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カエルの騎士  作者: NaCL
1/1

優しい少女、ロカ

どこか遠い遠い星のこと。地球よりもずっと遠くにあって、でも地球みたいな星。とてもとても似ていて、人も鳥も虫もいて。海も山も太陽もあるのです。


ここで違うのはただ一つ。


生きるもの全てに不思議な力が宿っていることでした。魔法のように神秘的ででも魔法でなくって。物理学で説明できそうで分からなくて。不思議な不思議な力で守られた生き物は皆んなが素敵な夢を見ているのです。

誰もかれもが仲良くて喧嘩なんて一つもないし、困った事も起きたりしない。

周りを愛し自分を愛しているのです。



なんていうのはもうずっとずっと前のこと。

神秘的で不思議な力の源の

太陽の欠片が盗まれてから皆んなから不思議な力が無くなってしまったのです。

力を無くして焦ってしまい生き物は生き物を傷つけるようになっていきました。



大きな山のふもとにある小さな王国ムギ。

太陽の欠片が無くなる前は誰もが隣人を愛していて酷いことなんてこれっぽちも起きないような幸せの国。でも今は違う。

太陽の欠片が無くなってから盗みや悪さが起こるようになってしまいました。

困った王様はついにムギの国に兵士を用意しました。盗みをする悪い民を懲らしめるために。国の外からくる悪さと戦うために。




山道を歩いているのは小さな影。自分の体より少し大きな鞄を背負っている。目は大きくて青い。小さな口からは優しげな歌が流れている。栗色の髪の毛はくるくるしていて柔らかそう。ローブを纏った体はきっと小さい。

その影の主は可愛らしい男の子。まだ大きくないから女の子と見分けがつかないみたい。


男の子の名前はモノ。遠い所から旅をして大きな山を越えている途中なのでしょう。



「あーあ、ここどこなの?もう随分歩いてるのに街一つないじゃん…って言ってもこんな山道に村なんてないか…」

ずっと歩いているから疲れがたまってきてるみたい。


モノはそれからずっとずっと山道を歩きました。もっと前だったら山にいる鳥も一緒に歌ってくれたのに。今じゃモノが倒れるのをずっと待っているみたい。きっとモノを信じられないんでしょう。


「もうだめ…お腹が減りすぎて歩けないよ」


ついにモノは山道に倒れこんでしまいました。ゆっくりと目を瞑り景色が暗くなりだしていきます。モノはずっとずっと昔の事を考えながらゆっくりと眠りにつきました。




モノが目を開けると家の中でした。でもモノの知らない家具に嗅いだことのない匂いの布団。きっとまだ夢を見ているんだってモノが錯覚してしまいそう。


「ここ…どこ…?」


モノはゆっくりとベッドから降りました。ベッドから数歩。窓の外の景色を見てみると、人がいっぱい!物売りに剣士 、獣人やオーク色んな生き物が歩いていました。

久しぶりの人ごみにモノは少し嬉しくなりました。


「あ!おきたんだ!」

窓の方とは逆、後ろから女の子の声がしました。モノが振り返ると赤毛の女の子がいました。ボロボロになった服をきていて埃被った顔。でも目はとても力強い。ずっと見ていたくなる目。


「君は…?…もしかして僕をここまで運んでくれたのは君?」


「うん!正確にはわたし1人じゃ持ち上げられないからお父さんと一緒にだよ〜」


「ありがとう。迷惑かけちゃったね…僕はモノ。何かお返ししたいな」


「私はロカ。ここはわたしのお家よ。だから迷惑なんかじゃないよ!好きで助けたんだもん」

ロカの目はとても優しい。油断をするとモノは吸い込まれてしまいそうでした。


「待っててね!お父さんを呼んでくるから」

そう言ってロカは小走りで扉を開けて出ていきました。


モノはとても不思議な気持ちでした。太陽の欠片が無くなってから人にこんなに暖かくされたのが初めてだったからです。疑心暗鬼になって生き物たちはもう人を助ける余裕なんてないと思っていたのです。

