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第5話 これで会得!? 火の魔法とロイドの思惑

前半は秋也の魔法取得と、後半はロイド視点での振り返りです。

2/29 ロイドからみた茜と秋也に関する記述を追加しました。

 火の気のなかったはずの薪組に、手を翳しただけで火を燈したロイド。そんな様子を見て、俺も茜も目を見開いて驚いた。


「といっても、私は魔法自体がそれほど得意ではないので、使えてもせいぜい火熾しくらい……っと、どうしましたか? そんな顔をして……」


 今の俺たちの顔を見たなら、正に鳩が豆鉄砲、というような顔をしているんだろうな。逆にロイドが驚いたほどである。


「いや、すまない。ちょっと驚いて……」


「すごい! これが魔法なんですね! 魔法のあるファンタジー来たー!」


 俺が驚いた以上に、茜は驚嘆の声をあげている。驚きのベクトルはどちらかといえば喜びに近いんだろうな……

 すごいすごいと叫びながらはしゃぎ回る茜。とりあえず、近隣の方々の迷惑になるからやめなさい。


「そ、そんなに驚くようなものなのでしょうか……?」


 そんな茜のはしゃぎっぷりに若干引きつつ、ロイドがこちらへと問いかけてくる。


「いや、すまない。実は俺も茜も魔法を習う機会がなくてだな……余り見たこともなかったんで、はしゃいでいるみたいなんだ。」


 俺も未だに驚きが抜けないが、何とか言い繕う。嘘は言っていない。少なくとも人生の中で魔法を見たり聞いたりしたことは今までに無かったからな。魔術(マジック)ならあるが、あれは種も仕掛けもあるし。


「ねぇねぇ! それってわたし達も使えるかな!?」


 ひとしきりはしゃぎまわった後、俺の肩越しにロイドに問いかける茜。


「一応、魔法を使う為の魔力というものは誰しもが持つ力ですので、多少の個人差はあれど、習得は出来るかと思います。断言は出来ませんが。」


 ロイド曰く、人の体内には生命をつかさどる力が流れており、それを操ることによって魔法を現象として発現させるらしい。武道に於ける気の流れのようなものなのだろうか? 生命の流れと教えることもあるらしく、これを習得することによって病を遠ざけ、怪我の治癒を早め、寿命を延ばす。そんな流派まであるそうでその用途は生活を楽にする為の小技から、果ては戦闘に於ける戦術荷まで及ぶほど多岐に渡るのだとか。

 先ほどロイドの見せた点火の魔法も、比較的初心者向けに分類される生活魔法なのだとか。曰く「火を見たことがあるのなら誰でも出来ますよ」らしい。


「私が教えるというのもおこがましいのですが、食事の後でよろしければ魔力の流れ仕方をお教えしますよ。」


 そんな提案に俺達は、というか茜は一も二も無く飛びついた。


 今夜の食事は俺たちの持ち込んだ鳥ムネ肉に、ロイドが持っていた岩塩を軽く振りかけたものを適当な枝で串焼きにしたものと、村人から売ってもらった比較的やわらかいパンを食すことになった。旅が進むと、焼き絞めてカチカチになったものを、スープに浸したものが種になるらしいので、今回のように人里で出来る食事は長旅に於ける心の安らぎにもなるのだとか。

 食事を終えた俺は、ロイドからの助言を元に魔力操作を試している。ちなみに、茜は魔法への適正があまりたくないらしく、隅で丸くなって不貞寝している。種族的にも魔法が得意では無いらしいので、こればっかりは仕方がない気もする。


「獣人族は保持している魔力が多い代わりに、それらを細かく操作するのが苦手らしくて……もちろん、その上で魔法を習得する人もいなくは無いのですが、多くは無いですね。そのかわり、獣人族ならではの魔力の使い方があるので余り気を落とさなくてもだいじょうぶなのですが……」


 ということらしい。適性が無いと聞いた時点でそのまま落ち込んだかと思ったら、そのまま寝てしまった。とりあえず日中の移動中にでも、まだ道はあると話してみよう。そんな中、俺は火の番もしつつ、ロイドの言っていた魔力操作を試している。


「魔力は体に廻る力です。まずはそれを感知します。魔力を感知できたら、今度はその流れを一度身体の真ん中に集めるようなイメージをしてください。」


 う……ん? どっかで聞いたことあるぞ? 


