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遠く、その手は届かない

――白く、どこまでも白い場所に立っていた。

 遠くで、誰かが呼んでいる。

 どこかで聞き覚えがあるような、そんな声。

 それは、大切なものであったはずだったのに、手を離してしまった。


 もう一度手を取りたいと思うけれど、手を伸ばしても、その手は何も掴むことはなかった。

 声は次第に遠ざかっていく。

 いくら追いかけても、追いつけない。

 一体、その声は誰のものなのだろうか。

 どうしてこんなにも必死になって、この声を追い求めているのだろうか。


 『だけど、これだけは、見失っちゃいけないような気がするんだ』


 この感情は、絶対に間違ってはいないと、体の奥で叫んでいる。

――追い続けなければ。

 止まってしまえば、すぐに見失ってしまうだろう。


 息を切らして、どこまでも。

 行き着く先はどこでもなくて。

 聞こえる声は段々と遠ざかっていく。


 やがては足が上がらなくなってしまって、膝をついてしまった。

 気づけば先程まで聞こえていた声はすでに聞こえなくなってしまっていた。

 どうしてここで歩みを止めてしまったのだろう。

 もう届くことはないと、知っていたはずなのに。


 大切なものを失う気持ちを、知っているのに。

 どこからか涙が湧き出てきて、その涙で、また何か大切なものが流れていってしまっているようだ。


――あぁ、こんなにも理不尽で、救われない世界で、また一人で、生き続ける。



……目が覚めると、学園の屋上で横たわっていた。

 誰もいない、この場所で。

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