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少年、駆ける

 ――助けてェ……助けてよォ、ねェ……


 声がする。


 ――ねェ、おにィさんってばァ……


 駆けても、駆けても声がする。


 ――おにィさん……助けてよォ……ねェ……


「あーっ、もう……っ! うるさいなぁ!」


 どうもこんにちは、皆様のミソギでございます! ……なんて、ふざけるぐらいには、僕は追い込まれている。後ろには、よく分からない女の声。いや、分かってはいるのだけれど。分かりたくないヤツなんだ、本当に。かれこれ何十分も走り続けていて、これ以上走るなんて、文芸部員の僕には無理だということは誰にでも分かる。……あ、赤ん坊には分かんないけど。

 それはともかく。僕は、かなり、追い込まれていた。


 ――おにィさん、聞こえてるンでしょう?


 突然耳許で聞こえ始めた声に、背筋が冷える。ヤバい。ヤバいヤバいヤバいヤバい。これはヤバい。どれくらいかっていうと、真夏の陽がガンガン当たるアスファルトの上に保冷剤無しで一日置いておいたお弁当を食べるくらいにはヤバい。


 世間では、これを詰みと言うそうな。



 と。

  

 ――捕まえたァ


 その声が聞こえた瞬間、周りの景色が、雰囲気が変わって。さっきまで、人は見えないものの遠くにざわめきが聞こえていた京の路地裏が、急にそっぽを向いてしまった。ひそひそ、人とは思えないものどもの囁き声がする。つまりは、多分だけど僕は……取り込まれたのだと思う。……え。待って、僕、出れるのかな? あのちょっとキモい遊女につかまるの、時間の問題なんですか? それ、確定事項なんですか? それは……その……


「マジで詰んだ」



「もっ……無理っ……疲れ、たからあっ……」


 息が切れて、脚がもつれて、石もなにも無いのに、転びそうになる。


 ――おにィさん、まだ諦めないのかィ?


 耳に、頬に、吐息が掛かる。


 ――ここに来たらもゥ、出られないんだから……諦めなよォ


 ぞわぞわと身の毛がよだつ半面、この声に従いたくなっている、もうひとりの僕に、僕は気づいた。

 いや、だって、ここ明らかに僕が住んでいる世界と違うし。ここから出る方法なんて知りませんし。相手、幽霊だよ? 疲れないんだよ? 僕はきっといつか力尽きて捕まるっていうのに。もう、走らなくても良いんじゃないのかな――。


「い、いやいやいや、僕まだ彼女居ないし! 作りたいし! もっと遊びたいし!」


 厭な考えを振り払うためにも、大声で叫ぶ。と、もうひとりの僕もちょっと奥の方に退散する。


「っあ、わっ」


 けどそれが災いしてしまって。


 ――今度こそ


 脚が縺れて、転んでしまって。


 ――捕まえたよォ


 あ、僕終わるんだな。そんな風に思って、いつのまにかアスファルトじゃなくなった地面を見つめて。僕は、死を覚悟したつもりだったのに。


「君。こんなとこでなにやっとるんですか」


「え?」


 唐突に聞こえた、声。

まだまだ続きます。……続かない、かも?

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