プロローグ1 【終わりの光】
「ウィクシス」それはある世界に存在する戦闘種族の名称。曰くその拳は大地を砕き、振り上げた脚は海を割り、その圧倒的な力でもって天上の神をも退けると言われる規格外の生物。
事実彼らは他の種族の全てを軽々と圧倒し、最強の存在として世に君臨していた。彼らは戦い以外に興味を持たず、部族単位で世界を巡り、常に闘争に明け暮れた。彼らが通った道には破壊だけが齎される人型災害。
青年マカロニはそんな種族の一部族戦士だった。
――なんなんだアレは。
それは、この光景を見た彼がはじめに思ったことだ。そしてこの光景を見たすべてのものが思ったことでもあった。
それはまさしく極光であり、天より無数に伸びる光の柱であった。
「ニゲローーッ!!」
誰かが、そう叫んだ。それは彼らにはあまりに馴染みが薄い言葉だった。いままで脅威に背を向け逃げ出すようなものは彼ら戦闘種族『ウィクシス』の戦士には存在しなかったからだ。
しかし彼らは、その声を聞いた瞬間、逃げ出した。己の全力でもって地を駆け出し、彼らは初めて逃走したのだ。眼前に迫る本能的な死の危機から――。
そのとき彼――青年マカロニはその場を動かなかった。多くの同胞が逃げ出す中でなぜ彼は動かないのか? それはなにも彼が他のものより飛び抜けて勇敢だからとかそんな良い理由ではなかった。
なんてことはない、ただ彼は諦めたのだ。逃げる意味はないと、この光からは絶対に逃れらぬと。それを直感で理解したために彼は生き足掻くことを放棄し、その場から、少しも動くことはなかった。
やがて絡まり合い巨大な渦となったその光は瞬きの間に彼らの一切合切を飲み込み天へと昇った。
マカロニの意識もまた絶対の光の中に埋没したのだった――