11話 コーヴの能力
ユニオンビーストに乗って城に戻ったコーヴは有頂天だった。
11話 コーヴの能力
エグモント城では巨大な何かが真っ直ぐこちらに向かって来るということで、大変な騒ぎになっていた。
城壁と城の上部に弓兵隊が配置され、軍隊も集結しつつあった。
コーヴが城に近づいたその時、すぐ横を矢が掠めていった。
「わぁ! 攻撃してくる! 俺が乗っているのが見えないのか? お前! 先に行って知らせてこい!」
隣で飛んでいた兵士は乗り上げるようにして大きく手を振りながら、城に近づいた。
弓兵隊は矢を射続けていたが、やっとそれに気付いて矢が止んだ。
コーヴ達は三階の一番大きなテラスに舞い降りた。
一緒に飛んできた護衛兵達はユニオンビーストから慌てて飛び降り、弓や剣を構えている兵士達の横をすり抜けて報告に走っていった。
「武器を降ろせ! 心配ない!」
コーヴは武器を構えている兵士達に両手を広げてそう言ってから、ユニオンビーストからゆっくりと降りて虎の頬の辺りをポンポンと叩いてから、誇らしげに城の中に入っていった。
「コーヴ様! これはどういう事ですか?」
聞いてくる兵士に「凄いだろ」とだけ答えた。
その時、凄い勢いで部屋のドアがバタン!と開き、父である国王と兄[ラーヴス]が入ってきた。
「コーヴ! 何事だこれは!」
「これは父上に兄上も。 只今戻りました」
大袈裟に頭を下げて挨拶をした。
「なぜユニオンビーストに乗っているのかと聞いている!」
「何を興奮しておられるのですか? 父上。 森を抜けようとしたらこいつらに合ったのですが、僕の命令を素直に聞くから連れてきただけです。 凄いでしょ」
「馬鹿な事を言ってないで、彼らを森に帰してこい」
「帰す? なぜ? 四頭で足らないなら幾らでも連れてきますよ。 森に行けばまだまだ沢山います。 何頭位必要ですか? 百頭? 二百頭?」
「なぜ······なぜこいつなのだ······よりによってなぜ·········」
「父上? 何を悩んでいるのです? こいつらがいればどの国でも思いのままに手に入れる事ができますよ? 百···いや、二百頭もいれば、どの国も思いのままです!
世界の覇者になれるのです!!」
「バカだバカだと思っていたが、ここまでバカとは思わなかった·········いいか? コーヴ。
今は各国と平和協定を結んでいる。 数百年も戦争をしていないのだ。 平和に暮らしているのになぜ戦う必要がある? 戦争になれば犠牲になるのは国民だ。 それを考えた事はあるのか?」
「それは、一時だけでしょ? 領土が広がれば国民は豊かになります」
「バカな! コーヴ、よく考えろ。 今回の洪水にしてもそうだが、我が国に災害が起きた時や不作で苦しい時、どうやって乗り切っているのか知っているのか? 近隣諸国が多大な援助をしてくれているからだ。
もし他国が困っていれば我々も援助を惜しまない。 そうやってお互い助け合って乗り切ってきたのだ」
「財政が苦しくなれば国民からもっと税金を出させればいい。 物資が足らなければ占領した国から出させれば済むことでしよ?」
「馬鹿者!! 話にならん。 とにかくそいつらを森に帰してこい! それまで城に入るな!」
国王は怒って部屋を出ていった。
ラーヴスはため息と共に、コーヴを諭すようにゆっくりと話始めた。
「コーヴ、バカな考えは捨てろ。 力でねじ伏せても得るものなど一つもないんだ」
「兄上は、こんな小さな国で我慢できるのですか?」
「私はこの国が好きだ。 この緑豊かな国が好きだ。 穏やかな国民が好きだ。 コーヴは違うのか?」
「こんな田舎の小さな国のどこがいいんだ! アルタニアを見た事があるでしょ? 広くて賑やかで······あんな国も手に入るのですよ、兄上」
「コーヴ、お前は間違っている。 力で奪い取っても何も残らない。 父上も言っていただろう? 戦争は国民を苦しめるだけなんだ。
これは父上から聞いたのだが、我が国の王族には稀にユニオンビーストを操る能力を持つ者が現れるそうだ。
多分お前の力がそうなのだろう。
遠い昔、その能力を使った者がいた。 しかしこの能力はユニオンビーストの心を完全に無視した非情な能力だとして使ってはいけない禁忌の能力とされ、それ以後使う者はいないと聞く。
使うべき能力ではないのだ。 父上が言う通りに、彼らを森に帰してあげなさい」
コーヴは、黙って下を向いて聞いているのかと思ったが、握りしめた拳が震えている。
「いつも、いつも、僕に命令してばかり! 兄上も、父上も!
そうか·········自分に無い能力を持った僕が疎ましいんだ! 僕の方が優れていることが分かって悔しいんだ! だからいちいち僕の言うことに反対するのか。
そういう事か。
そういう事か!
そういう事か!!
分かったよ。 出ていってやるよ! こんな国なんて一捻りだ。 後で泣いて助けを求めても知らないからな!」
コーヴは踵を返して走り出した。
「待て! コーヴ!」
ラーヴスは慌ててコーヴを引き留めようとしたが、コーヴはユニオンビーストに飛び乗ると、あっという間に空の彼方に消えていった。
ユニオンビーストを操る能力があったのですね。
しかしコーヴのお父さんの名前は、分からないままです(^_^;)