14話 制圧
数百のユニオンビーストに囲まれてはなす術がない。 将来の為にカイザーは城から逃げ出す事を選択する。
14話 制圧
首から下だけになったブライトの体は、まるで休んでいるかの様に壁にもたれたまま座っている。
グラントはゆっくりと目を閉じた。
「あ~ぁ、攻撃してくるからだよ。 攻撃してくる者は殺せって命令してあるからね。 あんたも死にたくなかったら、大人しくしておいた方がいいよ」
「お前の家族はどうした」
分かっているが、一応聞いた。
「あぁ······奴らは死んだよ。 エグモントを襲撃した時は『目に付く者は全て殺せ』って命令してあったから、気が付いたら死んでたよ。
残念だったなぁ······父上と兄上が泣いて助けを請う姿を見たかったのに。
でも心配するな、あんたはまだ殺さない。 聞きたい事があるからね。
でも横のライオンは俺様の物にならないならいらないや。 殺せ」
《カイザー逃げろ、私は助からない。 お前はカイルを探して護ってやってくれ》
《しかし······》
《今は無理だがあの子なら必ずこの国を救ってくれる。 あの子の力になってやってくれ》
《······わかった。 カイル殿は必ず······》
カイザーは転身した。
大きな鋭いユニコーンの角を額に一本生やした六目のライオンの頭に白い大鷲の翼。 白熊の前足とホワイトタイガーの後ろ足。 そして白い大蜥蜴の太くて長い尾が二本生えている。
体の後ろ部分に僅かに薄くグレーの縦縞がある以外は全身真っ白で、大広間の高い天井に届きそうなぼど巨大なユニオンビーストだった。
コーヴの横のライアス以外の四頭が一斉にカイザーに飛び掛かってきた。
カイザーは噛みついてくるユニオンをくわえて放り投げ、太い尾を叩きつけ、前足で殴りつけた。
四頭の一撃目を防いだカイザーは外に飛び出し、高く飛び上がった。
すかさず四頭もカイザーを追って飛び上がったが、他の空を飛ぶユニオン達もカイザーに向かって一斉に集まってきた。
数十頭のユニオンビーストに攻撃され、カイザーの白い体はみるみる赤く染まっていった。
ユニオンビースト達は、攻撃しながら何かを呟いている。
『攻撃してくる者は殺せ』
『国を出ようとする者は連れ戻せ』
『新たな五つ目以上のユニオンビーストは殺せ』
『コーヴ様のお仲間には手を出すな』
『コーヴ様のいる国の国境は越えるな』
カイザーは耳を食い千切られ、左の後ろ足は皮一枚で繋がっているだけとなり、尾は二本共半分位の長さになっている。
後少しで国境という所で翼を片方食い千切られ、カイザーはなす術もなく地上へと落ちていった。
地面に叩きつけられたカイザーは頭を一振りしてから三本の足で立ち上がり、走り始めた。
今度は地上の新手のユニオン達が次々と襲ってきた。
とにかく彼らを振り払いながら前に進んでいると、突如攻撃が止んだ。
国境を越えたのである。
カイザーは大きく『ふぅ~~っ』と大きく息を吐くと、『グラント······すまない』と、呟いた。
そして、カイザーの体はズズズッと、地面の中に沈んでいったのだった。
◇◇◇◇
「は~~っはっはっはっ! お前の可愛いライオンちゃんは飼い主を捨てて自分だけ尻尾を巻いて逃げて行ったぞ! 心を通じ合わせた結果がこれかよ!
笑わせる! はっはっはっ!」
そこへ、大広間の入口のドアから兵士が顔を覗かせた。
「あのぅ~~······コーヴ様······」
「どうした?」
「制圧が終わりました」
「よし、入ってこい」
「兵士もいるのか?」
グラントは、少し驚いた。
「当たり前だ、俺様は王様だぞ。 先発隊はこいつらに乗って来たが、他の軍隊も追っ付け来るさ」
コーヴは鼻の穴を膨らませた。
「そんな事よりお前に聞きたい事がある」
コーヴはグラントに近付こうとしたが、腰の剣に気が付いた。
「その腰の物を差し出してもらおう。 お前、取ってこい」
兵士に命じたが、兵士がグラントに近付くのを躊躇っている。
「抵抗する気はない」
グラントは自分から剣の付いた鞘ベルトごと外して兵士に渡した。 兵士はその剣をコーヴに捧げ持つ。
「これは良いベルトと剣だ、俺様がもらう」
コーヴは自分の鞘ベルトを外して今奪ったグラントの物を着けようとしたが、当然長さが足らない。 仕方がないのでもう一度自分の鞘ベルトを着け直し、今度は剣だけ付けを替えた。
「どうだ? 似合うだろう?」
「もちろんでございます。 コーヴ様」
兵士は手揉みをせんばかりにゴマをする。
今度はグラントの指に光る、ライオンの顔が彫られた指輪に目をつけた。
「その指輪も寄越せ」
しかし聞こえていないかのようにグラントは動こうとしない。
「よ こ せ !!」
それでも動こうとしないので、兵士に「取り上げろ」と命じた。
兵士がグラントの手に触れようとすると「触るな!」と有無を言わせぬ口調で怒鳴る。
