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ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第一章 ユニオンビースト
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16話 国境越え

丁度いい洞窟を見つけて、中で夜を越すことにした。

するとナルナラ目達が・・・

16話 国境越え




 日が傾きかけた頃、ハリスが洞窟を見つけたと皆を案内した。



 大きな動物の巣穴のようだが、巣穴の(ぬし)はいない。 入口は狭いのでカイルは這って中に入ったが、中は思いのほか広く、立つことは出来ないが、ゆったりと座ることは出来る。


 四方から木の根が飛び出し、湿って少しカビくさい土の臭いと(わず)かに獣の臭いがした。



『ちょっと待っててね』


 ナルナラとイザクがどこかに走っていった。



 カイルは腰を降ろすと自分が思った以上に疲れている事が分かった。 座った途端、どこかの暗闇の奥に沈み込んでしまうようなほど体が重く感じた。


 ハリスが転身して翼を広げ、入口から入ってくる冷たい空気を遮断してくれた。



「ハリスの転身した姿を初めて見た!」

『あまり変わらないでしょ』


 事実、いつもより二回りほど大きくなって心持ち目が大きくなったくらいだ。


『私は(はやぶさ)とフクロウのユニオンですから』

「フクロウはどの部分?」


 聞かないと分からないほどだ。


『眼と翼です。 フクロウの眼は夜でもよく見え、翼は羽音がしないので相手に気付かれずに飛ぶことができます。 しかし普段は早く翔べ小回りがきく隼の姿の方が便利なので…………』


 少し照れくさそうだ。


「その姿もカッコいい!」


 ハリスはカイルに誉められて、とても嬉しそうだ。



『ハリス、ちょっとどいてくれ、よっこらしょ。 うん………入口は狭いな』


 ぶつぶつ言いながら一匹の猿が入ってきた。

 カイルの肩ほどの背の高さがあるが、声はイザクだ。



「イザク?」

『あぁ、この姿は初めてでしたね。 先ずはこれをどうぞ』


 そう言って腕いっぱいの果物や木の実をカイルの前に置いた。



「大きくなっただけ?」

『そういう事です』


 イザクは何だか恥ずかしそうに答えた。


『実は・・・私は[炎]とのユニオンでして…………』

「炎?」


 そう聞いてからカイルはイザクが持ってきてくれたブドウのような果物[ボロウ]を口に入れた。


「美味しい!!」


 久しぶりに口にする食べ物のボロウは、甘くてとても美味しかった。

 思わず夢中で頬張った。


『もう少し取ってきます』


 イザクはカイルのそんな姿を見て満足げにニッコリと笑い、再び出ていった。


 

 説明を聞いてない。


 後でいいかと思いながら、ボロウを口に運んだ。




 後で聞いた話ではイザクはとても珍しいユニオンで、体を炎で包んだり手に炎を出したり、口から炎を噴いたりする事まで出来るらしい。



 今度はナルナラが転身した姿でお腹に何かを大事そうに抱えて入ってきた。


 ナルナラも転身したイザクより少し小さいくらいの高さで、顔はナルナラのままだが、体は毛がフワフワで毛足の長い真っ白な毛の猿だった。


 じつは少し厳つくてナルナラのイメージとは違ったが、そんな事は決して口には出さない。 



 …………いや、出()ない。



「ナルナラも、とっても綺麗!」


 綺麗と思ったのは事実である。



 満足げなナルナラは、雨から守るように乾いた落ち葉を胸に抱えてきていた。


『濡れた服は脱いだ方がいいわ』


 ナルナラは震えながら濡れた服を脱いだカイルに、乾いた落ち葉を掛けた。


 少し寒さが和らいだ気がする。


 

