失ったモノ
私の行った事は愚かだったのかもしれない。
けれどそのお陰で僅かな時間だけだったけれど、恋をした。
昴と、恋人として一緒にいることが出来た。
けれど、そんな僅かな時間はすぐに過ぎて。
昴の時間は終わってしまって、もうそんな時間は戻っては来ない。
失ってしまった記憶は、感情さえも飲み込んで消してしまうだろう。
昴は私の事をもう一度好きになるって最後に約束をしてくれたけれど、それはとてもとても難しいことだろう。
次に昴が目覚めた時、その時はまた、初めての出会いだ。
私はその時、笑って彼を迎える事が出来るのだろうか。
――彼が選択を終えた事によって、私は与えられた役目を終えた。
役目を終えるということは、とても名誉なことらしいけれど、私には理解出来ない。
だってそこには、私が望んだ世界は無かったのだから。
いつだって孤独で、やっと手に入れたモノだって失ってしまった。
一体何処が誇らしいというのだろうか。
私には何も残ってはいないじゃないか。
――役目を終えた私には、願いを一つだけ、叶える権利がある。
それは役目を与えられた時に伝えられたらしいけれど、すっかり忘れてしまっていた。
意図的に忘れさせられていたのか、それともただ私が忘れっぽいだけなのか。
どちらにしても、私は役目を終えた事がきっかけでそのことを思い出したのだ。
この世界の神様はとても無口で、余程の事がなければその意志を感じ取る事さえ出来ない。
私自身、役目を与えられた時でさえ、その声を聞いてはいない。
なんというか、曖昧なのだ。
今ではその存在さえも完璧には信じられない。
それでも私は色々なことを犠牲にしてきて、一つの権利を得たのだ。
こんなものよりも、私は大切なモノを手に入れたはずだというのに。
どうして手放してしまったのだろう、どうして無理にでも留めなかったのだろう。
後悔ばかりが浮かんできてしまう。こんな私では、いけないのに。
膝の上で眠る彼の顔を眺めて、涙が出そうになった。
私は一体、何を願えばいいのだろう。
彼が私に恋してくれた、この世界に。




