18話 新しい家族
優しい一家に助けられたカイル。
穏やかな時間が過ぎて行きます。
18話 新しい家族
カイルが目を開けると、あの日の抜け道から見たのと同じ真っ赤な夕焼けで部屋が赤く染まっていた。
あの時の恐ろしさが甦り体が硬直した。
『カイル? どうした?』
首に回した手に力が入るのを感じて、アルナスは心配になって聞いてきた。
「あ、ごめん。 何でもない」
――― そうだ、もう大丈夫なんだ―――
――― アルナスもいる。 みんなもいる。 優しい人達にも出逢えた。 何も怖がる事はないんだ ―――
夕焼けが美しいと思える日が早く来ればいいと思った。
カイルは喉が乾いたので、水を貰いに行こうとベッドから出た。
しかし立とうとしたが足に力が入らず、ドタドタッと倒れてしまった。
『カイル! 大丈夫か?』
「うん。 足に力が入らなくて······」
ニックが物音を聞きつけて慌てて入ってきた。
「お兄ちゃん! どうしたの? 大丈夫?」
「お水を貰いに行こうと思ったのだけど······」
「僕が持ってきてあげるからベッドで待ってて」
カイルはニックに手伝ってもらってベッドに戻った。
直ぐに水を持ってきてくれた。 さっき飲んだのとは違い、本当に甘くて美味しい。
「中に何か入ってるの?」
「母さんが蜂蜜と果物の汁を入れてたよ。 体にいいからって。 直ぐにスープを温め直して持ってきてくれるけど、食べれる?」
「うん。 お腹が空いた」
ニックがニッコリと笑って頷いてから出て行くと、直ぐにサラがスープを持って入ってきた。
「ベッドから出ようとして転けたんだって?」
「すみません」
「別に謝る事じやないさ。 五日も寝てたんだ、当たり前だよ。 無理しないでゆっくり治せばいいさ。 スープ、飲むだろ? 起こしてあげようね」
サラはカイルを起こして膝の上にスープを置いた。
「自分で飲めるかい?」
「はい、大丈夫です」
「キノコとミルクのスープだよ。 熱いから気をつけてお飲み」
カイルはスープを口に運んだ。 キノコとミルクの香りが口の中で広がった。
懐かしい味がした。 母が作ってくれたスープの味と似ている。
父と母と三人で食卓を囲み、笑い合った日々を思うと、涙がこみ上げてきた。
暖かいスープを口に運ぶ度に涙が溢れ出た。
「お母様······うっうっ······」
「我慢しなくてもいいんだよ。 泣きたい時は思いっきりお泣き」
サラが優しく抱き締め、背中を擦ってくれた。
母がいつもしてくれていた様に。
カイルは我慢できずに、声を上げて泣いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
暗くなってからトムが帰ってきた。
ノックがあり「入ってもいいかな?」と、声を掛けてきた。
「どうぞ」
「カイル君、気分はどうだ?」
「[カイル]でいいです。 とてもいいです。 助けていただいてありがとうございました」
「ではカイル、君はこの先どうするか考えているのか? 家はアルタニアだろ? どこか他に行く当てはあるのか?」
カイルは俯いて首を振った。
「では、このままここで暮らすというのはどうだろう?」
カイルはパッと顔を上げる。
「いいのですか?」
「もちろんだ。 但し、元気になったら家の仕事を手伝ってもらう。 それでも構わないか?」
「はい! もちろんです。 何でもします! ありがとうございます!」
「よし、決まりだ。 とりあえずの君の仕事は体を完全に治す事だ。 いいね」
「はい!」
トムが出て行くと、カイルは小声で「やった!」とアルナスに抱きついた。
『いい人に助けてもらったな』
「うん! 早く治していっぱいお手伝いしなきゃ。 歩く練習するから手伝って」
カイルはアルナスの背中に手をかけ、今度は転けない様に立ち上がり、部屋の中をゆっくり歩いた。
『癒しの盾は、これくらいパパッと治してくれないかしら?』
ナルナラに言われ「そうだ」と、カイルは癒しの盾を取り腕にはめると、少し体が軽くなった。
◇◇◇◇
ニックが夕食が出来たと呼びに来た。
