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第18話 いきなり遭遇。第一日本人。

少し短めです。

「折りたたみのリバーシ盤にダイヤモンドゲームねぇ……」


 新たに育てる種の植えられたトレイに水を撒く俺の後ろで、茜は呟いた。あのリバーシ大会の後、俺は家に戻って茜に頼まれた水撒きをやっている。

 以前試した水魔法は掌に結露みたいな水滴程度だったが、シャワーとか如雨露とか、或いは霧吹きのイメージを合わせたところ、そのイメージどおりの水流が再現できた。……ホント、何なんだよ、魔法って……


「……まさか将棋とかチェスまであったりしないよね?」


「似たようなゲームなら案外あるかもしれないけどな。」


 リバーシ自体はルールもシンプルだし、その駒というか石も別段難しいものではない。似たようなものがこの世界でも偶発的に発生したとも思えなくも無い。

 ちなみに、しばしばオセロと混同されるリバーシだけど、リバーシは升目の数が変えられるというルールがある。この村にあった盤は升目の数から言って、どちらかといえばオセロなのだが、村人は皆リバーシと呼んでいた。

 もちろん、此処は地球ではないわけだし、この世界で生まれたあのゲームの名前が()()「リバーシ」ということでいいのだろう。だが……


「でもさ、ダイヤモンドゲームみたいなマイナーなゲームが被ったりする?」


 そうなのだ。ボードゲームというものは地球にもさまざまな種類がある。その幾つかが似通っていたり被っていたりする可能性も無くは無いだろう。問題は、なぜそれがダイヤモンドゲームなのかということだ。

 ダイヤモンドゲームのことを茜に聞いてみたところ、親戚で集まったときに遊んだことがあるため、茜はルールを知っていた。彼女の親戚は年齢層が広いことと、人数が多いことで、イベントごとで集まったときには共通で遊べるゲームが大活躍だったらしい。そんな茜によると、ダイヤモンドゲームの遊び方自体はそれほど複雑ではないが、それ故於くが深いとも言っていた。

 そして、その最大の特徴は、プレイヤーが三人であるということだろう。同じルールのゲームを二人で行なうものもあるが、そちらは「チェッカー」という別の名前になる。さらにちなむと、ダイヤモンドゲームはダイヤモンドチェッカー、チャイニーズチェッカーとも呼ばれているのだとか。ゲームにもよるが、世代毎に呼称が異なるのはよくあることらしい。

 話は逸れたが、見た目のインパクトやプレイ人数を考えると、些か癖が強いゲームという印象を受ける。

  

「いったい、コレを広めたのは誰なんだろうねぇ……」


「……むしろ、新しいゲームを広めたら一財産稼げるかもしれないな。」

 

 チェスや将棋は似たようなものがあるかもしれないし、囲碁も悪くは無いだろう。日本ではドマイナーだが、フォックス&ギースとかもどうだろう? 高校時代に一部では流行っていたのでコレもルールはわかる。……あのクラスメイトはなんでこんなゲームを流行らそうとしたのかは謎だが……


「……しかし、トレイ多くないか?」


 ボードゲームの話は兎も角、俺は目の前にある播種トレイに目をやり、その枚数に辟易する。


「まだまだ増えるよ~? ほらほら、遊んだ後にはしっかり働かないと。」


 聞けばこのトレイはまだ第一陣、まだまだ増やすことになるし、畑に植えた後はそこでの水撒きもしなければならないのだと。……ほんとにこの先、俺の仕事量は増えそうだ……

 今後の農業計画のことを考えることで、村のボードゲームの謎は頭の片隅へと追いやられるが、その謎を解く鍵の片鱗は翌日にとある人物の来訪によって齎されることになった。



◇◆◇



「いやいや、遠いところをありがとう御座います。」


「あ、いや。気にするまでもありません。(それがし)も手が空いていたところであったし、これもまた冒険者の務め。そこまで畏まる必要など御座らん、どうか気にしないでいただきたい。」


「いやいやしかし……」


 翌日、俺は新たなトレイの材料を調達しようと、今日も今日とて村の中を歩いていく。資材が増えるだろうということで、木工用の道具も再び借りようと思って村長宅を訪れたのだが、そこで俺は奇妙な出で立ちの人物を目撃した。

 ガタイの大きな男が二人、一人はこの村の村長のブルーノだが、もう一人の出で立ちが奇妙すぎて思わず足が止まる。尖った耳と色素の薄い肌と髪、そして瞳と、茜風に言えばファンタジー色溢れる種族なんだろうが戸惑いが隠せない。

 まず、ブルーノと相対している初老の男のその髪型。色素の薄い白髪交じりの麦色の髪をオールバックにまとめ、後頭部で束ねて、さらに折り返して前側に持ってくるという、日本の日常生活で見かけることはほぼ無い髪型なのだ。服装はこの世界では珍しい袷になっている黒の上着に、裾に向って広がる下穿き。ゆったりとした袖には何かの紋章が刺繍されているという出で立ち。極めつけは、反りの入った二振りの刀剣を腰に帯びているところ。

 色々と既視感の溢れる姿のエルフらしき男に違和感が止まらない。


 侍かよ!? しかもなんでエルフ耳!?


