淡い夢
手紙を元の場所に戻し、置かれていた鍵を手に取る。
手に持った鍵を握りしめながら、今も閉じられている扉の前へ行く。
鍵穴に鍵を差し込もうとした瞬間に、手が止まった。
この扉を開けても良いのだろうか。
もしこの先に手紙に書かれていた通りに一人の少女が居たとして、俺一人で守ることが出来るのだろうか。
きっと色々な事を忘れてしまっているというのに。
けれど、どうしてだろうか。
ふと体全体が温かく包まれたような気がした。
すると動かせなくなっていた手が、自然と扉の鍵を開いたのだ。
傍から見れば不自然な動きだっただろう。
けれど自分自身の感覚では、とても自然に、手が動いた。
――開いた扉の先には、小さな、とても小さな部屋があった。
そこには、手紙で書かれていた通り、一人の少女が、ベッドで横たわっていた。
この場所に、どれくらいの時間居たのだろうか。
体はとても細くなってしまっていて、きっとこのままでは一人で歩く事も難しいだろう。
俺の体は、まるで何かに突き動かされるかのように、少女の元へと歩み寄っていく。
やはり、どこかで会ったことがあるのだろうか、少女の顔に懐かしさを感じた。
静かに眠る少女の頬に手を伸ばし、優しく触れた。
触れた瞬間に、ピクリと体が反応して、ゆっくりと少女は目を覚ます。
「眠っていて無防備な女の子の頬に触れるのは、どうかと思うよ?」
目を覚ましてからの第一声が、この言葉だった。
少女の言葉に、慌てて手を離す。
「わ、悪い」
そんな様子を見て少女はくすりと笑いながら、体を起こす。
やせ細っているように見える割に、案外普通に起き上がれるようだった。
「久しぶり。って言ったほうがいいのかな」
目の前の少女は俺と会った事があるような口ぶりで、そう言った。