「お兄ちゃん、歩ける? 支えてあげようか?」
「大丈夫·········ほら」
カイルは一人で立ち上がった。 アルナスに掴まりながらダイニングまで歩いて行き、席に着いた。
質素だが美味しそうな食事が並べられていた。
今まで当然のように座っていた食卓とは、こんなに心を和ませるものだったんだ。
カイルは思わず、胸が熱くなった。
「そうだカイル。 明日、リハビリ代わりにニックの仕事を見てみるか?」
「仕事? ニックは仕事してるの?」
「そうだよ」
ニックは当たり前でしょという顔で答えた。
「やはりカイルは裕福な家庭で育ったようだね。 私達のような農民の子は、物心が付く頃から仕事を手伝うものなのだよ」
「学校は?」
「もちろん行けないよ。 学校とは街の裕福な家の子が行くものだよ」
カイルはそんな現状を知らない自分が恥ずかしかった。
自分には沢山の先生付いてくれていて、当たり前のように色々な事を教えてくれた。
それを当然と思っていたし、面倒だとさえ思っていた。
そして普通子供は学校に行って友達と楽しく学ぶものなのに、自分は大勢の大人に囲まれて一人で勉強しなければならなかった。
それが当たり前の事だと思っていたし、そんな学校に行く子供達が羨ましいとも思った。
自分がどれだけ贅沢だったかを思い知った。
「お兄ちゃん、朝早いよ? 起きれる?」
「多分大丈夫。 でも起こしに来てくれると嬉しいな」
「うん。任せて!」
毎朝キッシュの世話をしていたので自信はあったが、まだ疲れが完全に取れていないので少し心配だった。
「ところでカイル······君に聞きたい事がある」
食事が終わって、サラとニックは後片付けをするために部屋を出て行った。
「何でしょうか?」
「その·········間違っていたらすまないが、君と一緒にいる動物達。 君の友達は、その·········ユニオンビーストなのか?」
カイルはハッとして思わずアルナスを見た。
《どうしよう······ばれた? 正直に答えた方がいいかな?》
《弱ったな。 しかしこの者には怯えがない。 もしかしたら·········》
「警戒しなくてもいい。 昔、私の父がユニオンビーストと契約していたんだ。
私はいつも彼女に遊んでもらい、護ってもらった。 君達を見ていると特別な絆を感じる······違うのか?」
《アルナス、言ってもいいのな?》
《嘘を言っているようには見えない······いいだろう》
「わかりました、トムさん。 確かに彼等はユニオンビーストです」
「やはりそうか。 四頭とも?」
「はい」
「その狼と契約しているのか?」
「全員です」
「えっ? そんな事が出来るのか? この時代、契約相手と出会う事事態奇跡だと彼女は言っていた······いったい君は何者なんだ?」
「············」
「いや······いい。 そんな事はどうでもいい。 そうか······ユニオンビーストか······私は子供の頃からユニオンビーストと契約するのが夢だった。 羨ましいよ、君が。 その子の名は?」
「アルナスです」
「アルナス君、君を歓迎する。 しかし他の人には黙っておいた方がいいな」
「アルナスもそう言っています」
「他の子達も呼んであげなさい。 近くにいたいだろう」
ちょうどその時ニックが戻ってきた。
「ニック、カイルの部屋のドアを開けておあげ」
ニックがドアを開けると三頭が出てきて、イザクとハリスがカイルの肩に、ナルナラが膝に乗った。
「聞こえてた? この人に君達の事を話したよ」
『でも、大丈夫なのかしら?』
「本当のユニオンビーストの事を理解してくれているから。 それに、これからここでお世話になるしね」
『そうね。 よろしくお願いしますって伝えておいて』
イザクとハリスも頷いた。
「トムさん。 みんながよろしくお願いしますって」
「ハハハ、そうか。 こちらこそよろしく」
新しい家族が出来た。
カイルはこれから楽しくなると、心を踊らせた。
こんな田舎でも、ユニオンビーストと出会い契約する人がいたのですね。
(^ー^)




