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第3話 拒絶された!? 生き延びる道を模索して

2/29 ロイドの容姿に関する記述を少し追加しました。

 俺たちは荷物を抱えて轍の道を進む。たまたま手に持っていたからなのか、近所のスーパーで買った食材も丸ごと転移していたらしい。他のも何かないかと探してみたら、ポケットには財布とスマホが入っていたので、試しにスマフォの電波を調べてみると、やはり圏外だった。電話とメールも試してみたが、結果はやはり使用不能である。

 茜も幸いというかなんと言うか、バッグが丸ごと転移したらしく、いくらかの小物が一緒に来ていた。やはり財布とスマフォ、それから化粧品に非常用の生理用品と家の鍵に眼鏡ケース、予備の使い捨てコンタクト。更には外部バッテリーと災害用の手回し式充電器に各種ケーブル、最後にMP3プレイヤーが入っていた。

 いや入れすぎだろう、常識的に考えて……


「ん? そういえば、眼鏡がないと何も見えないって行っていたけど、大丈夫なのか?」


「う~ん、それがどういうわけだか……」


 久しぶりのお出かけということで、今日はコンタクトレンズを入れていた筈だ。しかし、茜は目を覚ましたときに視界がぼやけていて、あわてて眼鏡をかけるも、視界は悪いまま。まさかと思いなけなしの使い捨てコンタクトを破棄すると、今度は視界がクリアになったらしい。


「なんか、視力が回復したみたい?」


 ほんと、茜の身に何があったっていうんだよ……まぁ、健康になるのはいいことだし、今は余り気にしないでおこう。というか眼鏡をかけようとしたときに、耳が変わっていることに何故気づかないのか……

 そんな茜は、見えるようになった目で周囲を見渡しては感激したのか、飛び回っている。……あんまりはしゃいで迷子にならんでくれよ?


「なんだか体が軽いんだよねぇ? なんだろ? これ?」


 いろいろ気になることもあるし、まずは落ち着ける場所がいるかな。そんなこんなで歩き続けること約1時間ほど。ようやく一つの村へと俺たちは到着した。

 外周を柵でおおわれ、村へはこの轍の道が続いている入り口から入ることになるらしい。一応門のようなものがあり、その上には見たこともない文字で何事かが書かれているらしい。


「……多分村の名前なんだと思うけど……何語かな?」


「……わからん。見たこともない文字だ。」


 少なくとも英語ではない。かと言って、他の言語の文字でもなさそうだ。いやアジア圏の文字とか、知らない文字もいろいろあるだろうけどさ。

 そして、道の文字を見た俺は新たな懸念が頭をよぎる。


「……言葉が通じなかったらどうしよう……」


 下手をしたら、追い払われるな……しかし、それは杞憂に終わることになった。


「おや、見ない顔ですね。新しい住民ですか?」


 村の入り口で立ち尽くしていた俺たちは、不意に後ろから声を掛けられていた。驚いて振り向くと、そこには背負子を背負ったマント姿の若い男が立っている。浅黒く焼けた肌に濃い目の顔つき。帽子の隙間から見える髪は色素の薄い茶色なのだろうか。


「あ、いや、俺たちは……」


 驚いて言葉に詰まる。しかし、俺がもっと驚いたのは言葉が普通に通じたことだった。服装といい顔つきといい、どう見たって日本人じゃない。なのに、聞こえた言葉は流暢な日本語だったのだから。


「……言葉が分かるのか?」


「何をおっしゃるのですか。分かるに決まっているでしょう。それより、貴方達は? 住民でないとすると、まさか商売敵ってことは……」


「……商売?」


「いや、見れば分かるでしょう? まぁ、その反応では違うようですね。ホッとしました。」


 いや、分からん。何者なんだ? この男は。まぁ、変に怪しまれるのは不味い。どうしたものかと、茜に目配せすると、彼女も困惑した顔をしていた。しかし、何事か考えるような顔をした後、一人うなずいてからこの男に一気に捲くし立てた。


「実はわたしたち、気がついたらこの道沿いに倒れていたんです。最初は野盗か何かに襲われたのかともお思いましたが、特に何かをされた形跡がなくて戸惑っていたのです。それで周囲を見渡していたら遠くからこの村が見えたので向ってきたのですけども、この村には見覚えがなくて……それでいろいろ考えたのですが、どうもわたし達は記憶を一部失っていると判断してどうしたものかと途方に暮れていたんです。ここが何処で、どういった場所なのかお分かりになりませんでしょうか?」


 いきなり長セリフを噛むことなく早口で伝えられ、目の前の男は目を白黒させている。というか俺もびっくりだ。何で記憶喪失なんだ? 何も忘れちゃいないんだが……

 そう思って、再び茜に目配せすると、小さくウインクを返してくる。……ここは任せるか。


「記憶がない……ですか。それは困りましたね。分かりました。とりあえず、この村の村長さんにも話しを聞いてもらいましょう。」


 あっさり信じちゃったよこの人!? あんな胡散臭い話でよかったの!? そんな俺の驚きとは別に、男は「こちらへどうぞ」と先頭に立って歩き始めた。どうやら道案内もしてくれるらしい。そして、男の視界から外れたことを確認すると、茜が突然耳元でささやき始めた。


「こういうときは記憶喪失にしておくのが鉄則っぽいよ。何も知らないってことを知られると、付け入る隙を与えかねないから、”一部”記憶がないって伝えたの。」


 どうやら、さっき言ってた小説のセオリーらしかった。まぁ、下手なことを言って怪しまれるよりは……って、さっきの受け答えも怪しさ満点だろうに……


「さっきの説明で、こっちに何かしてこようとしたらそのときは守ってくれるでしょう?」


 信頼されてるのはうれしいけど、あんまり過信してくれるなよ? 何でもかんでもできるわけじゃないんだから。


 男の後に付いて村を歩いていくと、やがて他よりも若干大きめな家の前へと着いた。


「あ、ここです。ここがこのホレス村の村長宅です。」


 そういうと、男はそのお宅の扉にノックする。


「村長、私です。行商のロイドです。」


 あ、行商人だったのか。あの背負子には商品が入っているのかね? なるほど。しかし、徒歩で回ってるのか? だとしたら大変じゃないかい?

