26話 アンガ
黒い珠のある洞窟に着いた。
待ち受けるアンガの前に倒さなければならないと言われた男というのが······
26話 アンガ
ケビンとザギは大きな洞窟の前に立った。
ハリスは外で待ってもらう。
『ここで最後だ。 私が覗いた時はアンガらしき黒いドラグルが、6つ目サイズで構えていた。 あいつを倒さなければならないのだろう。 シラユキも言っていたが、一筋縄ではいきそうにないから覚悟しろよ』
「うん」
ケビンは生唾を飲み込み、癒しの盾を腕に付け、護りの剣の柄を確認した。
洞窟の中を進む。 整備されたように平らな道をザギに掴まりながら歩いた。
途中から篝火が焚かれ、道を照らし、土の匂いと薪が燃える匂いが混ざりあう。
◇◇
開けた場所の入り口に着いた。 そこには篝火はなく、真っ暗で奥が見えないが、空気感と音の響きでかなりの広さであろう頃が分かった。
『奴がいるぞ』
「うん」
中に入ろうとすると、カッ!と金色の大きな2つの目が開き、闇に目が付いているかのように輝く。
『来たか』
地鳴りのような低い声が響く。
『お前を倒せばいいのか?』
『我と戦う前に倒してもらう者がいる。 それに勝てば我と戦う権利をやろう』
パッと洞窟内が明るくなった。
どういう仕組みなのか、篝火ではなく洞窟全体が昼のように明るい。
急に明るくなったので、眩しくて思わず腕を目の前にかざして目を慣らし、ゆっくり腕を降ろした。
予想通りのとても広い洞窟だ。 そしてザギが言っていた通り、目の数は二つだが元々のザギと同じ位巨大な6つ目サイズの真っ黒なドラグルが最奥に立っていた。
そしてそのドラグルの前に一人の男が立っている。 先に倒せと言っていたのはこの男の事か。 原住民とかではなく、見覚えのある服装をしている。
いや······服装だけではない、 見覚えのある顔だ!
「お父様!!」
『カイル!!』
そこには黄金に輝く護りの剣と癒しの盾を手にしたケビンの父、カイルランスが立っていた。
「お父様! なぜ?」
『先ずはこいつを倒せ』
「どういう事だ!! お父様を倒せとは! そんな事が出来るわけないだろう!!」
『じゃあ、試練は終わりだ』
「クッ!」
ケビンは唇を噛み締める。
《ザギ、どうすればいい?》
《あれはカイルの姿をしているが、カイルではない。 見た目に騙されるな》
《しかし······》
『もう1つ。 こいつとの戦いはケビンの戦いだ。 ザギは手出しするな』
洞窟の入り口の床にスッと赤いラインが浮かび上がった。
『ザギがその赤い線を越えた地点で試練は終わりだ。 試練にやり直しは無い。 ザギは生涯その小さな姿のままで生きていかねばならぬ。 心せよ』
ケビンは手をグッと握りしめた。
「ザギ、大丈夫だから待ってろ」
『本当に大丈夫か?』
「覚悟を決めた」
ケビンは世界で一番闘いたくない人物が待つ洞窟の中に向かって1人、赤い線を越えた。
ゆっくりと父王カイルに近付く。
――― どう見てもお父様だ ―――
そのカイルがスラリと剣を抜いた。
185cmを越える長身のカイルは手足も長く、動きもしなやかで隙がない。 今までの手合わせでケビンは一度も勝った事がないのだ。
ケビンは震える手を柄に掛けた。
『悪趣味な奴め!!』
ザギが怒鳴る。
『クックックッ。 始めるとするか』
ケビンがカイルの前に立った途端、カイルが剣を振り上げ向かってきた。
上から振り下ろされた剣をケビンの剣がカキン!と受けて火花が散る。
直ぐに左から切り付け右から切り上げる。
カンカン!
