遠い日
知らないはずの場所だった。
けれど何処か懐かしさを感じて、その場所に自然と足を踏み入れてしまった。
手を掛けると簡単に玄関の扉が開く。玄関の鍵はかかっていないようだ。
家の中は、埃を被ってはいたけれど、家具等は直前まで使われていたような印象を受けた。
埃を被っている、ということは長く使われていないのだろうけど、何故だろうか。
どこを見ても、生活感が溢れていた。
玄関には靴が何足か、すぐに履ける状態で置かれていた。
食器が洗われた後、水切りカゴに入れられたまま放置されていたりもした。
けれどこの場所には、人が住んでいる気配は無い。
それどころか、この町全体に人が居ないようにも感じる。
目が覚めた後からずっと、まるで別世界にいるようだ。
家の中を歩いていると、地下へと続く階段を見つけた。
驚きは無かった。この家は地下室がある。そう何処かで感じていた。
確信なんて無いけれど、きっと俺はこの場所を知っているんだと、そう思う。
もしかしたら、忘れているだけで、昔、来たことがあるのかもしれない。
今よりもずっと子供だった頃に確か、仲の良かった女の子が居た。
この懐かしさは、それを呼び起こしているのかもしれない。
それがこの家であるかは、分からないけれど。
途中で見つけた、女の子の部屋であっただろう部屋は、中を探るのを躊躇ってしまい、最後にすることにした。
どうしても男の自分がそういった部屋に入るのは抵抗があるし、本当は探るのもしないほうがいいのだけれど。
もし、地下室でも何の収穫がなければ、軽くだけでも、その部屋に目を通そうと思う。
傍から見れば、ただの不法侵入であるのだけれど、今は偶然辿り着いたこの場所で、現状の手がかりが欲しかった。
あのまま町を走り回っていても体力が削られていくだけだし、何よりも今はあの頭痛と幻聴が収まっているのだから。
そんなことを考えながら、地下の階段を降り、扉に手をかける。
この扉も鍵がかかっておらず、簡単に開いた。
相変わらず、埃はかぶっていたけれど。
「これは……」
中は、何かの研究所のような場所だった。
けれど、床にはガラスが散乱していて、書類――だろうか、紙が大量に落ちていた。
部屋の中心には大きな診察台のような物が置かれていて、何かを実験をする場所にも見えた。
一体、ここで何が行われていたのだろうか。
そして、ここにある情報は、未だ何も分からない俺が、現状を知る為の術になるのだろうか。




