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第10話 不穏な気配? 開拓村と盗賊と

 農家の朝は早い。日の昇る前に起きて仕事に出られるように身支度を整え、食事を終えておかなければならない。そして、朝日が昇るのと同時に作業開始となるのである。

 異世界で得た新居で一晩を明かした俺達は、まだ夜も空け切らないうちから目を覚ますことになった。茜のスマホに入っていた着信音で。一緒に住むようになってから何度も聞かされた、茜が昔好きだったというゲームのBGMだ。どうやら、それもこの世界にきても変わらないものらしい。ちなみに、充電はソーラー式バッテリーチャージャーがあるので何とかできるらしい。最先端の端末が目覚ましのみ使い道しかないってのなんともは贅沢な話だと思う。

 枕元においておいた自分の腕時計を見ればまだ朝の四時。これもソーラー式なのでそう簡単には止まらない。時間的には少し早い気もするんだが、とりあえず俺は体を起こす。室内は少し肌寒いので、昨日村で買ったこの世界の服を着ると、俺はダイニングへと向う。ん? 目覚ましをセットした当人はどうしたかって? あと2、3回別のBGMが鳴らないと起きないだろうな。それもいつものことだ。

 薄暗い部屋の中でランプに火を燈し、竈に新たな薪を入れる。竈はまだ僅かに日が燻っていたが、再び燃え上がるには時間が掛かりそうなので、覚えた魔法でさっさと火力を上げる事にした。

 いつもはライター程度の火だが、今回のイメージはトーチバーナーだ。プロパンとブタン配合のガス燃焼で一気に薪が燃え上がる。どういう原理かは分からんが、ホントに便利だ。アレかね? ガスの代わりに魔力が燃えてるとかそういうことなのか? 温度やイメージする燃料の違いで魔力の消費も変わるんかね? いつか試してみるか。しかし魔法とはねぇ。たった2日ほどですっかり馴染んだものだ。

 火の入った竈の熱で部屋全体もほんのりと温かくなってきた。なるほど。竈は暖房の役割もあるのか。煙が出るため、室内が少し煙くなるが、そのお陰で室内は徐々に暖められてきた。

 竈の上には昨日の夕食時に作ったスープの入った鍋が置いてある。それを火に掛けながらゆっくりと茜が起きて来るのを待つことにした。 


 やがて茜のスマホから、最初に鳴ったゆったりとしたBGMと異なる、激しい曲調のBGMが流れ始めた。たしか、戦闘曲とか言ってたか? 最初はその賑やかさに抵抗していた茜だったが、ついに諦めてBGMを止め身体を起す。


「あ~、おはよう~……」


 朝が弱いのも変わらない。世界が変わっても茜は茜だ。たとえ姿が違っていたとしても、変わることの無い朝のひとコマ。そんな光景に思わず頬が緩む。


「ん~、なんかえっちな顔してる……?」


 そんな俺の表情を見てそんな事を口にする茜。ベッドの上で一糸纏わぬ裸体に薄いシーツを巻いただけの姿って言うのは中々素晴らしいとは思うけど、今はそれを見てにやけたわけじゃないから。


「おはよう、茜。えっちな顔だって? それはそんな格好をしている茜のせいだよ。」


「え? あっ!」


 悪戯っぽくそう返すと茜も自身がどんな格好をしていたかを思い出したらしく、顔を真っ赤にする。


「とりあえず早く着替えなさい。食事の支度はしておくから。」


 今日は朝から仕事すると張り切っていた本人が寝坊というのは締まらない気もするが、その原因は間違いなく俺なのでそこは黙っておくことにする。

 そうこうするうちに、茜も着替えを終えてテーブルに着く。今日の服装は日本から着てきた勝負服ではなく、この村で仕入れたチュニック風の服に巻きスカートという出で立ちだ。家の中には床板が無い部分もあるので、室内でも靴は履いたままである。なめした皮で作られた大き目のブーツのような靴。これも村で仕入れたものだ。

 俺は昨日のスープの残りをお椀に注いでテーブルへと並べる。水気が減ったせいか、ぱっと見で具沢山に見えるが、これから働きに出ることを考えたら丁度いいだろう。パンも温め終わったのでそれを持って俺もテーブルに着く。