だからロカの純真をまだ見抜けていなかったみたい。



しばらくすると扉が開きました。少し小太りだけど優しさうな男の人が立っていました。「もう体調はいいのかい?」


「おかげさまで助かりました…ただその実は…何も食べてなくて。何かもらえないかい?」


「はっはっ!確かに眠りこけてもう2日。君は何も食べてないからねぇ。ロカ!台所からパンとハムを持ってきてくれないか?」


「うん!」ロカは台所に向かいました。


「君の名前を教えてくれるかな?」


「僕の名前はモノ。東の国メコから来たんだ。旅をしていたんだ…まだ不思議な力が無くても優しい人がいないかって。こんなにすぐ会えるだなんてね笑」


「私のことかい?はは…私は決してそんなたいそうなもんじゃないさ…ただ太陽の欠片が無くなってから生まれて来たあの子のために優しさを教えてやるために踏ん張っている。

本当はとてもとても不安で怖い…

君のような小さな少年でさえ怖いよ…」


「そうだったんだ…ごめんなさい」

モノの顔はとっても寂しそう。



「いやいや!謝ることはない。人が人を助けるのに不安を感じるなんて私こそ謝るべきなんだ…」


「持って来たよー!!」

ロカが籠にいれてパンを持って来てくれたみたい。


「さぁさ!食べなさい。食べてゆっくりしていくといい。アテがないならしばらく居てくれても構わないんだよ」


「そうだよ!旅人なんでしょ?いろんな話を聞きたいな」


ロカとロカのお父さんはとても優しくモノに接してくれる。不思議な力を無くしても優しい人はまだいるみたい。

モノはそれがとても嬉しかったのか笑顔が絶えないみたい。




あれから一週間が過ぎました。モノはそろそろロカにお別れを告げて旅を続ける決心がつきました。久しぶりの優しさにバイバイできなくてモノはずるずると居座っていたのです。ご飯代だってバカにならないしね。

モノはロカに家のことを教えてもらっていました。ロカの家は借金ばっかりでもう危ないって。お父さんがついに危ない人からお金を借り出してるって。でもロカはそれを止められないから大っきくなったら支えたいなって。


モノはロカの力になってあげたくて仕方ありませんでしたがお金はないのです。


モノとロカが2人で部屋で話していると扉が開きました。お父さんと知らないオークがいました。お父さんの必死な顔にロカは戸惑っていました。きっと借金とりだって分かったからです。


「ガリアさん。こちらの赤毛の子が私の子供です。」


「なかなか可愛らしいねぇ。とても気に入ったよ…久々にぱーっとやりたいねぇ。人間のガキってのは柔らかくて締まりがいい…」


「では、この前の借金は帳消しということで…よろしいでしょうか?」


「あぁ、問題ない!早く用意させろ!俺の気が変わらない内に!!」


「ロカ、こっちに来なさい!モノ君もすまんが今日で家を出て行ってくれ。」


「え、あ、うん…お父さん…そのオークさんは誰なの?」

ロカの目は怯えていて暗い。


「誰でも構わんだろ!早く来なさい!!」


モノは悲しかったのです。きっとロカは売られたんだろうって。お父さんに。あんなに優しかったお父さん。でも本当は優しくなんてちっともなくて。自分のためにロカを売ったんだって…

優しさを信じたのに嘘だったことが悲しくてモノは泣きそうでした。本当の優しさを持つ少女が父親のせいで崩れさりそうなことがとても悲しかったのです。


「さぁ、来るんだ!」

お父さんはロカの腕を掴み引き寄せました。

そのままオークのもとへと連れて行きました。連れ去られたロカの顔は今にも崩れてしまいそうでとてもとても悲しそうです。


「おい、こいつを連れて俺の部屋にいれとけ!」オークは後ろに立っている二人の大男に言いました。


「分かりました。」大男はロカを担ぎ上げ外に出て行ってしまいました。


お父さんはオークにこれで借金は無くなるのかとしか聞いていません。娘のロカの安否を一切訪ねてはいませんでした。

オークはお父さんに約束は守るといいそのまま去っていきました。

その場に倒れこんだお父さんはほっとした顔をしていました。とても醜い顔です。


モノは尋ねました。

「ロカは大切じゃないのかい?ロカに優しさを教えるのじゃないのかい?お前は一体何ななのさ…」


「子供には分からないことだよ。黙っててくれないか。これはうちの問題なんだよ!」

徐々に声が荒がるお父さんの顔にはもう優しさのかけらも残ってはいませんでした。



モノは下を向きその家を出ていきました。悲しい気持ちでいっぱいです。

ただせめてお父さんに売られようともロカには幸せになってほしいと思っていました。



ロカを担いだ大男は狼の獣人。とても強く勇ましい種族だったのです。でも今となっては争いだけを求める野蛮な種族。太陽の欠片なくして勇気は語れないのでしょう。


もう1人の大男はライオンの獣人。狼の獣人と同じく勇敢で素晴らしい種族だったひとつ。でももう今は勇気なんて一つもなくて。あるのはただ浅ましく人を騙し奪い生きるだけ。


狼の獣人はロカを担いで裏道を通っていました。その奥に馬車が待っているのです。オークのガリアの家に向かう馬車。ガリアはこの街の裏の顔でした。太陽の欠片がある頃は。

でも太陽の欠片が盗まれてからは狂気じみた街になりガリアはもう街の表の顔でした。

兵士がいて法を重んじるムギ王国でもまれな法がなく兵士のいない汚れた街アルプ。それがモノの訪れた街だったのです。




ロカは泣きながらあるがままにいました。大男の肩に担がれて抵抗もせずぐったりと泣いていたのです。大好きだったお父さんに裏切られて優しさを初めて落としてしまったのです。このままオークのものになるのが怖い思いもありました。


狼の獣人が裏道を歩いていると前に小さな影が道の真ん中にありました。身体より大きな鞄を持っていて大きな青い目にくるくるの栗色の髪の毛。背丈はほんの子供だけど力強い目には不思議な力が宿っていそう。


