願い
時間が経つにつれて、私の体はこの場所での姿を維持する事が難しくなっていった。
少しの間、この場所で触れることが出来ていた昴にも、もう触れることが出来ない。
本当は、目を覚ます瞬間まで、膝枕をしていてあげたかったけれど。
この場所は、横になって眠るには少し、固いから、体に負担がかからないように。
もう私は、昴に自らの姿を見せることは出来ないのかもしれない。
それでも私は、昴と触れ合うことが出来たことが、とても嬉しかった。
今でも思い出すだけで、心臓が高鳴った感覚がよみがえる。
私は、遠くで白く染まり始めているこの世界を眺める。
すぐ傍で眠っている昴が目を覚ますのを待ちながら。
あぁ、昴が目を覚ましたら、最初に何と声をかけようか。
第一印象というものは大切だ。間違えないようにしないといけない。
――こんなことを、ついこの間も同じように考えていた。
だからこれは、三度目の出会い。
一度目は、仙華を通して。
二度目は、どこからか湧き出てくる、罪悪感と共に、まるで初対面のように。
三度目は――。
私は、どんな気持ちでまた、出会えばいいのだろう。
あんなにも恋していたというのに。
やっと、両思いになれたというのに。
その記憶を失って、彼は目覚める。
私は笑って、迎えることが出来るのだろうか。
私の表情は、見えないだろうけれど、それでも、気持ちの問題なんだ。
この世界は私達にとって、とても絶望的な世界を見せていて、それでいてどこか優しさを持ち合わせている。
すぐにでも世界が終わりを迎えないのが、その証拠だ。
だから、今よりも少しだけ、私達にとってこの世界が優しくなるように。
難しいことや、哀しいことは考えたくは無い。
けれど、それは、何度も何度もやってくる。
それでも、なんとかこの場所に立っていられるように。
二人で、最後を迎えられるように。
――何よりも、傍らで未だ眠っている川口昴という男が、幸せな結末を迎えられるように。
私は、思い描いた願いを今も何処かで今も見ているだろう相手にただ、願った。
その願いが届くかは分からないけれど、この願いがいつか叶えばいいなと、私は思う。