「「いただきます。」」


 お互い手を合わせて食事を始める。


「味はちょっと残念だけど、しっかり食べておかないとね。」


 やっぱりまともな調味料が無きゃそうなりますか。まぁ、仕方ないよな。21世紀の現代日本から、魔法こそあるものの中世の農村のような世界じゃ。せめて江戸時代から中世だったら何とかなったかもしれんが、それは言っても仕方ないか……そもそも、江戸時代の生活様式すらよく知らんし。


「と、言うわけで。わたしは今日から畑を耕そうと思います。」


 昨日のうちに分けて貰った硬いパンを悪戦苦闘しながら齧っていると、唐突に茜が宣言する。


「それで、秋也さんも畑を耕すのを手伝ってほしいの。」


「もちろん手伝うさ。頼まれるまでも無い。」


 畑の面積はそれなりに広い。それを一人で耕させるというのはあんまり外聞のいいことではないし、何より、何もかも茜にまかせっきりじゃな。まずは出来ることを、だ。


「良かった。ありがとう! 今日は他にもやっておきたいことがあるから、がんばって行こうね!」


「ああ。一緒にがんばろう。」


 そうして俺達は食事を済ませる。その後は幾つかの家事を済ませ、畑に出ることになる。まず、水場から汲んでおいた水で食器を洗い、次いで洗濯を済ませる。着たままだった日本の服や下着と、早速汚してしまったシーツも洗って家の裏手に干しておく。どうもこのあたりは比較的温暖な気候のようで、朝晩は多少冷えるが日中はそれなりのようなので、夜までには乾くだろう。洗剤とかは無いが、大まかな汚れは落ちたので、多分これでいいはずだ。

 兎も角、俺達は早速畑仕事を始めるのだった。

 


◇◆◇



 来ました! 我が家の畑! 異世界で始める農仕事の舞台! あぁ、高校時代を思い出す! あの無駄に広い実習地で鍬を振るったあの時を!


「では、早速耕して行こうと思います! まずは理想的なフォームから!」


 秋也さんは今まで鍬を振るったことなんて無いはずだから、持ち手と振るい方、そして振るった後に鍬に載った土をよけて簡単に畝を作るところまでを流れでやってみせる。


「へぇ、そうやってやるものなのか。良く出来ているんだな~。」


 そういって秋也さんも鍬を振るい始める。最初はぎこちなかったけど、すぐに慣れたのか綺麗なフォームで鍬を振るうようになる。飲み込みが早いのかな? さすが秋也さん、頼もしいなぁ。


「こんなんでいいのか? 何か心がけることとかあったりはしないのか?」


 耕しながら秋也さんが問いかけてくる。


「う~ん、そうだね。雑草とかは気にしないでいいから、まずは深く掘り起こしていくカンジで。上の土としたの土を入れ替えるようにして~」


「わかった。やってみる。」


 土の表層と下層を入れ替えるのは連作障害対策の初歩技術で、通称が天地返し。作物は土の表面の栄養を消費していくけど、生きている土地なら深いところでは新たに別の栄養素が生まれていることがある。それを入れ替えて表に出すことで作物の育成を促す技術の一つなんだよね。

 あと、土の中に空気を混ぜることで地中の益虫を活性化させることにもなるから、これがこの土地を生き返らせる第一歩になる筈。ただ、これだけじゃまだ足りない。収量を増やす為の手段はいろいろとあるから、じっくりとやっていこう。

 この村の近くにちょっとした森があった。そこに行けば多分()()が有るはずだから、後で行って見よう。あえて機械を使わない実習をしてきた経験が役に立つね。うふふ、腕が鳴るなぁ。


 

◇◆◇



 茜から手ほどきを受けながら、畑を耕すこと数時間……分かってはいたが、とんでもない労力だ……いろいろスポーツをやってきたこともあって、体力には自信があったんだがなぁ……