ケビンの持つ護りの剣はそれを受けるが、カイルの一振り一振りが重く、一歩また一歩と押される。
「クッ!」
間髪入れずに振り下ろされた剣をかろうじて受けるが腹を蹴られ、後ろに飛ばされダダッ!と転がった。
直ぐに起き上がったが、既に目の前にカイルが来ている。
振り下ろされた剣を慌てて盾で受けて弾くと、右にタッと逃げて構え直した。
『クックックッ、逃げるばかりでは勝てんぞ』
アンガの嘲るような声が洞窟に響きわたる。
「くそっ!」
どうしても剣を出せない。
『ケビン! そいつはカイルではない! お前の父親ではないんだ!!』
「分かってはいるんだが······」
再びカイルが向かってきた。
右から切り付け左から切り上げ横に払う。 かろうじて体を引いてその剣を避けるが腹の前の服の先がスッと切れる。
カイルは右足を軸にそのまま一回転して再び横に払う。 それを盾で受け、ケビンは思いきって剣を突き出すが盾で下に払われ、スッと肩を切られた。
「つっ!」
慌てて飛び下がる。
腕から血が流れ出し、服を赤く染める。
ちょっと目が覚めた。
「ふう~~~っ」
落ち着くために大きく息を吐く。
迷っていても何も始まらない。 覚悟を決めたつもりだがやはり迷いがあった。
しかし今の攻撃で気持ちを切り替える事ができた。 もう父親と思わない。
「行きます!!」
ケビンは一歩二歩、踏み込みながら剣を繰り出す。 今度はカイルが押され始めた。
何度も剣を交わし一瞬の隙をついて、カイルの足を切った。 カイルは一瞬ガクッときたが、直ぐに何も無かったように剣を繰り出してきた。
血が流れる父親の足を見て少し心が痛んだが、もう吹っ切れている。
その後の攻防でお互い何度か切り付けあい、傷を受けたがどれも浅い。
しかしカイルは痛みなど感じていないように見え、動きに少しも揺らぎが無い。
それに対してケビンはあちらこちらから血が流れ、ズキズキと痛みが増し、動きが鈍くなっていく。
このまま長引くと不利になると悟り、渾身の突きを出した。 しかし受けられてしまった。 途切れることなく左から払い右から切り下ろしたが、今度は盾で跳ね上げられ蹴りを食らいスドッ!と、後ろに倒れた。
ケビンが立ち上がる前にカイルは駆け寄り剣を振り上げた。
――― ここまでか! ―――
そう思った時、カイルが横にふっ飛んでいき、壁に激突してそのままフッと消えた。
「ザギ!!」
ザギが頭突きを食らわしたのだ。
『我慢出来なかった、すまん。 ここまで来れたのに無駄にしてしまった』
「ザギ······」
ケビンは立ち上がり山羊の姿のザギを抱き締めた。
「ごめん。 僕が不甲斐ないばかりに」
『ハ~ッハッハッハッ! ザギ、良くやった』
黒いドラグルは、楽しげに笑う。
『何だ?お前! バカにしてるのか?』
ザギがドラグルを睨み付ける。
『私がこのままなのが、そんなに楽しいか!!』
『クックックッ、あのままケビンを見殺しにした地点でザギの本当の試練は終わっていた』
「どういう事だ?」
『自分の身を顧みず、心を共にする者を優先するほど結び付きが強い者でないと資格を得られない。
ケビンも父親に向かって最善を尽くした。 よく迷いを捨てたな』
『·····とりあえず······クリアしたということか?』
ザギは恐る恐る聞いた。
『1つ目はな。 次は我と戦ってもらう。 二人で来ていいぞ』
『ちょっと待て! ケビンは傷だらけだ! 数日時間をくれないか?』
『傷だらけ? どこが?』
ザギがケビンを見ると、傷だらけで血まみれだったはずが、何ともない。
「あれ?」
『ケビン! 痛みは?』
「な···ない」
ケビンも驚いて自分の体を見回している。
切られたはずの服までも元に戻っている。
「『?」』
ケビンとザギはドラグルを見上げた。
『ハッハッハッ! そういう事だ。 では始めようか?』
黒いドラグルは大きな体を揺らしながら、前に出てきた。
次が最後の戦いです。
人間であるケビンと、小さな姿のドラグルザギが巨体のドラグルに勝てるのでしょうか?
( >Д<;)