「真ん中……そうですね、大体おへその辺りがイメージしやすいかと思います。」


 へそ? これってアレか? 「丹田に気を溜める」って奴なんじゃないか? だったらやったことがあるな。うん。いけるか? あ、なんか分かる……気がする。多分。


「集まってくる感覚は分かりますか? 温かく感じたら、それが魔力を感じているということです。」


 お? 合ってたか。なら次はどうする?


「それを指先に集めてください。集まってると感じたら、最後に火をイメージするんです。焚き火でもろうそくでも構いません。そこに火があるのだとイメージするんですよ。」


 指先……お、温かくなってきた。さて、火の形式か……火って言うのは、そもそも物質としてそこに在るというものじゃないんだが、その辺はどうなんだろうか? 燃料や一緒に燃えているもので温度も形も色も変わる。ロイドがさっき使ったのはどういう炎だ? 一瞬大きく、すぐに消えた……点火のためにつけた炎だ。今はそんな必要は無い。小さな炎、安定した火種……


「……これか。」


 心の中でカチッという音を思い浮かべて指先に集中する。すると、伸ばされた俺の人差し指からライターの火のように、小さく安定した炎が出ていた。


「ほほう、すばらしい。これでシューヤさんも火の魔法が使えるようになりましたね。しかし、この炎は……こんなに小さく、しかもそれを燈したままにするとは……中々イメージ力が強いのでしょうか……?


 うん? そういうものなのか? 思い浮かべたのがライターだったかかな?


「魔力の流れを感知したりするのも、相当の訓練が必要になるはずなんですが……」


「多分、過去に武道……格闘技を学んだことがあったからだろうか? 力の溜め方が似ていたんで、もしや? と思ったんだが。」


 やってて良かった、古武術。小学校くらいのときから高校卒業まで道場に通っていたからな。まぁ、年齢と階位が上がるにつれて、同世代の奴等からは置いていかれるほど実力差がついてしまったので、あまり自慢気に言うことでもないが。


「あぁ、そちらの経験はあったのですね。なるほど……やはり似通う部分が出てくるのでしょうね。」


 どうやらこちらでも気功のような使い方があるのだろうか? まぁ、日本にいた頃よりも扱いが簡単になっているような気もするが。あの説明でロイドが納得してくれたのでまぁいいか。


「あ、そうそう。あまり長時間魔法を発現させるのは余りお勧めしませんよ。魔力というのは生命の源でもあるので、消費し続けると命に関わることもあるので。」


「マジか!?」


 それを聞いてあわてて火を消す。


「まぁ、そのサイズならそこまで問題は無いはずですが、あんまり大きく発現させ続けるのよろしくないですよ。」


 なるほど。気をつけよう。


 その後、何度か魔法の練習として火を燈したり消したりを繰り返し、やがて俺は眠りに落ちた。


◇◆◇


 それは奇妙な出会いだった。私はいつものように幾つかの開拓村を回って行商をしているときだった。今回も巡回ルートに入っている一つの農村に差し掛かったとき、村の入り口で戸惑っている一組の男女がいた。男性のほうは濃い目の茶色い髪と黒い瞳で、この辺りでは余り見ることのない顔つきをしている。女性のほうは濃い目の茶色の短い髪とそれに合わされたような毛色の耳と尻尾に、獣人族特有の金色の瞳をした人でした。

 何をしているのかと聞けば、二人が言うには道に迷っているということだった。しかし、二人とも旅をするには軽装過ぎる出で立ちで、身なりや手にしていた奇妙な袋など、気になる点はいくつもある。

 とはいえ、何か武器になりそうなものを持っているわけでもないし、自分の身くらいは守れる程度に戦闘術はたしなんでいる。そして何よりそこは村の入り口です。この場で何かをされる心配は無いと判断して声を掛けました。

 男性のほうがシューヤで女性のほうがアカネ。二人は夫婦だといっていました。いまどき異種族同士での婚姻もそれほど珍しいものではないのですが、この辺境の地では始めて見た気がします。

 困っていると言っていたので、最初は村長にとりなしてもらって移住できないかと打診しましたが、このホレス村の村長の獣人嫌いは相変わらずでした。かなり強硬にお二人の移住を拒否していましたからね……

 仕方無く私は二人を連れてその場を後にしました。移住が出来ないとなると、二人もこの村を後にしなくてはなりません。しかし、どう見ても二人の装いは旅のできる者ではありませんでした。かと言って、私の手持ちの荷物に旅用の用品はありません。また、路銀もなさそうでしたし。

