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店主、呆れる



「あーもう、えらい目ェこいた」

「邪魔ですよ、戸土(とつち)はん。倒れるのは勝手ですが、ここは駄目です。ほら行った、行った。ぶぶ漬けだって勿体無いのでやりませんからね」

「えー、ケチー」

 蒸し暑い昼下がり。ひやりとした石の床に倒れ込む二十代の男。と、それを見下ろすやや年下の女。俗に言う、カオスである。

「私だって好きでケチやっとるんやないです。戸土はんが妙なことしとるからお客さんが遠のいてまうんですよ?」

 しかもその女が、そんじょそこらの男では敵わないほどのイケメンであれば尚更、そのカオスっぷりは加速する。

「ええやん、ボクとイオちゃんの仲やろ?」

「そんな仲は知らんわ、ボケ」

 さらりと吐かれる、容赦ない毒。

「ひどいっ」

 コントのようにがっくりと頭を落とす男――戸土を呆れた目で見ながらここ、珠玉堂内をせっせと掃除するのは店主の人音(ひとね)。後ろで一つに纏めた茶髪は、陽に当たって金色にも見える。と、カラリと音がして。

「あのー、すいません」

 控えめに開かれた戸口から覗く、若い女性が二人。

「あぁ、いらっしゃい」

 途端、先程までの仏頂面に見事なまでの営業スマイルをはっつける人音。遠慮なく床に転がった戸土を踏んで戸口へと向かう。

「ふぎゃっ」

 その時聞こえた鳴き声も、気にしない。

「外は暑いでしょうし、さ、中へどうぞ」

「あ、え? ええっと……」

「琴ちゃん――あ、この子ですけど――最近、ついてないみたいなんです。何か良いパワーストーンのブレスレットって、あります?」

 いかにも気弱そうなたれ目の女性と、猫目の女性。まあ、よくある凸凹コンビ……と言ったところか。

 年頃は人音よりひとつかふたつ年嵩な程度。よほど仲が良いのか、二人とも揃いのGジャンを羽織っている。……暑そうだが。

「あぁ、お数珠ですね。こちらです」

 そんなことをつらつら考えながらも、人音は二人を奥にある数珠コーナーに連れて行ってからまた、掃除を始める。床はさっき戸土と駄弁りながら掃いたので、今度はショーウィンドウに飾ってある石たちを磨く。虎目石、水晶、原石たちに瑪瑙の塊。それに――

 ふ、と嫌な予感がして、人音はさっと後ろを振り返った。するとそこには、

「いやあ、あはは。お察しの宜しいことで」

 両手を上げて固まった、戸土。

「……あの、何やっとるんですか。気力が回復したならさっさと帰ってくださいよ、邪魔ですし」

 そしてそのまた後ろに、何やら持った先程の女性たち。

「あー、決まったんですね、お客さん。……ん?」

 戸土の横に回り、女性らの手元を見る。

「えっと、虎目石、ですね」

 珍しい、と言いたかったが、それは飲み込む。

「虎目石は、持ち主の金運や仕事運を高め、成功を導くと言われてます。その、私が言うのもアレですけど、恋愛運……とかじゃ、ないんですよね? 目的」

 確認の意味を込めて、じ、と件の女性を見つめる。

「は、はい! その私、職場であまり上手くいってなかったので……お守りに、なりそうですね」

 そう言って、女性ははにかみながら数珠を触る。

「あっ、ちょっとそれ、確認してもええですか?」

「あ、はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 女性から数珠を受け取り、一粒一粒見ていく。万が一、があったら困るからだ。

「あっ」

 思わず声を上げる。

「え、何かありましたか?」

「ええ」

 そういって人音は、満面の笑みで女性の方を向く。

「お客さん、良かったですね。これ、虎目の中でも力が強いヤツやから良いお守りになりますよ」

 数珠の一粒に、虎目の名を冠するに相応しい、黒目に見える石が。

「えっ、そうなんですか?」

「ええ、こういうのはですね――」

 人音が説明を始める。と。

「そぉそぉ。この目がギーっと周りを睨んどいてくれるから、悪いヤツは逃げていくんやよ~」

「へ?」

 後ろから首を出す、戸土。

「……まァだおったんですか、戸土はん」

「それはひどいて。ボク、一応依頼に来たんよ?」

「それならそうと、早う言いなさい。あ、お会計しましょか」

 相変わらず本題に入るのが遅い、などと呟きながら、人音はカウンターへと歩いていく。

「あっ、はい」

 パタパタと寄ってくる女性と、その後ろをへらへらと笑いながら付いてくる戸土。また何かしらをやらかしそうなその様子に、人音は深い深いため息をひとつ吐いて、虎目の数珠を受け取った。

エセ関西弁で申し訳ないです。休暇中に関西方面へ行って勉強してくるので、どうか悪しからず。

一応、これで一話は完結しました。どうなるのやら。

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