グラントの怒気に、兵士とコーヴまでがビクッとした。
「ま·······まぁいい、後でいくらでも取れるからな。 そ······そうだ、お前に聞きたい事があったんだ」
コーヴは気を取り直し、ニンマリとした。
「アルタニアには王にしか使えない魔法の秘宝があると聞いたが、本当か?」
「お前にとってはただのガラクタだ」
「あるのだな? お前が死ねばこの国の王は俺様だ。 秘宝は俺様のものだ。 ガラクタかどうかは俺様が決める。 どこにある? その場所まで早く案内しろ」
グラントは小さくため息をついてから、歩き出そうとした。
「ちょっと待て! お前、奴を縛れ」
「え?······はい」
兵士は恐る恐る近付き、グラントが暴れないのを確認してから後ろ手に縛った。
グラントはいつもカイルが控えているのとは逆の垂れ幕の奥に入り、その奥にあるドアを示した。
「この部屋だ」
「鍵はどこだ?」
「私の胸ポケットにある」
兵士がポケットから鍵束を取り出し、部屋の鍵を開けた。
嬉々としたコーヴが兵士を押し退け中に入ったが、思ったよりガランとした部屋だった。 突き当たりに大きなガラスケースが二つ並んでおり、左側のガラスケースの中に王冠とティアラ、そしてマントと見事な細工の剣が飾ってあった。
そして右側のガラスケースには、骨董品のような汚い槍とナイフが飾られていて、何も飾られていないスタンドが二つ、ポツンと立っていた。
そして部屋の両サイドには衣装ダンスが並び、開けてみると中にはきらびやかな衣装が掛けられていた。
「秘宝はどれだ? あの剣か? 王冠か?」
「槍とナイフだ」
「嘘をつくな! こんな汚い物が秘宝であるものか!」
「だからいっだろう? お前にとってはガラクタだと」
「どんな魔法がかかっているのだ?」
「魔法などバカバカしい。 ただ祖先から伝わる物というだけの事だ」
「本当か?」
「ここまできて嘘は言わん」
この空のスタンドに飾ってあったのはなんだ?
「それは昔に無くなったようで、私にも何だったのは分からん」
コーヴはその言葉を疑いもしない。
コーヴがバカで良かったとグラントは胸を撫でおろした。
「クソッ! まぁいい。 宝はこれだけではないのだろう? 他の宝はどこだ?」
「城の地下だ」
「案内しろ」
グラントを先頭に兵士とコーヴ、そしてライアスが続いて歩きだした。
途中に通った広間に城で働く者達が数人の兵士と二頭のユニオンビーストに見張られ、部屋の中央に集められているのが見えた。
通りかかったグラントを見て「王様」「王様!」と声を掛けてくる。
「みな、無事か?」
グラントが部屋の中の者達に声を掛けたが「黙って歩け!」と、兵士に後ろから突かれた。
「彼らに危害を加えないでくれ」
「大丈夫さ、楯突いたりさえしなければね。 色々仕事をしてもらわないといけないからね。 エグモントでは殺しすぎて人が足りなくて困ったから、無駄に殺しはしないさ。 俺様も学習するんだ」
コーヴは自分の頭をコンコンとたたいた。
「この国の兵士にしても、金と自由を目の前にぶら下げれば誰でも俺様の言いなりさ」
その言葉にグラントは首を振る。
「愚かな······」
「何とでも言うがいい、今日から俺様がこの国の王様なのだからね」
◇◇◇◇
地下に行くまでに何人かの兵士が無残な姿で横たわっていた。 そして地下の入口の前もでも二人の衛兵が殺されていた。
「·········抵抗するなと言っておいたに·········」
グラントは小声で呟いた。
「この部屋の鍵はどこだ?」
「彼らが持っているはずだ」
グラントは無残に横たわる衛兵を目で指した。
兵士が気持ち悪そうに死体をまさぐり、鍵束を取り出して地下への入口の鍵を開けた。
ドアの中は階段になっており、降りきると幾つかのドアがあった。
「お前の望む部屋は突き当たりだ。 先ほどの宝物庫と同じ鍵束で開く」
コーヴは自ら鍵を開けてドアを開けた。
「ワオッ!! これは凄い!!」
広い部屋に山の様な宝物があった。
コーヴは一つ一つ触り、箱を開けて感触を楽しんでいた。
宝物に埋もれたまま恍惚の表情になっている。
「宝物庫はもうないのか?」
「ここだけだ」
「他の部屋は何が入っている?」
「開ければわかる。 貯蔵庫になっている」
「そうか、じゃあもうあんたに用はないや。 殺せ」
コーヴはライアスに命じた。
◇◇◇◇
土の中で体を癒すカイザーはピクンと体を震わせ、目を開けた。
聞こえるはずのないグラントの声が聞こえたのだ。
《カイザー、カイルとこの国を頼む》
その直後、グラントとの契約がプツンと切れるのを感じた。
『グラント······』
カイザーは再び目を閉じた。
お馬鹿なコーヴ
(  ̄- ̄)
カイザーの転身した姿を描き直しました。
以前よりはましですが( ;´・ω・`)
もっとうまくなるぞぉ~~!!╰(*°▽°*)╯




