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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第一章 ユニオンビースト
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17話 心安らかな時間

やっとの思いで国境を越える事が出来たカイルの新しい生活が始まります。

 17話 安らかな時間




「ニック、あっちに見えている道の向こう側はユニオンビーストが出るから、行ってはダメだぞ」

「わかってるって」


 ニックは父親と山菜を採りに国境間際まで来ていた。


 すると、目の前に紫色の目をした真っ白なウサギが飛び出してきた。


「わぁ、可愛い! おいで」


 手を前に出してゆっくり近づいたら少し逃げたが、立ち止まってこちらを見ている。

 また近づくと、少し逃げては何かを言いたげにこちらを見ている。


「お父さん!来て!」

「どうした?」

「あのウサギ、どこかに案内しようとしているみたいなんだけど······」


 父親が近づくと、また同じ様に離れては待っている。


「どうした? どこかに案内したいのか?」


 ウサギ何かを言いたげに再び離れては振り返る。


「ニック、付いて行ってみよう」




 その言葉が分かった様にウサギは走りだし、二人が付いて来るのを確認して、また走った。


 アルタニアの国境沿いの道に出て暫くウサギに付いて行くと、道の真ん中に何かがあるのが見えた。


 よく見ると人だ。


 それも子供と分かり、父親は急いで近付いた。

 抱き上げてみると、息はあるが意識は無い。


 この時期にしてはワイシャツ一枚だけの薄着で、しかも服は汚れているうえ、破れたり焦げたりしていてボロボロになっている。




「アルタニアから逃げて来たのか? ニック、この子の剣と盾を持ってあげなさい。 急いで牛車に戻るぞ」


 父親は少年を抱え上げ、ニックが剣と盾を大事そうに抱えて急いで戻った。




   ◇◇◇◇◇◇◇




 カイルは目を開けた。




 見覚えのない天井や壁が目に入った。



 それまでにも何度か目を覚ましたような気がする。

 悪夢にうなされ目覚める度に、優しく温かい声が聞こえた。


 ─もう大丈夫なのよ。 安心してゆっくり眠りなさい─ 


 そういう声を聞いて、安心して眠った記憶がある。




 あまり裕福とは言えないこの家の布団とは思えないようなフワフワでとても暖かい感触がある事に気づいた。

 それがモコモコ動き出して、布団から長い耳がピョコンと飛び出した。 そして紫色の目をした可愛いウサギが顔を出した。



『カイル、わかる? 私よ』


 それは転身したナルナラだった。


「ここはどこ?」

『良かった、大丈夫なのね。 助けられたのよ。 国境は越えたわ、もう心配ないのよ』


「イザクとハリスは?」

『そこにいるわ』


 ナルナラが指した先には、窓ガラスにへばり付いて喜ぶ二頭がいた。


『『カイル様!!』』


 窓枠から落ちそうになりながら、ピョンピョン跳ねている。



 その時ナルナラがハッとしてヒュルルと小さくなり、ウサギの姿に転身して布団に潜り込み、顔だけ出した。



 バタンとドアが開き、七~八歳の男の子が手桶を持って入ってきた。


 手桶の中の水を溢さないようにじっと見つめ、腰を落としてそぉ~っと歩いてきた。


 少年が手桶をテーブルに置こうとした時「あの······」と、カイルに声を掛けられてビクッとした瞬間、手桶から水がバシャっと溢れた。



「あっ! お兄ちゃん、気が付いたんだね。 良かたぁ。 ちょっと待ってて」


 少年は手桶をテーブルに置き「母さん! お兄ちゃんが起きたよ!」そう言いながら出ていった。




『ふふふ、あの子いつも必ず水を(こぼ)すのよ。 今日初めて成功するかと思ったのに残念ね』

「え?······悪い事したな」


    