 一方の茜は慣れもあってか、すさまじい速度でどんどん耕していく。そういえば、獣人族は魔力を扱うのが苦手な分、身体に巡っているらしく、身体能力がすさまじくなるんだったっけか。見た目にはケモミミと尻尾と毛皮くらいの変化なんだがなぁ。体格はそのままなのに、俺よりも深く地面に鍬を突き立てて、硬めの地面をなんでも無いようにどんどん掘り返していくんだからすげぇ。

 そんなこんなで、日が昇りきる頃には一区画分が耕し終わってしまう。俺が出来たのはその5分の1程度なんで、殆ど茜の仕事だな。


 そうそう、朝方畑を耕している時にロイドが訪ねてきたな。都市部に向って一部商品の売却と残りの商品を引き取る為の現金を持ってくるために出立するらしかった。俺も茜もロイドのお陰で何とか生活の目処が立ったし、感謝しても仕切れないな。それらをロイドにも伝え、いつかはこの借りも返して行きたいと申し出たんだが、「その分の利益が私にもあるんですから、そこまで気を使わなくてもいいんですよ」と言われてしまった。

 ふと気になって、身元の分からん俺達にどうしてそこまでしてくれるのかも聞いてみたが、「逆に、困っている人間に付け込んで騙す様な商人が大成すると思いますか? それは商人ではなく詐欺師です。私は商人である以上、取引相手を騙すようなことはしたくありません。それに、そんな商人はいずれ誰にも相手をされなくなりますからね。」ということらしい。それが彼のポリシーなのだろう。損得だけでなく善意もそこにあったと信じて、俺達はロイドを見送っていった。

 その際に茜はロイドに何かを頼んでいた。後で聞いたら農業に必要なものだと言っていたので、その辺は任せることにする。農作業関連は俺にはまるでわからんので、その辺は茜に一任するしかないのだ。


 俺は顔を上げて日の高くなった空を仰ぐ。太陽の動きも元居た日本と変わりが無いみたいだし、方角を調べることが出来たら、日時計なんかを作ってみるのもいいかもしれないな。庭か畑の片隅にでも立てておけば、時間の目安くらいにはなるだろう。  


「そろそろお昼っぽいから、ちょっと休も~」


 どうでもいいことを思案している俺に畑の反対側にいる茜から声がかかる。そこで作業を切り上げて俺は敷地の一角へと移動し、そこで腰を下ろした。


「このペースでいければ耕すだけなら一週間も掛からないかもね。」


 汗をぬぐいながら駆け寄ってくる茜。いやいや、貴女の体力と技術が凄いんですって。本来ならトラクターでやるような範囲って言ってませんでしたっけ? 疲労こそしているようだが、まだまだ体力は有り余っているようだ。彼女風に言うなら「体力チート」とでも表現すべきか? 


「とりあえず、畑での作業は一区切りついたから、午後は違うことをしようかなって思っているの。」


 固いパンに硬い干し肉と、井戸から汲んで来た水を口にしながら茜が言う。……どうでもいいが、この世界の食事は無駄に顎が疲れるな……何とかならんのか、これは。

 それについては保存食ばかりだから仕方ないと窘められてしまったが。農業始めたばかりで収穫物が殆ど無い状態じゃ仕方の無いことらしい。

 

「まぁ、その収穫物を増やす為に必要なものを確保したいから、ちょっと出掛けたいんだよね~」


「ん? 買い物なら昨日のうちに一通り済ませただろう? 他に何かあったか?」


「あ、違うの。今日はお買い物じゃなくて、採集になるのかな? そのためにちょっと森に行きたいんだよね。」


 この開拓村には、少し離れたところに森がある。そこで食用となる木の実や薬草を集めたり、キノコを採ったり、時に獣を捕ったり、そして勿論材木の確保など、この村にとっていろんな意味で恵みの森になっているらしい。それにしても採集ねぇ。やっぱり農業関連なんだろうか?