 少しして、扉が開かれて一人の老人が出てくる。多分、この人が尊重なのだろう。


「おぉ、ロイドか。良く来んさったね。おや、そちらの二人は……?」


 挨拶もそこそこに、村長はこちらのほうへ視線を移しながらそういって行商人の男、ロイドへと尋ねる。……なんか一瞬、妙な目で見たような……?


「ええ、何でも困ったことになっているらしくて……」


 ロイドは先ほど茜から聞かされた事情を村長に話している。話しを聞きながら、ちらちらとこちらを見ているが、あんまり好意的な視線じゃないな、あれは。

 やがて、ロイドの話も終わると、難しい顔をした村長は重そうに口を開く。


「申し訳ないんだが、無一文の人間をいきなり入れろといわれてもな……しかもそっちの娘、亜人なぞこの村に入れとう無いわ。申し訳ないが、お引取りを。」


 んん? 亜人? 茜の事か? そう思って茜の方を見ると、彼女は少し悲しそうにして目を伏せた。


「村長。嫌いなのは分かりますが、その発言は問題ですよ? 聞かなかったことにしますから、どうかこの二人を受入れてやってくださいよ。」


 そんな村長の発言は問題だったらしい。ロイドはそれをたしなめつつも更に食い下がる。しかし、村長は難しい顔をしたままだ。


「いくらお主の頼みでも聞けんな。そんな蛮族、野蛮な原始人種など何をするか分からん。まぁ? 相応の代金を支払えるのなら考えてやらんでもないがの?」


 認めて欲しけりゃ金寄越せってか。しかも、考えなくも無い、と来たもんだ。金を受け取っても「考えた結果、却下」なんてこともできるわけか。嫌らしい(ジジイ)だ。

 というか、ちょっと待て。誰が野蛮な原始人だと? よし決めた。お前は今から俺の敵だ。人の嫁を野蛮人呼ばわりとか、天地が許しても俺が許さねぇ! 

 とりあえず悲しそうにしている茜の肩を抱き、慰める。よくも人の女を泣かせやがったな。


 そんな俺たちを、まるで汚物でも見るような目で見下すジジイ。こんな奴ジジイで十分だ。


「……そうですか。分かりました。」


 そんな強硬な態度の村長に何とか食い下がるロイドだったが、彼もついに折れた。悔しそうではあるも、おとなしく引き下がる。


「あぁ、商売なら何時もの広場で頼む。皆、おぬしが来るのを楽しみにしてたでの。」


 そんなロイドの背中に声を掛け、村長は自宅へと戻っていく。


「……すみません。力になれずに……」


「いや、あんな風に話してもらえただけで感謝ですよ。しかし、亜人だの原始人だの、失礼極まりないなあのジj…村長は。」


 危うくジジイと普通に呼びそうになってしまった。危ない危ない。そんなことを言ったら俺まで嫌な人間になってしまう。


「村長は娘が獣人族の男と駆け落ちしたことが許せないらしくて……それで獣人族を嫌っているんですよ。もちろん、国の法律では多種族を貶めるような発言は禁止されていますが、なかなか差別はなくなりませんね……まぁ、村長はアレですが、他の村人は無闇に嫌わないはずですので、身に危険が及ぶことは無いと思いますよ。」


 それを聞いてとりあえず俺は胸を撫で下ろす。どうやら、茜は獣人という種族になってしまったようだが、特に差別の対象とかではなさそうだ。これならいきなり暴力にさらされることも無いだろうし、安心といえば安心か。


「それでは、私は仕事に入りますが。お二方はどうしますか?」


 そういって再びこちらを気にかけてくれるロイド。


「お恥ずかしい限りなのですが、我々はすぐにどうこうできるわけではなくて……ご迷惑なのは承知なのですが、旅をご一緒できれば……」


 俺が答える前に茜が答える。茜が言うように俺達は地理も分からないし、そもそも無一文だ。旅すら出来るか怪しい。便乗してこの胸糞の悪い村から出られれば万々歳だ。


「そうですねぇ……ではこうしましょう。私はこれから広場で店を開きますので、お二方には私の代わりに商いをやってもらおうかと思います。金銭の受け取りは私がやりますので、お二人は商品の売り込みと受け渡しをお願いします。出来そうであれば、道行く先でもお仕事をお願いします。やれますか?」


 やれるか、ねぇ。その言葉を聞いて俺は茜を見やる。その顔はやる気満々そうで少し安心した。


「……では、手伝いをさせていただきたい。」


「お願いします。」


 そして、その話を受けることにした俺達は、頭を下げロイドに頼らせてもらうことにした。


「こちらこそよろしくお願いします。お二人のがんばりで売り上げが増やせたら、次の街までご一緒しますよ。」


 結構ハードルが高いかもしれないが、出来ることが他にない。俺達はロイドと一緒に広場へと向かった。

貨幣価値と物価でちょっと難航しています。

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