 そこへ小太りの母親がエプロンで手を拭きながら、さっきの少年と入ってきた。


「気がついたのかい? 良かった」


 カイルは起き上がろうとしたが、体が思うように動かない。


「あらあら、まだ無理しちゃいけないよ」


 母親は、枕を背もたれに、カイルを座らせてくれた。



「あんたは五日も寝ていたんだよ」

「五日も?······」

「そうだよ。 このまま起きないのかと心配していたけど、良かったよ」

「助けていただいてありがとうございます」


 カイルは頭を下げた。


「まぁ、礼儀正しいね。 そうだニック、湯冷ましを持ってきておあげ」

「うん」


 ニックはパタパタと走っていった。





「アルタニアから、逃げて来たんだろう?」

「はい」

「ご両親は?」


 カイルは分からないという意味で首を横に振った。



「そうかいそうかい······それは大変だったね。 お父さんは兵士だったのかい?」


 母親は棚の上を見た。 目線を上げるとそこには綺麗に洗われて畳まれているカイルの服と剣と盾が置いてあった。


 どう答えていいものか迷っていると、少年が湯冷ましを持って入ってきた。


「お兄ちゃん! はい!」

「ありがとう」


 カイルは一口水を口に含んだ。 少し甘味まであるように感じ、喉の奥に染み渡る。 残りの水を一気に飲み干した。


 水がこんなに美味しく感じたのは初めてだった。



「美味しかった。 ありがとう」

「ねぇ、そのウサギはお兄ちゃんが飼ってるの?」

「そうだよ。 でも飼っているんじやなくて、友達なんだ」


「そのウサギさんが僕と父さんをお兄ちゃんの所まで連れていってくれたんだよ」

「そう······」


 カイルは見上げるナルナラの頭を優しく撫でた。


「ありがとう、ナルナラ」

「そのウサギさんはナルナラっていうのか。 じゃあ、あの子達も友達?」


 ニックは窓ガラスにへばり付いて中を見ている二頭を指さした。


「うん」

「ニック、窓を開けておあげ」


 母親に言われてニックが窓を開けると、二頭はカイルに飛び付いた。


「イザク、ハリス。 ごめん、心配かけたね」


 カイルは二頭を抱き締めた。





 カイルは、改めて二人に挨拶し、ナルナラたちも紹介した。


「僕はカイル。 この子はナルナラ。 この子がイザクでこの子がハリスです。 お世話になります」

「私は[サラ]、この子は[ニック]。 それと今は仕事でいないけど、亭主は[トム] よろしく」



《アルナスは?》

《御姿は見ていません》ハリスが答えた。

《アルナス! 僕はここにいるよ 来て!》


 きっと探しているだろう。 すっかり忘れていた。



「実はもう一人友達がいるんです。 途中ではぐれちゃったんですけど、黒くて大きい狼です······もし見つかったら······アルナスも······アルナスっていうんですけど、彼も家に入れてもいいですか?」

「沢山いるんだね。 もちろんいいさ、見つかるといいね」


 その時、窓の方からドンッ! と音がして、驚いて見ると黒い狼が中を覗いていた。



「あっ!!アルナス!! サラさん、アルナスです!」

「ニック、玄関を開けておあげ」

「いいえ! ニック、窓を開けてくれる?」


 窓を開けた途端、アルナスはヒョイと窓枠を飛び越えて入ってきた。


「アルナス! アルナス! 良かった! 無事だったんだね!」


 カイルはアルナスに抱きつき、アルナスもカイルの顔をベロベロ舐めながら、勢いよく尻尾を振っている。



「サラさん、ありがとうございます!」


「いいんだよ。 良かったね出会えて。 そうだ、お腹が減っただろう。 何か作ってやろうね。 ニック、手伝っておくれ」


 アルナスという狼とはとても強い絆で結ばれているように見えた。

 彼らをそってしてあげようと、二人は食事を作る事を口実にそそくさと部屋から出て行った。




『カイル、無事で良かった。 お前の気配は感じるのに呼ばないから心配したぞ』

『アルナス様。 カイル様はつい先ほど目覚められたばかりです』

『カイルは国境を越えた途端気を失って、今まで眠ったままだったの』

「みんなが助けてくれたお陰で国境は越えれたんだけど·········」


『みんなよくやってくれた。 カイルもよく頑張ったな』


 カイルと三頭は、滅多に誉める事をしないアルナスに誉められちゃったと、顔を見合わせてニッコリ笑い合った。




「アルナスは大丈夫だっの? 沢山のユニオンが追いかけて行ったけど」

『どうって事はない。 ウジャウジャ集まってきたが、三つ目ばかりだったから助かった。 流石に四日ほど(もぐ)ったが』

「潜った?」

『あぁ······話していなかったな。 我々はケガが(ひど)いときは、土の中に潜って再生する』

「再生?」  


『傷を治す。 足を切り落とされても潜れば元に戻る』

「生えてくるの?」

『そういう事だな。 但し、足一本再生するとなると何年もかかるが、肉をえぐられた位なら、数日で再生する』

「凄い! やっぱりユニオンビーストって凄いや」


 しかしアルナスは浮かない顔だ。 どうしたの?と、顔を覗き込んだ。



『·········カイルの気配を頼りに探し回っている時、人々がユニオンの話をしているのを何度も聞いた。 

······今の人間は本当のユニオンを知らない。

 アルタニアとエグモントを襲い、平気で殺戮(さつりく)する恐ろしい化け物という認識しかないのだ。 ユニオンに対する恐怖は相当なものだ。

 幸い我々が転身できる事など知らないから疑われる事はないだろうが、私たちがカイルと話が出来ると知れば疑問に持つ者も出て行くるだろう。 人前では話はするな。 バレないように気をつけるように』


「うん、そうする。 でも残念だなぁ······ユニオンビーストってこんなに優しくて賢くて、凄く素敵なのに······みんなにも知ってもらいたいなぁ」



 カイルにベタ()めされて、珍しくちょっとアルナスは顔がにやけたが直ぐに真顔に戻った。



『残念だが今はその時期ではない。 何時(いつ)かそんな時が来ればいいと、私も思う』



 話しながら、カイルは肩で息をし始めた。



『目覚めたばかりでお疲れでしょう。 少し眠って下さい』


 イザクが布団をかけ直して自分も潜り込み、ナルナラも布団の中に再び潜り込んだ。




『大丈夫だ、私はここにいる。 安心して眠れ』


 ベッドの横に座ったアルナスは、枕元に頭を置いた。

 カイルはアルナスの首に手を回して目を閉じた。




 あの幸せだった頃が遠い昔に感じられるカイルにとって、本当に久しぶりに心安らかな時間だった。







「お兄ちゃん、スープが············お兄ちゃん······幸せそうな顔で寝てる」




 ニックは静かに部屋を出て行った。





  

切られた足が再生するって………………

(;゜∇゜)

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