 しかし、旅をする者として、二人を放置して他に行く気にもなりません。他の商人が聞いたら甘いと言われるかもしれませんが、旅で困っている人には出来る限りの手助けをしたい。助けた恩は廻り廻って再び帰ってくる。かつて私を拾ってくれた会頭はそういっていろんな人たちに手を差し伸べていました。そうして助けられた人たちは、その後は会頭の商会を何かと利用してくれるようにもなりました。

 私はその思いを受け継いで生きたい。周りの商人たちは皆、利益を求めてばかりでしたが、一人くらい人の心を求める商人がいても言いと思うのです。ですから、私は二人にこう申し出ました。


「お二人には、私の代わりに商いをやっていただきたい。」


 と。もちろん、金銭のやり取りと計算は私がやれますし、持ってきている商品も私のものですので、二人にできることはお客さんへの対応と商品の売り込みがメインになるのですが。

 そんな予想を裏切ったのは、二人が商品の売り込みを始めてからでした。シューヤさんは突然、高い声で客寄せ文句を唱え始め、アカネさんはとても好感の持てる笑顔で一人一人に丁寧な対応をしつつ、時に世間話も挟みながら必要になるであろう商品を売り込んだり。お陰で、いつもよりも品物の出が激しかったですね。

 更に驚いたのは、シューヤさんの売り方でしょうか。幾つかの商品を組み合わせて値下げに応じたり、商品によっては値下げとそれを煽る謳い文句でお客の注目を集めていました。何より、売り出している商品の価格と、そこから何処まで引いたら利益が出なくなるかをしっかりと把握して値引きに応じるなど、驚きの計算力を見せ付けられました。それはもう、本職の私でさえ舌を巻くほどでしたね。

 村での露天では、何も品物を売るだけではありません。他へ持っていける商品の仕入れもしなければならないのです。これは村の人たちの現金収入にもなるので、しっかり吟味して買い取らなければならず、私が選任してやっておりましたが、今回の露天では仕入れよりも売ったものの方が遥かに多かったのです。

 ある程度商品が出たところで、今回はそろそろ店を仕舞おうかとしていたときに、お二人の持つ荷物が気になり、これも売り物にならないかと問いかけてみました。

 すると、お二人の持っていた奇妙な袋から出てきたものは、とんでもないものばかりでした。その全てが、やはり見たことも無い奇妙な材質で出来た袋に入っていました。

 その中身は、塩、砂糖、小麦粉、油、香辛料。後は芋が二種類と生肉でした。食料品はまぁいいのですが、問題はそれ以外でした。今までに見たことも無い純度で生成された塩と油に小麦粉、そして王室にも卸せそうな品質の砂糖。これだけで火と財産興せる代物です。

 シューヤさんはその価値がいまひとつ分かっていないようでしたが、アカネさんはしっかりと把握していたようですね。一緒になってシューヤさんに怒鳴っていましたから。

 それはともかくこのお二人、少なくともアカネさんはその価値が分かっていたようですね。手持ちは無くとも、これらの物品がお金になることが分かったようです。私のほうへと買取を求めてきました。

 しかし、その時点での私の手持ちではそれらの品物を買い取ることが出来ません。それほどにまでその品物は高価だったのです。

 ですので、私はそれらの商品を買い取り、そしてしかるべき販路に乗せられる場所まで一緒に旅をしないかと持ちかけたのでした。あれほどの商品、伝が無ければ売却も難しいでしょうが、私にはそれが在ります。しかし、人をだます商人は後の信用に関わります。なので此処はお二人にも利益の出る形の提案をさせてもらったわけです。

 しかし、それを聞きつけた村長が、掌を返すように二人を受入れると言い出したのです。それも、(くだん)の荷物と一緒に、と。後に現われる別の商人に売り渡して、財を得ようと目論んだのでしょうね。

 もちろん、お二人はその提案を飲むはずも無く、さらにその途中での酷い物言いで村人からも総スカンを食らっていました。結局、堪忍袋の緒が切れたシューヤさんが村長を黙らせて、その場は終息しましたね。

 そして、お二人は二つ返事で私からの提案に乗っていただけました。そうと決まれば、お二人の分の旅装も必要になります。本音を言えば、あれほどの商才や商品を見せられなければそこまで世話を焼くつもりはなったのですが、こうなると話は別です。

 村人から買い取る商品に、外套を二つ追加してお二人に渡しました。道中で掛かった経費は後ほど集計して、物品が売れた後に差し引くつもりですが、あれほどの品物であれば十分元が取れるはずです。

 こうして、私はお二人とともに旅をすることを決めたのです。

いろいろと都合のいい展開かもしれませんが、ロイドにはロイドの思惑があるのです。

2/28 サブタイトルと文章の一部を修正しました。


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