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店主、始める

「そろそろ、三時か。暑いね」

 店ののれんをくぐり、ごちる。夏の強烈な日差しに炙られた石畳が熱い。下駄をカランコロンと鳴らしながら、自宅への道のりを歩いて行く。

「お帰りなさいませ」

 玄関に入ると、手伝いの人が立っている。相変わらず大変なものだ。

「あぁ。ただいま。あちらに出掛けるから、用意を頼みます」

「かしこまりました」



 広々とした、冷たい屋敷。幼い頃はまだ使用人が多くいたが、成長するにつれ必要が無くなり、数は減った。これで四人家族とか、三世代で同居だとか、そういった暮らしならまだ賑やかになりようが、それも無い。祖父母は自分を気味悪がり、別居。母は、物心ついたときから居なかった。父は、表の本家――土御門家に入れられた。血を分けた兄弟も居ない。裏の本家に住まうのは、当主である自分と、五人の御手伝いのみ。

「ほんに、寂しい家になりましたわ」

 ポツリと漏らした言葉は、誰の耳にも届くことは無い。



 自室に入ると、机の上に羽織が置いてあった。紺の地に、五芳星が染め抜かれたデザインは、人音の一族――雪村家の者だということを表すもので。映世に行くときには着用が義務化されたのだった。

 そして、隣に置かれた寄木細工の箱を取り出す。幾つか木製のパーツをスライドさせ、中身を取り出す。

 黒色の、少し歪な、丸い石。それはビーズのように(あな)を開けられ、革紐が通してある。これが当主の証。よくよく光に透かして見るとその石は、濃い藍色と、朱色と、と沢山の色が混ざった末の黒色だと分かる。だがこの石が、何と言う名なのかを、人音は知らない。

「準備、ご苦労様でした」

 勝手口に再び立つと、先ほどの手伝いの人が火の入った提灯を差し出してくるので、受けとる。下駄を履いて、扉を開けて。

「明日の朝には帰ってくるつもりだから、朝食の準備はしておいて下さい」

 屋敷の裏の、祠に向かって歩く。



「お邪魔致します」

 そう呟いて祠の両開きの戸を開けると、中には小さな鏡。それが、人音専用の、映世への入り口。当主にしか扱えない代物だ。陰の気の濃い雪村家の中でも、特に濃くないと成れない、当主だけにしか。ぐぐ、と。徐々に力を込め、足を進める。そうすれば、

 妖の世界――写世に、入ることが出来る。

 先程と変わらぬ景色だけれど、この世界には人間の立てる音は無い。ただひたすらに、誰かの囁きが遠く聞こえるだけ。その中だと人音の声は良く通る。

鬩螺岐(せめらぎ)はん、いはりますか」

 人気の無い屋敷に声を掛けると、影がゆらりと揺らめいて。出てきたのは、黒い男。

「はい、はい、人音サマ、俺はここですよ」

 男――鬩螺岐はにやりと口を歪ませ、人音を見やる。

「……私が居ない間、何か変わったことは?」

 人音はそんなことを気にもかけず、淡々と事務的な質問を続ける。

「特に、ねぇ……」

「そうかい」

 人音がそのまま外に出ようとすると、鬩螺岐がまた声を掛ける。

「人音ェ」

「なんなんですか」

「今、変わったこと、起きてるぜ」

「そういうんは、はよう言いなさい」

 鬩螺岐に告げられた場所へ、人音は急ぐ。少年を助けるために。

多分これで確定です

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