 そう、その男は黒い紋付袴の和装姿にどう見ても日本刀にしか見えない刀剣を大小二本、左の腰に帯びている、どう見ても江戸時代辺りの武家スタイルなのだ。御丁寧に足元も足袋に草鞋を合わせていて隙が無い

  

「おやシューヤさん。どうも、こんにちは。今日はどうしました?」


「あ、ども……こんにちわ。」


 そんないろんな意味で現実感の無い男の姿に呆然としていると、ブルーノも此方に気づいて挨拶をしてきた。だが、俺はこのお武家様が気になって仕方が無い。それに気づいてか気づかないでか、ブルーノはその男の紹介もしてくれる。


「此方の方は以前お話をしていた、町からの冒険者様です。いやぁ、ようやく来ていただいた冒険者様が、まさか黒夜叉と呼ばれたショーザ様とは思わず、このブルーノ、思わず感激しておりまして……シューヤさんもその様子では、子供の頃にショーザ様の活躍の数々にあこがれた口ですかな? 私もショーザ様の冒険譚に幼い頃は心躍らせていたものでして……」


 興奮冷めやらぬ様子でこの侍エルフが何者なのかを教えてくれるブルーノ。どうやら、いろんな伝説を打ち立てて来た偉人らしい。

 曰く、()()()一つでドラゴンを討伐したことがある、曰く、敗戦ギリギリの陣営で孤児を率いて戦況をひっくり返したことがある、曰く、戦場で振るわれる魔剣の如き(つるぎ)で敵兵を次から次へと切り捨てていった、曰く、戦いが終わった後は道中で共に過ごした孤児たちに剣を教え、現在はその一人が道場を開いている……などなど。中には血なまぐさいエピソードも盛りだくさんで若干引く。

 だが、俺はその伝説とやらを知る由は無く。むしろ立ち止まっていたのはそれ以外の部分に驚いていただけなんだが……


「特に、孤児たちで砦を作って大挙する兵達と直接相対することなく追い払ったり、敵国の兵士相手に死者を出すことなく戦線を維持させる話がお気に入りでした。何せ、この話を聞いた当時私も子供でしたので、自分でも活躍出来ることがあるのかもとワクワクしておりました。」


 と、こんな調子で興奮冷めやらぬ様子で盛り上がっている。


「ははは、それももう大昔のことでござるが故、少々むず痒くもありますなぁ。」


 そんなブルーノの様子に満更でもないように、照れ笑いをする侍エルフ。


「ただいまブルーノ殿より紹介に預かった。(それがし)は冒険者を営むショーザというものだ。」


 話の流れか、自己紹介をする侍エルフ改めショーザ。……なんか、しゃべり方までそれっぽい。なんでこんな異世界ファンタジー世界に侍がいるんだよ……しかもエルフっぽい姿の……

 とりあえず、向こうが自己紹介をしたので此方がしないのも無礼だろうし、此方も名乗っておく。


「あ、御丁寧にどうも。最近この村に夫婦で移り住んだ三郷秋也といいます。」


 そして、俺の名前を口にしたときに、その侍エルフの表情が一瞬代わった気がした。


「……其方(そのほう)、もしやミサトが姓でシューヤが名なのではないか?」


「あ、はいそうです。この辺りでは珍しいようですが……」


 しまった。いつものクセで普通に名乗ってしまった。この世界ではファミリーネームが名前の後っていう様式だったから、変に思われたか? 

 と思っていたら、ショーザの口から更にとんでもない言葉が飛び出してきた。


「……そうか。ならば改めて名乗らせてもらおう。手前(てまえ)は元江戸市中見回り同心、片桐(かたぎり)庄座衛門(しょうざえもん)と申す。その方も同郷の者とお見受けした上で名乗らせてもらったのだが、相違は無いか?」


 まさかのガチ侍でした。というか普通にいたよ、日本人。

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