希望を未来に
部屋の中を調べていると、奥にもう一つ扉があるのに気づいた。
その扉には鍵が掛かっていて、開けることは出来なかった。
しかし、奥にも部屋がありそうな事から察するに、地下にしてはそれなりに広さがある場所らしい。
外から見れば、ただの一軒家だというのに。
地下以外の家部分も、一般的な3LDKと言えるだろう。
何の為に、この地下室は作られたのだろうか。
床に散らばっている書類や書き殴られた紙類には、良く分からない数列や、言葉が並べられていて、理解出来そうもない。
隅にはパソコンも置かれていたが、これも壊されていた。
この部屋にはもう、自分が求めているような物は残されてはいないのではないか。
壊れたパソコンを見ながらそう思いはじめていたが、モニターの脇に、誰かが書き残した手紙と、1本の鍵が置かれているのに気づいた。
置かれた手紙を手に取ると、そこには自身の娘への謝罪と、希望を求めて残した思いが書かれていた。
『私達は、恐らく誰よりも早くこの世界に起きているであろう異変に気づいた。
そして今後、起こり得る災厄から、娘を守る為に、私達はあろうことか娘自身を実験体にした。
その結果、最愛の娘を私達は手放さなくてはならなくなってしまった。
もっと他に何か、方法があったかもしれない。
そう思うと、後悔ばかりが生まれてくる。
本当に、頼りない両親で、すまない。
狂っていたのは世界ではなく、私達だったのかもしれないな……。
ここからは、この誰宛でもない手紙を、読んでくれている貴方が善人だと信じて、私達は貴方にお願いをしたい。
この手紙を貴方が読んでいるということは、私達は恐らく、もうこの世界には存在していない可能性が高い。
私達では、もう娘を救う事が出来ない。
手紙と一緒に置かれている鍵は、この部屋の奥にある扉を開く為の物だ。
扉の先には恐らく、今後起こるであろう異変からも守る事の出来る特殊な加工を施した小さな部屋がある。
私達が、せめてもの罪滅ぼしと、僅かな希望を夢見て、作った部屋だ。
そこに、私達の娘が眠っている。
どうか、この手紙を読んでいる貴方に頼みたい。
私達の娘を、私達の代わりに、この世界の異変から守り、救い出して欲しい。
きっと、貴方がこの手紙を読んでいる間も、娘は一人で、孤独に眠り続けているだろう。
私達では娘をとうとう目覚めさせる事が出来なかった。
だから、僅かながらの希望をこの鍵と共に貴方に託します。
私達の娘を、どうか宜しくお願いします。』