プロローグその3
遠くで誰かが叫んでいるような感覚……。
ふわふわして、それでいて柔らかく。もちもちとハリがあっていい匂いがして。
「はっ!」
「よかった。気が付いたんだね……」
「ここは……あててて!」
「まだ動いちゃダメだよ!相当な高さから落ちたんだ、安静にしてなきゃ……」
「あ、ああ……さんきゅ」
痛む頭がだんだんと正気を取り戻していくにつれて、俺が今置かれてる状況を理解する。
どこかのソファに寝かされ、さっき見た中性的な女の子に膝枕されているらしい。うん、やっぱり理解出来てねぇわこれ。どんな状況だよ!!
「キミ、なんであんな事してたの?もしかして覗き?それとも下着泥棒とか……」
「いや、ちょっと人に追われてて山に入ったら迷っちまってな。それで色々あってこんな事に」
「もっとましな嘘つきなよ……」
「嘘じゃ……や、実際アンタに迷惑かけちまったしな。すまん」
「別にいいよ。それより、名前は?それと家の連絡先」
「は?名前は分かるけどなんで家の連絡先なんてものがいるんだよ?」
「当たり前だろ?君はどう見たって未成年で今は夜11時を回っている。しかも怪我をしていてここを動かせないときてるんだから親御さんに連絡しないわけに行かないじゃないか」
なんか妙にしっかりした奴である。けど、少し困った……。
この女の子が言うことはもっともで出来ればその通りにしてあげたいが、それは無理なお願いだった。
「あー、あんまこういう事言いたくはねぇんだが」
「なんだい?」
「俺には帰る家も待ってる親もいねぇよ」
「また嘘かい?そんな子供じみた……え?」
俺は信用してくれと言わんばかりに女の子の手を握り目を見つめる。こればっかりは信じてもらわんと厄介な事になりかねない。
しばらく見詰め合っていたかと思うと、みるみると女の子の顔が赤くなっていく。
あん?なんだこの反応は?
「わ、わかったよ!今はそういう事にしておくから手を離してくれ!」
「嫌だ!信じてくれるまで絶対離さねぇからな!」
「離して!」
「離さねぇ!」
「なに騒いでんだぁ?優、風呂空いたぞー……ってえ?」
「「え?」」
俺と女の子が言い争っていると、突然バスタオルを腰に巻いた赤毛の美人が姿を現した。というか、タオルの巻き方が男のそれなので上半身は丸見えなわけでして……。
素晴ら……。
「優に変なことしてんじゃねぇよファッキンホモ野郎!!!!」
「ぐはぁっ!?」
その見事な胸に見とれていると、みぞおちに飛び蹴りを決められた。
俺はなんとか立ち上がると声を張り上げる。
「俺はホモじゃねぇ!」
「そこなの!?」
「テメェ、私の優にその……なんかエロいことしてたんだろ!ふざけんな!」
「ちょっと手を握っただけだろ!!」
「手を……!?私も握ったことないのに!え……や、柔らかかった?」
「ああ、かなり。あといい匂いもした」
「マジかー!!!」
「何の話をしてるの!?」
「と、とりあえず説明させてくれ!」
「手の話か!?」
「いや手から離れろよ!?」
こうして赤毛に俺の上着を貸してから女の子が説明を始めた。