最終話 帰還
エボリューションフラッシュを受けたザギは······
最終話 帰還
《ねえ、ルナ。 ケビン様、ザギ様、無事戻る?》
《うん。 彼らならきっと大丈夫よ》
《でも心配······》
ドドンド村で、ザザリトは毎日ケビンとザギの無事を祈っていた。
ルナと並んで祭壇の下でザギ達が飛んで行った方向を見つめている。
《ザザリトが毎日祈っているから絶対大丈夫よ。 私が保証するわ》
ルナも少しは心配だが、ザギとケビンなら必ずやり遂げると信じていた。
その時、占術師が家から出てきた。
滅多に姿を現す事のない占術師が出てきた事に驚いた。 ルナは始めて見る。
占術師は狼の頭蓋骨を頭に乗せ、狼の毛皮をマントのように羽織っている。
家から出てきたが、かなりの高齢のために歩くのもままならない。 男達に両側から抱えられるようにして長老のギギンガの家に入って行った。
◇◇
「小さき神、心の神。 儀式始まる!」
「始まるか!」
ギギンガは立ち上がり、ザザンガに告げる。
「神の儀式始まる! 集めよ!」
ザザンガは表に出て、角笛を大きく一度 プォーーーと吹いた。
占術師を先頭に村人全員が祭壇の前に集まり、祈りを捧げ始めた。
『えっ? 何?!』
ルナは驚いた。 突然、この地を囲む山脈が光だしたのだ。
カーテンのように光の壁が立ち上がっていく。
ルナ達がいる村の上を、巨大な光の輪が凄い速さで通りすぎる。 そのまま中心に向かって急速に縮まり、閃光となって1つの山へと吸い込まれていった。
《今のはなに?》
《小さき神が神になった!》
ザザリトは顔を赤らめ、興奮してルナを抱きしめた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「見てみろ!! あれはなんだ!!」
フォルカッチャの港町の人々が遠くの山を指差す。
「船長! あれを見て下さい!!」
ドングが指差す方を見ると、山脈の先から横に長い光がスッと消えていった。
「今のはなんだ?」
モーガが驚いてドングを見る。
「さぁ? 目の錯覚じゃあないですよね?」
「おう、確かに見たぞ?」
二人で首を捻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ザギ! 大丈夫?! ザギ?!」
『大丈夫だが······こ···これは·········』
閃光が消えると、そこにいたのは見慣れたザギの姿ではなく、巨大な7つ目の真っ黒いドラグルだった。
「ザギ? だよね」
『おれ? だよな』
ザギは自分の体を舐めるように見まわした。
7つ目になったのは見えなくても分かる。 しかし、体が今までの緑色ではなく、真っ黒だ。 それもグドゥーのような漆黒ではなく、光の加減で七色に光る。 そして、真っ白でシルクのような鬣がたなびいていた。 これは馬のそれではなく、ユニコーンの鬣だっだ。
そう言えばグドゥーの鬣とカイザーの角もユニコーンだった。 霊獣のユニコーンが入っているのはおかしいと思ったが、自分にもそれが増えた。
それよりも山羊ではなくユニコーンだとケビンが乗りやすいのでラッキー! などとザギは考えていた。
精霊達がザギの周りに集まってきた。
『『『我らが王』』』
恭しく頭を下げる。
『王? 私が?』
『先の王が亡くなり、あなたが新たな王と認められました。 おめでとうございます』
『だとよ』
ザギは誇らしげに笑いかけ、ケビンに手を差し出した。
「ザギ! 良かったな!」
ケビンはザギの大きな手の上に乗る。
ケビンを手の上に乗せたまま、既に開いている大きな扉から少し窮屈そうにして出ると、ドラグル達が頭を下げていた。
『『『我らが王』』』
『えっと~~ 帰ってもいいのかな?』
ザギはそんなドラグル達を見回して、出てきた言葉がこれだった。
『もちろんです。 どこに居られようと王には変わりません』
『そっか! 良かった』
この地にいろと言われたらどうしようかと、少しハラハラした。
そこにハリスが飛んできた。
『ザギ殿、立派になられて。 良かったですね』
なんだか淡々としている。
『それでは私は、先に戻らせてもらいます』
「うん。 ハリス、ありがとう」
ハリスはサッサと飛んで行った。
「早くお父様の元に戻りたかったんだな」
『気持ちは分かる。 ハリスには申し訳ない事をした』
ユニオンビーストは常に契約者と共にいるのが幸せなのだ。 長い間、カイルから引き離してしまった。
ケビンは小さくなっていくハリスを見送ったが、ハッと何かに気づいた。
「コハク、居る?」
『なにか?』
コハクがポンと現れた。
「お願いがあるんだけど······」
『何でしょう?』
「地の珠を暫く貸してもらえないか?」
コハクは少し考えていたが『いいですよ』と、地の珠をポンと出してケビンに渡した。
「やった! ザギ、グルタニアに後で寄ろうな!」
『エリエンヌの顔を見たいか?』
ケビンが顔を赤らめた時、コハクが『そうそう!』と話す。
『新しい王が生まれたから先の王の呪縛は解け、グルタニアの嵐の壁は消えているはずです』
『本当か? なら飛んで行けるな』
ケビンとザギはガッツポーズ!
