアルナスに深く頭を下げた。
アルナスは『そこまで言うなら許してやらんこともないが』と、ブツブツ言っている。
「で······だ·········」
ロンダリオはゆっくり顔をあげ、少しいたずらっぽい顔をあげた。
一瞬アルナスが怯む。
『な······なんだ』
「私は君たちの言葉が分かる。 そしてもちろん禁断の森に入ったことがない」
『?······それがどうした』
アルナスはロンダリオの言葉の意図が分からず戸惑う。
「私の子供の頃の遊び相手はユニオン達だった」
『?』
「それがどういう事か分かるな? そして今でも国内の至るところで君達の声を聞く事がある」
アルナスは大きく目を見開いた。
「しかし、私はそれを責めるつもりはない。 むしろ歓迎している」
『?!』
「私はユニオンたちが好きだ。 君たちほど慈愛に満ちた種族はいないと思っている。 遠い昔、君たちは人間と共に生きていたと聞く。
私は再びそのような時代がくることを望んでいる」
ロンダリオは、少し間を開けた。
「今回の事で、君たちが実在することが知れただけでも私には良かったように思う。 ただ、恐ろしい種族としてだが、仕方あるまい。 そこでだ。タルラの森の王アルナス。
君に相談がある」
『な······何だ?』
アルナスは完全にロンダリオのペースに巻き込まれている。
「アルタニアとタルラの森の間だけでも、遠い昔の約束を緩めてもらえないだろうか?」
『緩めるとはどういう事だ?』
「君たちが望むなら、遠慮なくアルタニアに入ってきてくれていい。まぁ既に多くのユニオンが入ってきているし······」
(カイザーもいるしと、思ったが口には出さなかった)
ロンダリオは口の端でニッと笑った。
「その代わり我々がタルラの森に入ることを許してほしい。 もちろん好き勝手に入らせたりはしないし、狩りはさせない。 許可制にしようと思う。
そうすることで森に入る者の数を制限することができる。
違法だと分かっていても、タルラの森の恩恵に預かることでやっと生活していけている者たちがいるのは事実なんだ。
どうだろう、タルラの森の王アルナス。
みんなを説得してもらえないだろうか?」
考えあぐねているアルナスを見て、カイザーが口を開いた。
『お前は昔から契約者をみつけたいと言っていただろう? もしここで、この話を拒絶すると、もう二度と契約者とであえるチャンスはおとずれないかもしれないぞ。 人間はもう長いあいだ平和に暮らしている。 過去の過ちを再び繰り返すごとにはならないように思う。
私も出来ることなら、昔のように我らが人間と共に生きることができる世が来ることを望んでいる』
すでに自分が人間界に入り込んでいるということは、棚に上げておくことにした。
『まずはタルラの森から始めてはどうだろう。 私からも頼む』
カイザーは少し脅しを入れながら説得にくわわった。
『·········』
アルナスはしばらく考えていたが、一度周りを見回してから、うなずいた。
『承知した。やってみよう。
但し森の中で狩りをしない事。
森の奥深くまで入らない事。
森の中で夜を越さない事。
そして、森の中では決して火を使わない事。
それだけは守ってもらいたい。 できるか? それができるなら我々も獣から人間を守ることを約束しよう』
「もちろんだ。約束する。 そして感謝する」
アルナスはロンダリオの心から嬉しそうな顔を見て、暖かい気持ちになった。
『まぁ、喜ぶのはまだ早い。 いくらタルラの森の王でも独断では決められない。 できる限り、みんなを説得してみよう』
「感謝する。では、君の仲間を起こそう」
そう言ってロンダリオは懐から一振りのナイフを取り出した。
『何をする!!』
アルナスは思わず牙をむく。
「心配するな。 これを使って目覚めさせる。 このナイフは[目覚めのナイフ]といって、この[眠りの槍]で眠らせた者を起こすことができる。どちらも刃を突き立てても傷1つ付く事はない。 おぬしの前足にも刺したが痛みもないであろう?」
