表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニオンビースト ~霊獣と共に生きる者達~  作者: 杏子
第一章 ユニオンビースト
10/103

10話 コーヴ·クロンメル

わがままなコーヴは禁断の森を通って近道をしろと、命令する。

 10話 コーヴ・クロンメル





 数日後。



 アルタニアからの帰り、コーヴはエグモント国の近くまで戻っていた。


 長い旅にほとほと嫌気がさしていたコーヴは、馬車の窓から外を見ていた。


 すると遠くの方にグローネル山が見えた。

 その山の麓にエグモント国がある。 しかしなぜか馬車はそこから遠ざかって行く道を進んでいる。


 コーヴは窓を開け御者(ぎょしゃ)に向かって怒鳴った。


「おい! あっちにある山はエグモント山じゃないのか?! どうして遠ざかるんだ!」

「コーヴ様。 この横に広がる森は禁断の森でございます。 ですから少し遠回りになりますが迂回致します」

「禁断の森? そんなもの!······もう目の前じゃないか! 森の中を突っ切れば早く着くんだから近道を行け!!」

「しかし······」

「あそこに通れそうな道があるじゃないか! 命令だ! もう馬車はうんざりだ。 さっさと行け!! それともお前だけここに残るか?」


 無理難題に困った御者は馬車を止め、警護兵達と相談していた。


「まだか? 早くしろ!」



 コーヴは中から何度も苛立ちの声を上げていたが、やっと馬車が動きだし、向きを変えて森の中に入っていった。

 それを確認すると、コーヴはニンマリと微笑む。


「それでいい。 禁断の森がなんだ。 もうすぐ帰れるぞ」



 馬車の中で鼻歌を歌いながら上機嫌でいると、急に馬車が止まった。 



「何をしている! さっさと······ひっ!」


 コーヴ達の隊列の前に、巨大な二体の化け物が立ちはだかっていた。 

 周りの森の中にも光る目がいくつもあり、こちらを睨んでいる。


「ひぃ~~~~~っ!」




 馬車の中で頭を抱えて震えていると、突然馬車のドアが開いた。


「ぎゃあ~~~!!!」


 顔を出したのは警護兵だった。

 

「コーヴ様、私です。 ここから前には進めません。 ここで馬車を反転する事が出来ませんので馬で戻ります。

 化け物達はまだ襲ってきません。 どうやら我々が立ち去るのを待っているようです。 急いで下さい! さぁ! 早く!」

 


 その時、ドンッ! と馬車の屋根に何かが乗った音がした。


「わっ!」


 驚いた護衛兵が馬車から飛び退き、ポッカリと開いたドアの上側から人間の顔と同じ位の大きさの巨大なネズミの顔が中を覗き込み、コーヴと目が合った。



「わぁ~~~!! 助けてくれぇ! この化け物め! 僕の馬車から降りろ!」


 馬車の隅まで体を寄せて小さくなって叫ぶと、()()は大人しく馬車から降り、コーヴの顔を見つめている。


「下がれ! もっと下がれ!」


 すると()()は言われた通りに数歩下がった。


 

「?·········僕の言うことを、聞いているのか?」

 


 コーヴは大きな声で命令してみた。


「座れ!」


 座った。



「伏せろ!」


 伏せた。



「何だ? こいつら。 僕の命令を聞くぞ?」


 コーヴは顔を出し、集まってきた近くの化け物に命令してみた。


「もう少し、下がって座れ!」


 大人しく命令に従う。


「お前もだ! お前も座れ!」


 命令された化け物達は次々と命令に従い、大人しく座っていく。



 不思議そうに仲間の顔を覗き込む化け物もこちらに振り返り、コーヴと目が合ったとたんに大人しく命令に従った。 





 あっけに取られていた護衛兵達がコーヴの元に集まってきた。



「コーヴ様。 どうなっているのですか?」

「知るものか。 でも大人しく命令に従うなんて可愛いじゃないか。 そうだ。 お前も命令してみろ」



 コーヴに言われた兵士が命令を出してみるが、もちろん反応はない。



「ハハハ! 僕の命令しか聞かないのか! それはいい! ハハハハハハ!」

 

 コーヴは有頂天になっていた。

 生まれて初めてだ、こんな素晴らしい気分は。



「コーヴ様。 こいつらが大人しくしている間に行きましょう」

「行く? こいつらを置いて? そんな可哀想な事は出来ないだろう? ほら見ろ。 こんなに大人しく僕の命令を待っているんだハハハハハハ」

「コ······コーヴ様?」



 周りの者達は顔を見合せて戸惑っている。



「そうだ! いい事を思い付いた! こいつらに乗って帰ろう!」

「何を仰るのですか! 危険です! 早く馬車にお乗り下さい」

「もう馬車はうんざりだ。 こいつらに乗って空から帰ったらみんな驚くぞ······飛べるのは四頭だけか·········よし! お前とお前、そしてお前だ。 僕に付いてこい! 他の連中は進むなり戻るなり好きにしろ」



 指名されて戸惑う護衛兵達を気にもせず、コーヴは一番大きな五つ目の化け物に飛び乗った。


 ガゼルの角の生えた虎の頭とコウモリの翼、体は縞模様から黒い斑点になり、腰の辺りから模様がなくなり、薄い茶色になっているのは、豹とライオンと思われる。先に房がある長い尾が二本生えていた。


挿絵(By みてみん)



 指名された護衛兵達は恐る恐る翼が生えた化け物に近づき触ってみるが、嫌がる素振りも動く気配さえも無かったので思いきって跨ってみた。

 もちろん人間が跨った事にさえ気付いていないように、ジッとしている。


 それを見てコーヴは満足げに笑う。



「さあ! 行くぞ! 飛べ!!」



 四頭の化け物はフワッと飛び上がった。 思った以上に乗り心地が良く、あっという間に禁断の森が遠ざかっていった。





 言うまでもなく、この化け物達とは、ユニオンビーストである。


 森の奥深くまで馬車が侵入してきたので警告するために姿を現したのだが、コーヴの不思議な能力に操られてしまう事になってしまった。



 ◇◇◇◇



 瞬く間にエグモント国の国境内に入った。


 眼下に家や畑が広がり、道行く人々がこちらを指差しているのが見える。



 コーヴはこれ以上ないほどの優越感だった。




「いつも父上は兄上と僕を比べて、どうしてお前はダメなんだと文句ばかり言う。 兄上はあれをしろこれをするなといつも命令してくるし、あれは出来るかこれを教えてやると偉そうに言ってくる。

 でもこれを見ると二人共驚くぞ!『こんなに凄い事が出来るなんて次期国王はお前だ』とか『どうやったら化け物を手懐ける事が出来るのか教えてくれ』とか言ってくるぞ。

 なんて愉快なんだ。ハハハハハハ!!」



 コーヴは想像するだけで痛快な気分だった。




 そうしているうちに、城に近づいた。







やっぱりコーヴ·クロンメル

(`_´メ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニオンビースト https://ncode.syosetu.com/n4174fl/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