第1話 いきなりリタイヤ!? 異世界で始まる農業スローライフ
雲ひとつ無い晴天の中。今日も天気に感謝しながら、俺は鍬を振るう。ふと顔を上げ、畑の反対側を見やれば、ケモミミをはやした女が、千切れんばかりに尻尾を振りながら嬉々として耕している。その速度は俺の倍以上という脅威のスピードだ。
「秋也さ~ん、こっちはもうちょっとやったひと段落だから、そしたらお茶にしよ~!」
反対側まで一気に耕した彼女、妻の茜は遠目からでも分かるほどうれしそうに尻尾を揺らしながら手を振っていた。
俺はわかったと返事の変わりに手を振り、再び鍬を手に取り畑を耕していく。
今日も変わらない日常。そしてあの日から変わってしまった、俺たち夫婦の日常だ。
それは何の変哲も無い日だった。仕事に追われる日々の合間に訪れる、休日という心のオアシス。天気も良かったので、その日は久しぶりに一緒に出かけることにしたんだ。
俺、三郷秋也とその妻茜は、半年ほど前に結婚した、所謂新婚夫婦だ。自分で言うのもなんだが、夫婦仲は正に最高潮だと思っている。
思えば結婚する前から周囲の友人達からはバカップルと囃し立てられていたが、いいじゃないか。バカップルサイコーだぞ!
話がそれた。その日、そんな訳でデートがてらに買い物に出てたんだ。自宅から離れた県庁所在地にあるモールまで車でドライブし、適当に食事したり、新しい服を買ったりしながら時間をつぶした。帰りもドライブしながら適当に彼方此方流して、最後は茜の手料理が食べたくなったんで、近所のスーパーで食材やらを買い込んで帰宅の路に着いたんだ。
で、買い物が終わって車に乗ろうって時に、突然俺の視界が暗転した。次に眼を覚ましたときそこは見知らぬ草原で、俺は何故かケモミミを生やした茜に介抱されていた。