◇◇
「皆さんありがとう! 精霊さん達もありがとう!」
ザギはケビンを背中に乗せた。
今までと違い、背中が広くなったが鱗が大きくなったので上手く間に挟まり乗りやすい。 それに鬣があって掴まる事が出来る。
「ザギ 行こう!」
『おう!』
ザギは大きく翼を広げて飛び上がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「ザギ、お腹空いた」
『今夜はドドンド村でお世話になろう』
例のごとく、ドドンド村の住民達がひれ伏して迎えてくれている。 ルナが駆け寄ってきた。
『ザギさん!! その姿······どうなっているの?』
『よく分からんが、こうなった ハハハハハ! しかし、でかすぎて不便そうだ』
『お···大きいわね······』
大きいと思っていた祭壇が小さく見える。 ザギの尾が祭壇からはみ出しているくらいだ。
ザギは転身して鷲の姿になり、ケビンの肩に止まった。
◇◇
その日の夜は、また宴会だ。 今回もしこたま酒を飲まされてケビンはご機嫌だった。
占術師と紹介された老人は、始終涙を浮かべていた。 生きている間に神の神を目の当たりにできて、幸せだと。
◇◇
惜しまれながら、翌朝出発した。
あれだけ苦労して越えた山脈を一瞬で通り過ぎ、港町までひとっ飛びだ。
フォルカッチャの港町でスカイウェーブ号を見つけた。
ザギが港に降りようとすると、街の人達がキャーキャー叫びながら逃げ惑う。
スカイウェーブ号の甲板に向かって降下する。 モーガが剣を抜いてこちらを睨みつけているのが見えた。
ケビンは出来るだけザギから身を乗り出して「モーガさ~~~ん!!」と叫ぶと、気付いてくれてこちらに手を振ってきた。
船に近寄ると、ザギの翼の風圧で船が揺れる。
ザギは甲板に降りる直前で山羊の姿に転身し、ストンと降り立った。
「ケビン!!」
モーガが駆け寄る。
隠れていた他の船員達もワラワラと出てきた。
「「「先生!!」」」
だから先生は、恥ずかしい。
「さっきのはザギだよな。 思った以上にでかかったな。 しかし、小さい時と色が違ったような······」
「色々あって、こうなってしまいました」
「いやいや! とにかく無事で良かった。 ザギの大きい姿も拝めたし。 あのままこの船に乗られると転覆しないか心配したぞ。 ハハハハハ!」
「ザギさん! カッコいいっす!」
ドングがザギに親指を立る。
「先生、明日出発ですが、乗って行きますか?」
「いいえ、このままザギに乗って帰ります」
「そうか、残念だな」
モーガがハグをした。
「お前、少しの間に背が伸びたな」
「そうですか?」
「ところで·········酒臭いぞ?」
「ハハハハハ」と笑って誤魔化す。 昨日の酒が少し残っている。
「それでは、先を急ぎますので」
船員一人一人とハグをし合ってから山羊の姿のザギに乗った。
「皆さんもお元気で!」
ザギはタタン! と甲板から海に向かって飛び上がると、ブワッと巨大なドラグルの姿に転身し、空へ飛び上がる。
スカイウェーブ号の周りを一周してから、アルタニアに向かって飛んで行った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
アルタニア国上空。
行くときには何ヶ月もかかった道のりが、帰りは数日で戻ってきた。
「ザギ、心配な事があるんだけど」
『何だ?』
「ザギが大きくなっちゃって、僕の部屋のテラスに入るかな?」
『ハハハハハ私はこの姿にこだわりは無いからどうでもいいぞ』
「そうか。 なら良かった」
さっきからザギがやけに右側を気にしている。
「ザギ? 右側に何かあるのか?」
真っ赤な夕日がアルタニアの自然を赤く染めている以外は何もない。
『······夕日は······こんなに綺麗だったんだな』
「······うん······そうだね」
夕日に染まって美しく輝くアルタニア城が見えてきた。
E N D
長い間、ありがとうございました。
今のところ、これ以上の続編は考えていません。
もしかしたら番外編くらいは思い付いて付け足すかもしれませんので、その時は読んでみて下さいね。
違う作品も書いていますので、そちらでお会い出来るのを楽しみにしています。
本当にありがとうございました。
m(_ _)m