アルナスは自分の前足を見たが、痛みどころか傷もない。
「納得してもらえたか? では始めるが、1つお願いがある」
ロンダリオは今から目覚めさせるユニオンビーストの後ろに移動した。
「御主の仲間を目覚めさせた途端に暴れられては困る。 御主が前に立ち目覚めた者達に説明していってもらえないだろうか」
『承知した』
アルナスは元のユニオンの姿に転身し、目覚めさせる者の前に立った。
「では、いくぞ」
ロンダリオが横たわるユニオンビーストの腰にナイフを突き立てた。
アルナスは不安げに見ていたが、そのユニオンビーストはグルルルと喉を鳴らしてゆっくりと目をあけ、目の前に立つアルナスに目を止めた。
『······アルナス様?』
『目覚めたか? ザザ』
ザザは、起き上がりながらまわりを見て驚いた。
『あ! みんな!』
『大丈夫だ。みんな眠っているだけだ』
『アルナス様、これはどういう?······』
『すまなかった』
アルナスはザザに頭をさげた。
『私が短慮だった。 人間とは和解した。 詳しいことは森に帰ってから話す。 これからみんなを起こすから、しばらくここで待っていてくれ』
とりあえず納得したザザを見てから、ロンダリオに向かってうなずいた。
『いいぞ。次だ』
ロンダリオとアルナスはそうやって、百四十数頭を順に目覚めさせていき、その後、アルナスは仲間を率いて森に帰っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
数十年の月日が流れた。
「7······8······9······10! カイル様! 行きますよ~~! ここかな?······いませんねぇ······」
この男の名は[タントゥール]
アルタニア国の侍従で、隠れているのはフルネームが[カイルランス·ロングフォード]
5歳になったばかりのアルタニアの王子である。
散策に来た郊外のこの場所で、いつものようにカイルの好きな[かくれんぼ]に侍従達は付き合わされていた。
鬼になったタントゥールを木陰からクスクス笑って見ていたカイルは、クルッと木に背中を向けてもたれ掛かった。
「ふぁ~~」
カイルは大きなあくびをして目をこすった。
「カイル様はどこかな?」
タントゥールの声を聞きながら、カイルはジッと森の奥を見つめた。 そして引き寄せられるように森の奥に向かって歩きだした。
暗い森の中を歩いていくと、突然開けた場所に出た。
「わぁ~~! きれい!」
その場所は赤、白、ピンクなどのカラフルな花が一面に咲き誇り、明るい日差しと優しい風に吹かれてキラキラと七色に輝いて見える。
その開けた場所の真ん中に少し盛り上がった場所がある。
そこに5つのブルーの目を光らせた巨大な生物がこちらをジッと見つめて横たわっていた。
カイルはまるでそれが見えていないかのように広場の真ん中に向かってトボトボと歩いてゆき、まるでいつもそうしているかの様にそれの腹の辺りに座り込んで、フワッともたれ掛かった。
「ふかふかだ。気持ちいい······僕はカイルランス。カイルって呼んでね。
君の名前は何ていうの?」
『······アルナス』
アルナスは体を曲げてカイルの顔をジッと見つめた。
「アルナスっていうんだね。 よろしくね」
それだけ言うと、カイルは目を閉じた。
『あなただ。 やっと出会えた。 これからはずっと側にいる』
大きな2本の尻尾をバタンバタンと降りながら、大きな舌でカイルの口元を優しく舐めた。
「フフフ くすぐったい。 一緒にいてくれるの? 嬉しいけど······アルナスは大きいから······僕の部屋に·········入る······かなぁ?·········」
それだけ言うとカイルは眠ってしまった。
カイルの顔を嬉しそうに見ていたアルナスの体はみるみる小さくなり、黒い狼へと姿を変えたのだった。
狼と話がしたい!