「集めてくるものは大体分かるから、わたしももちろん一緒に行くよ~」


「まぁ、必要ならばそれを拒否する理由もないし、午後はそっちに取り掛かってみるか。」


「やった! ありがとう♪」


 こうして、この日の後の予定も決まったところで、俺は残っていた保存食の昼食を平らげると、立ち上がった。



◇◆◇



 この村の周辺は自然が溢れていて、なかなか牧歌的な村ではあるのだが、裏を返せばそれだけ人の手の入っていない環境そのままともいえる。当然、人里近くであっても野生動物などの危険はどうしても出てくることになる。それは、村近郊の例の森は勿論、下手をすれば周辺の草原ですらありえるかもしれないわけで。

 危険を回避する為に、疑問に思ったことはとりあえず聞いておいたほうがいいだろう。そう思って俺達は村長であるブルーノの元を訪ねたのだった。


「おや、シューヤさん、アカネさん。今日はどうしましたかな?」


 その村長のお宅へと向っている道中で、俺達はブルーノに会うことができた。若干難しい顔をしていたブルーノだが、俺達の姿に気づくといつものさわやかな笑顔で声を掛けてくれた。そんなブルーノの前には、フード付のマントを羽織った男達が四人立っており、その男達はブルーノが俺達に声を掛けると、それに伴ってこちらに視線を投げかけてきた。その目つきはなんとも剣呑なもので、余り友好的には見えないのだが……


「その前に少しお待ちいただけるとありがたい、ホレス村から使者が訪ねて来ているものでね。」


 ホレス村……あのムカつくジジイが村長をやってる村か。そんな村から使者って……


「わざわざ訪れてくるってことは、何か問題でもあったんですか?」


 俺が少し気になったことに、茜も疑問を抱いたようだ。あのいけ好かないジジイのいたホレス村は、位置関係で言えばこのクレト村の隣村ともいえる村である。移動距離は徒歩で大体1日くらいで、近いといえば近いし、遠いといえば遠い。なにか交流ごと等であればありえないことではないが、その割りには使者とか言う連中の気配が殺気立ちすぎているのが気になる。先日俺達がこの村に来た時は早朝に移動を始めて、村に着いたのは日暮れ前。この連中が今着いたとしたなら、昨日の夜半に動き始めたことになる。そこまで考えて思いつくのは、何が何でも伝えなければならない非常事態が発生したということになる。


「今は村長と大事な話しをしているんだ。他所者は他へ行っていろ。」


 茜の質問はブルーノが答える前に使者の連中が切って捨てた。その言い分は腹が立つが、連中の後ろにいるブルーノが申し訳なさそうな顔をしているので、黙っておこう。と思ったのだが、口を開いた使者に続いてもう一人の男が続けた言葉に、俺は我慢するのをやめた。


「汚らわしい獣人風情が人間様に話しかけるなど、自分の分を弁えるんだな。」


 よし。そのケンカ俺が買った。しかしあの村の連中はいけ好かない奴ばっかりだな。それが方針なのか? 村長が村長ならその下にいる連中もクソだな。俺は使者連中に一言言ってやろうと睨みつけながら茜の一歩出る。しかし


「そのような物言いは止めて頂けるかな。そこのお二人はこの村の村人となったのだ。私の村の村人に対する暴言は許しませんぞ。」


 俺が怒鳴る前にブルーノが使者連中に言い放った。……俺はまた不発かよ……


「しかし、コイツ等は我々の村長に無礼を働いたのですぞ! しかもその身元も分からない不審者……」


「おや? 道に迷って困っていたそこのお二人を最初に拒んだのはそちらの村長さんではありませんでしたかな? その時点でお二人がどのような行動をとろうとも関係な筈だ。ついでに言うなら、私もそちらの村長も、辺境で開拓している開拓団の頭でしかないでしょう。それに対して外部の人間が無礼も非礼も無いと思うのだがね。」


「だが此奴らは……」


 迫力のあるブルーノが更に詰め寄り、使者一同はたじろいで二の句が告げすにいる。それでも何とか言い募ろうと言葉を捜しているようだが。


「君らは今、村長は敬うべきといったな? だったら、私が命じる。この話は此処で終わりだ。」


「わ、我々の長はホレス村の村長であって、あ、貴方ではない……」


「ならば、君達やそちらの村長が彼らにどうこう言う謂れも無いはずではないかな?」


 そこまで言われて使者連中はようやく黙った。うん。もう使者の連中の言ってる事は既に破綻しているし、これ以上は何を言っても墓穴を掘るだけだろう。ブルーノもまだ若い部類の男だが、村一つを治めるだけのことはあるな。しかし、あの村の村長はどれだけ俺たちに粘着するんだよ。追い出そうとしたり引き止めたり、そして今度は謝罪と賠償か。ワケが分からんな。