「なんだぁ。あんときのガキじゃねぇか!取り返しに来たわけだ、この娘を!笑

妹か?姉か?それとも大事な人なのかなぁ〜笑笑」

狼の獣人の声は鋭くて怖い声。普通の人なら怖がるところ。でもモノはちっとも怖くありませんでした。


「太陽の欠片が盗まれてから生き物は変わってしまった。優しさを無くしたんだ。でもまだ優しさを持っている子がいて…でもその子が今、それを無くしてしまいそうで…」

モノは胸が張り裂けそうでした。


「僕はお前たちが許せない。太陽の欠片が無くても生き物は優しくなれるということを壊し去ってしまうお前たちが許せない。子の親を想う気持ちが壊れる瞬間を嘲笑うお前たちが許せない。」


「許せないからなんなんだ!?そんな小せぇ体で何ができる?力も権力も金も何もねぇガキに何ができる?楽しみだなぁ?」

狼の獣人は醜い顔をさらけ出しました。

肩に担がれたロカはまだ泣いていました。本当にお父さんに裏切られたんだと知って。


「ロカ、僕はね。君に助けられて嬉しかったんだ。人の優しさを久しぶりに感じれたからね。だからこそ君には幸せになってほしいんだ…どんなことがあっても優しさだけは無くさないで欲しいんだ。 だから…」


突然、モノの体が輝きだしました。とても綺麗な綺麗な色で、見る者全てに癒しを与えるような。優しさをたっぷり包んだ光。光輝いた体に少しづつ緑色の鎧が現れました。モノの右側に光輝く穴が空いて。そこから出てきたのは虹色の槍。モノはそれを掴み穴から抜き出しました。モノは左手を顔に近づけると兜が現れて。緑色のカエルの兜。とても戦うには向いていない可愛らしい鎧と兜は優しさの証。

モノはきっと傷つけるものが大嫌い。だからせめて可愛らしくしたのでした。


小さな身体のカエルの騎士。ひ弱そうでいてでも力強く立っている。カエルの騎士からは不思議な不思議な力が感じられるのです。


太陽の欠片がある頃に皆んなから好かれた素敵な騎士。異世界から太陽の欠片を奪いにきたドラゴンを倒した勇敢な騎士。そんな絵本が流行ったのはもう50年も前。モノかどうかはわからなくて。


「なんだぁそのダセェ格好はぁ」

狼の獣人は笑い飛ばしロカを下におろしては指をコキコキと鳴らしました。

「てめぇみてぇなクソガキはぶっ殺したくなる!!」

そう言って狼の獣人はモノに殴りかかりました。狼の獣人のパンチを避けてモノは宙に飛びました。思い切り勢いをつけた狼の獣人は体勢を崩してしまい前につまづいていきます。宙に浮かんだモノは手にある虹色の槍で狼の獣人の左肩を突き刺しました。


「がぁっ!」

狼の獣人は痛々しい声をだします。槍で突かれたのだから仕方ありません。

でも狼の獣人の肩からは血が出ていません。

傷跡もないのです。



「僕の槍は虹色の槍。生き物の心を突き刺す忌々しい酷い槍。」

そういってモノは一瞬で狼の獣人に近づき虹色の槍で何度もなんども身体をさしました。


狼の獣人は苦痛に耐えきれずその場に倒れこんでしまいました。


ライオンの獣人はロカを担いで逃げようとしましたがモノは見逃しません。

すぐに追いついて後ろから心臓を一刺し。

ライオンの獣人はその場に倒れこみました。


投げ出されたロカをモノは受け止めてゆっくりと立たせます。


「モノは強いんだね…あんなに大きい獣人を倒しちゃった!」


「力が強くても仕方ないんだ…本当はこういうのは好きじゃないんだ…」


「でも私は助かった!ありがと…

でも、もうどうしようもないや…お父さんは私を売り飛ばしたわけで…私はもう帰れないし…」

ロカは寂しそうに笑いました。助けてくれたモノを悲しませないような精一杯の優しさがこの笑顔だったのでしょう。


「仕方ないよね。もうお父さんには優しさは残ってなかったんだよ…ロカは人が嫌いになった?」

モノは泣きそうになりながら尋ねました。


「大丈夫!、狼の獣人に連れてかれたときは悲しかったけど…モノが助けてくれたもん!お父さんには売られだげ…ぅぅう」

ロカはついに泣き出してしまいました。うずくまって道の真ん中でずっとずっと泣いていました。

モノは困りました。太陽の欠片がある頃はみんなが幸せで泣くなんてこと無かったのです。そしてモノ自身もまた泣きたかったからです。でもロカの前で泣いちゃうとロカはまたモノを慰めようとして目一杯泣けないから。だからモノは泣きません。


ドラゴンだって倒せるカエルの騎士でも泣いてる女の子一人には敵わないのです。



モノは鎧を脱いでロカの背中をさすりました。ゆっくりと暖まるように。





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