 イザクとナルナラが何度か運んできてくれ、落ち葉に包まりながら果物を食べ、お腹も膨らみ、ようやく一段落した。




「少し寝るね」


 カイルが枯れ葉に潜り込んだ。


『一緒に寝てあげる!』

『私もご一緒します』


 ナルナラとイザクがカイルの両脇に潜り込んできた。 元々ウサギは体温が高く、イザクは炎の力で体温を上げる事が出来る。



 ポカポカの葉っぱの中でカイルは眠りに落ちた。



 ◇◇◇◇



『カイル! 起きて!』


 カイルが目を覚ますと外はもう明るかった。


『雨が止んだわ。 イザクが服を乾かしてくれたから、急いで着替えて』


 服は乾いているが少し焦げている場所がある。 でも、そんな事は気にしない。



 カイルは立とうとしたが、体が重くて立ち上がれなかった。


 ナルナラとイザクに助けられながら服を着てどうにか立ち上がる事は出来たが、カイルの体は既に限界を超えていた。




 剣を杖替わりにしてイザクに支えられ、時には這いながらも前に進んだ。



『カイル! もう少しで国境よ! 頑張って!』 

  

 カイルは一歩また一歩と体に鞭打って進んだ。




 その時空から急降下してきたハリスが叫ぶ。


『カイル様! ユニオンです! 伏せて、』


 そのすぐ後から大きな影が、まばらな木々の上を横ぎっていく。

 イザクとハリスがカイルに覆い被さって隠し、何とかやり過ごした。





 一度止まってしまうと動き出すのには気力がいる。 体が思うように動かない。



『カイル! 頑張って! もうすぐそこよ! あそこに道が見えるでしょ! あそが国境よ!』

『あと、ほんの少しです! 頑張って下さい!』


 みんなは必死で励ました。


『私が下級ユニオンなのをこんなに恨んだことはないわ! 大きければ、あっという間に運んであげる事が出来るのに!』




 カイルは最後の力を振り絞って立ち上がり、歩きだした。





 直ぐ先に国境である道が見えているのだが、森から抜けたその場所までには低い丈の藪しかないので、伏せない限り丸見え状態になる。 ユニオンに見つかってしまわないことを祈るばかりだ。


 しかし、祈りに反してハリスの悲痛な叫びが聞こえた。


『大変だ! ユニオンに見つかった!!』




 振り返ると、森の中に三目の巨大な牛の頭をしたユニオンビーストが見えた。

 もはや伏せてやり過ごす事も出来ない。


 こちらを目指して真っすぐに突進してくる。



『カイル急いで!』


 ナルナラがカイルの手を引き、イザクとハリスはユニオンに向かって行った。


 ハリスは上から何度も攻撃し、相手の片目を潰した。

 イザクが口から火を噴き、牛の頭のユニオンから焦げた匂いが漂う。


 少し(ひる)むがそれでもこちらに向かってくる。


 まるで痛みも感情も無いようだ。 頭に火がついている事にも気づかずに動きを止めない。



 そして(つぶやい)いている。


『・・・国を出ようとする者は連れ戻せ・・・・・・コーヴ様がいる国の国境は越えるな・・・』




 イザクが再び炎を噴き、巨大なユニオンの体全体が炎に包まれる。


 ユニオンは猛り狂い、周りの物をなぎ倒して転げ回って体の炎を消すと、再びカイルに視線を止めて向かって来る。



 ハリスとイザクが再び挑もうと構えていたが、突如攻撃が止んだ。 そして三つ目のユニオンは何事も無かったように振り返り森へ戻って行った。





 カイルが国境を越えたのである。






『やったわカイル! 国境を越えたのよ! もう大丈夫!』

「………良かった……………」

 

 それだけ言うと、カイルは気を失ってバタンと倒れ込んだ。



『きゃ~~~~っ!! カイル!』

『カイル様!……………ダメだ、誰かに助けを求めなければ。 ハリス、近くに人間がいないか見てきてくれ』

『分かった』

『ハリス、ちょっと待って!』



 ナルナラはハリスが飛び立とうとするのを止め、耳をピクピクさせた。



『ちょっとここで待ってて』




 そう言うとナルナラはどこかへ走っていった。







炎とのユニオンって…………


水とか、風とかのユニオンもいるのでしょうか?

σ(^_^;)?


ちなみに、ペンネームの杏子(あんず)は、私が飼っている犬の名前です。

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ユニオンビースト https://ncode.syosetu.com/n4174fl/
― 新着の感想 ―
[一言] とにかく仲間のユニオンが寄り添ってカイルを励まし続けていることに感動します!動物の癒やしってそのような触れ合いですよね^^杏子ちゃんの颯爽としたお散歩もツイで拝見し元気をもらいました!
2023/03/07 20:46 退会済み
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