 

「貴様、このままで済むと思うなよ……」


 すごすごと退場する使者達は、去り際に俺の横でボソッと呟くと、こちらを見ることなく去っていった。……ホント、何なんだよ……。


「う~む、あちらの村長殿は何故あそこまで君達に執着するのか……何か心当たりとか無いかね?」


 連中が去った後にブルーノからも聞かれる。たった一度会っただけで何でここまで突っかかってくるのかは、思い当たることは全く無い。しいて言うなら、俺の嫁が獣人だということくらいだが。


「それだけでそこまで絡もうとするのは、理解に苦しむが……」


 それなりの距離が離れていることだし、俺としてももう放って置いてくれないかなぁ……なんでわざわざ不快になると分かっている相手に絡むのか……


「って、あいつらそんな事を言う為にわざわざこの村に?」


「おっと、本題を忘れるところであった。何でもあちらのホレス村周辺に盗賊が出現したという話で、彼らはそれをこちらに報せに来たのだよ。まぁ、それ以外にも君達の事をあれこれ聞いては、悪態をついていたけども。」


 ブルーノが聞いた話では、俺たちが村を出たあとに村に盗賊が押しかけてきた。幸いにして追い払うことが出来たが、このままではそちらの村にも被害が及ぶかもしれない、警戒するように、というようなことを言いに来たらしい。ついでに、タイミング的に俺たちが怪しい、盗賊を手引きした恐れがある、何てことも吹き込みにきたようだが。とそんな大事な話題を人の悪口の合間に伝えに来るとか、どれだけ俺たち嫌われてんだよ。


「まぁ、私は君達のことを疑うつもりは無いので安心してほしい。」


 幸いというか、ブルーノは連中の与太話を真に受けてはいないようで安心だが。しかし、俺たちがこの世界に来てから、あの村で一晩、一日かけてクレト村に来た後一晩と、今日が異世界三日目になる。連中の村が襲われたのはいつだ? 俺は襲撃を見て無い。つまり、早朝から夕暮れ時のどこかで襲われた計算になるわけだ。それから夜を徹して報せに来つつ、俺たちの悪口を吹き込みにきた、と。


「ねぇねぇ、わたしの計算が間違っているのかな? あの人たちがこの村に来るタイミングがちょっとおかしいような……」


 不安そうに小声で聞いてくる茜。俺も同じことを思ったので、小さくうなずいて肯定の意を示しておく。


「念のため今日は大人しくしておいたほうが良いかもしれんな。出掛けるのはもう少し落ち着いてからにしよう。」


 俺たちは森への遠征を延期することに決める。ブルーノは村民に受け取った報せを伝える為にあちこち動くらしいので、俺たちもその手伝いをすることにした。午後の予定が空いてしまったこともあるが、半分は顔見せついでだ。本当に盗賊だった場合、その対策を知っておいたほうが良いし、あらぬ疑いをかけられても嫌だからな。

 念のため我が家へ一度赴いて、戸締りや貴重品箱を確認してから、俺たちは改めてブルーノに付いて回ることになった。戸締りといっても、鍵も何も無いので、室内に異常が無いかの確認くらいだが。もしも村で見張りを立てることになったら、茜を一人家に残すことになるので不安ではあるが、こればっかりは仕方ないだろう。一応武器になりそうなものは用意しておあるから、それを信じるしかないか。

 嫌な予感を感じさせながら、俺は村を走り回った。


作中で秋都が「中世のような」というようなことを言っていますが、三郷家の食生活は西部開拓時代のアメリカのような状況で、収穫が出来るようになるまでは保存食が主食になっているようです。


2016/04/08 使者の人数に関する表記が無かったので追記しました。

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