第1話 暗闇の中
20XX年9月 夕方の6時
私の名前は、黒上 蓮。
ごくごく普通の男子高校生である。
まだ夏の暑さが残る中、今私は友人の湊と一緒に
カラオケから歩いて帰っているところだ。
湊というのは、私の中学校からの友人で、高校三年の今になっても仲の良い友人である。
私から見て彼は、独特な動きをするが、そこそこスポーツもできて、歌も上手いし、成績もいい。
独特というのは、プレイスタイルが独特なことだ。
例えば、卓球だとバックハンドでボールを打つ際に、ボールがラケットに当たる瞬間、なぜか上に飛ぶ。
こう、空中で、誰かにパンチを食らったように両手両足を前に突き出したポーズのようだ。
高校になってからは、ロングヘアーで、ポニーテール。独特さにさらに磨きがかかっている。
今回のカラオケで私はかなり調子が良く、今までよりもかなり高い点を出していて満足していた。
だんだん日が落ちていく中、
湊と他愛もない会話が続いていた。
「今日のお前、すごい点数出てたじゃないか!なんかあったのかよー」
「いや、今日はたまたまだよー、いつもより声が出やすくてさー、あんな点数もう出ないって
とゆうより、湊、そもそもお前、平均点なら俺なんかよりずっと高いじゃんかよー」
しばらくして、蛇のようにくねりがある坂道を登り
坂の終わり頃の目安になる直線の坂道に差し掛かっていた。
その時だ。
私の視界は急に真っ暗になり、隣にいたはずの湊の姿が見えなくなった。
それに、坂を歩いていたはずが、はっきりとは言えないにしろ、平坦な道を歩いている感覚が確かにある。
歩道側の木や草も見えなければ、車道側の崖も見えない。
声も何も聞こえない。
「私は、一体どうなってしまったのだろうか」
ひとまず、歩みを止め、冷静に見渡してみた。
やはり何も見えない。
今まで何年も利用してきた道だから、暗くたって多少は分かる。
それなのに、全くここが何なのか分からない。
「明らかにさっきとは状況が違う。違いすぎる」
私は、考えた、今までのどんな状況よりも考えた。
テストで点を取るためには、人に好かれるためには、運動音痴を治すには、
他にも色々ありはするが、そんなことどうでもいい。
今までの人生で悩んだような事が、もはや可愛いと感じる。
ここを出るには、ここを知るには、
「どうしたらいい」
現代では、インターネットが普及して
迷子になったところで、マップを開けば解決していた。
しかしながら、ポケットに入っていたはずのスマートフォンはない。
しばらく悩んでいた。
時間だけが過ぎていった。
「何もできないのか、」
「そろそろ、諦める頃か」
気持ちが冷めてきていた。
その時
背後の方に微かな気配を感じた。
生暖かい風のようなものが後方から吹き抜けたかのような。
「誰だ」
だが、周りを見渡しても、変わらず真っ暗だ。
とても何かが居るようには思えない。
「気のせいだろうか、だけど、確かに何かが居たような、、」
「このままここに居ても仕方ないし、気配がした方角に行ってみるか」
再び歩みだすことにしてみた。
感覚的には2、3分ほどだろうか、歩いていた頃に
微かだが、明かりが見え始めた。
「あれは、炎?」
異なる色が5つ
赤、青、緑、黄、紫、
円を描くように並んでいる。
「これは一体。」
考えていると、声が聞こえてきた。
それほど距離は遠くない。
「久しぶりの来客か」
「実に300年ぶりだな」
「今度はどのようなお方がいらしているのかな」
「私たちのお願い聞いてもらえるかしら」
「どうでしょう。その件は、なかなか承諾をもらえるようには思えませんし。」
明かりの数と同じ、5人、誰かが迫ってくる。
コツン、カタン、スタスタ、ペタペタ
まるで、ブーツ、ハイヒール、草履、素足の足音のような複数の音が深い暗闇の中響いている。
コツン、コツン、、、、。
少しして、突然音が鳴りやんだ。
「止まった、のか?」「音が限りなく近かった、誰か近くにいるはず、おそらくは5人、なぜ見えない」
「おやおや、今回の来客はずいぶんとお若い方のようですな」
姿は見えないが、かなりしおれた男の老人のような声がした。
震えているような、そして少しかすれた声だ。
「どなたかいらっしゃるのですか?」
恐る恐る尋ねてみた。
「あなたの周りにいるわよ、少しお待ちを」
優しい女性の声だ。
おおらかで包み込んでくれそうな落ち着いた声。
「アナ、不可視化の術を解いてくれる?』
「この空間で、この方のみの不可視化の解除は、少し力を使います。
魔力残量も少ないのでできるなら、極力、負担はかけたくないです。」
「そうですね。だけど、術式の解除が得意なのは、アナくらいですし、、
んーー、、、、あっ!それでは、少しお高いディナーを私がご馳走するというのはいかがですか?」
「んーー確かに良い話ですねー、、忙しくて、最近は軽い食事で済ませていましたし、
たまには美味なるものを口にしたい。というのが本音です。」
「それじゃあ何を悩んでいるの?」
「いえ、いただく側なので申し上げにくいのですが、、。
最近私生活が乱れていたので、美容や健康に良いものがいいな。と。」
「なんだそんなことかー!大丈夫!それくらいならいいとこ知ってるよ!
ついでに言うなら、そこの料理、魔力の回復を促す効果があるらしいわ」
「!!!本当ですかそれは!これは断れませんねー。。」
「それじゃあ、決まりね!私が見つけたお店紹介してあげる!」
「いつの間にそんなお店を。。まぁいいです。
では、その"美味しいもの"をティアさんの奢りという事で手を打ちましょう。
では、いきます、、すぅーー。。。不可視化解除。」
息を吸うような音が聞こえた後、
決して大きくはないが、話し声よりも力がこもっている少し苦しそうな声で呪文が唱えられた。
直後、ピカーっと目の前に小さな光の玉が現れ、果てもない暗闇の空間に広がり
瞬く間に空間は光で包まれた。
『眩しい。。』
私は、目を細め、身構えた。
『ふぅーー。もうじき見えるようになるでしょう』
中低音のハキハキとした声。
独断と偏見だが、仕事ができそう。
それと、少し低めだからか、大人びた方を思い浮かべた。
今は、先ほどより
息をついて、力が抜けたような感じもする。
結構疲れているようだ。
『確か名前は、アナさんだっけな』
頭の中で会話をたどって思い出した。
『ありがとう、アナ。
さぁ、来客の方、目を瞑り、心を落ち着けてください。
そして、落ち着いたら目を開けてください。』
指示された通り、目を瞑った。
そして、深く呼吸を2回。
それから、目を開けた。
するとどうだろう、さっきまでの暗闇とはまるで別の世界が広がっている。
「ここは一体」
全体が白をベースにされており、
私の周りには、自分よりも大きな柱が建っている。
柱は全部で5本あり、その上にはさっき見た炎が灯されていた。
足元を見ると、
私を中心に、円状で、何やら大きな紋様があった。
紋様は
私のいる中心には、太陽のようなマーク
円の端には、正面から時計回りに
貝殻、雫、光、岩、炎、葉、月、風
それぞれを形取った紋様が並んでいる。
これらは線で結ばれて、正八角形のかたちを作り、
それぞれから、真ん中に向けて線で結んである。
どうやらここは見た限り、儀式用の部屋のようだ。
足元から顔を上げ、正面の柱の方に目を向けると
人のような者が立っている。
慌てて周りを見渡すと、正面だけじゃなく
5本全ての前に人のような者の姿が見えた。