1.幼女化
幼馴染の黒沢 聡美と遊園地に遊びに来た高校生の山本 光一は、たまたま遭遇した殺人事件を解決し、帰り際に殺人現場に居合わせた怪しげな白ずくめの男を見かけ、後を追った。
男は拳銃密売の証拠フィルムを、密売人は大量の金銭をお互いに渡していた。
それを目撃していた光一の背後から、仲間の男が鉄パイプを手に襲ってくる。
「うっ!」
光一は殴り倒され、意識が混濁してしまう。
「つけられやがって」
「こいつはさっきの! 殺しやすかい?」
「いや、チャカはまずい。さっきの騒ぎでまだサツがうろついてる。これを使おう」
懐から薬箱を取り出す仲間の男。
「組織が新開発した痕跡の出ない毒薬……Trans4869をな」
仲間の男は箱からカプセルを取り出し、光一の口に押し込んで水を飲ませ、もう一人の男と共に立ち去った。
その後、光一は警官に発見された。
「おい、誰か倒れてるぞ!」
「まだ息があるな。救急車を呼ぼう」
(そうか。あの薬、効かなかったんだ)
「立てるかい、お嬢ちゃん?」
(お嬢ちゃん? おいおい、俺は男子高校生だっつーの)
起き上がる少女。
「へ?」
(痛!)
少女は頭を押さえた。
「お嬢ちゃん、名前は?」
(俺の他にも誰かいるのか?……いや、こいつ明らかに俺に聞いてる)
少女は脱兎のごとく逃げ出した。
途中、ショーウィンドウに映った自分の姿を見て驚く。
(女体化してる!)
背中まで伸びた黒髪。
小さくなった体。
どこからどう見ても少女だった。
少女は駆け出す。
辿り着いたのは山本家だった。
入ろうとするが鍵がかかっていた。
そこへ光一の母親が帰ってくる。
「あら、家に何か?」
「母さん、俺だよ! 光一だよ! 変な奴らに変な薬飲まされて女体化しちまったんだ!」
「怪しいわね。警察に突き出すわよ」
母親が少女の手を掴む。
「ちょっと待って! 母さん、さっき銀行に行ったでしょ!」
「ど、どうしてそのことを?」
「ズボンの裾が泥で汚れてるからだよ! あそこは工事中で、昨日の雨で水たまりができてる! 母さんはその泥濘に足を突っ込んでしまったんだ!」
「あ、あんた、ほんとに光一なの?」
「だからそう言ってんじゃん!」
「とにかく、中へ入りなさい」
少女は母親と共に家に入る。
母親は少女の身に起こったことを聞いた。
少女は光一だった。
彼は白ずくめの男たちの怪しげな取引を目撃し、夢中になって見ていると、背後からやってきたもう一人の仲間に殴り倒され、目が覚めたら女体化していたという。
「とにかく、あんたが生きてることがバレたら周りのみんなに危険が及ぶわ。正体を隠すのよ」
「隠すって言ったって……」
「そうね……」
その時、玄関の扉が開いて聡美が入ってきた。
「光一、帰ってるの!?」
(ヤバ!)
少女は物陰に隠れる。
「あ、光一のお母さん。光一は帰ってる?」
「こ、光一はまだよ」
「そう。あら?」
物陰に隠れている少女に気付く聡美。
「君は?」
「ひゃ!?」
びっくりして飛び上がる少女。
「その子は私の遠い親戚で暫く預かることになったのよ。そうだ! その子、サトちゃんの家に置いてあげてくれない?」
「いいわ」
聡美は少女に訊く。
「君、名前は?」
「え? や……」
少女は咄嗟に思いついた名に言い直した。
「秋山 玲奈」




