ほんの少し残された時間
"好き"という言葉が、その感情が、自分の身に伝えられることを、期待してしまっていた。
いつの間にか、好きになっていた。
共に過ごした短い時間に、惹かれていった。
きっと、同じことを考えていると、思っていた。
――どこかで、自分の感情に違和感を持ち続けながら。
そして、それは現実の物となった。
『ねぇ、昴――私ね、貴方のことがずっと――』
それは、とても喜ばしいことのはずなのに。
これからのこと、そして、これまでの自分から不安と違和感が拭えない。
こんな状況じゃなければ、素直に受けいられる感情も、今はどう受け取ればいいのかが、分からない。
残り少ない自分が自分でいられる時間を使って、佐藤さんに何を伝えればいいのだろう。
今、抱いている感情は、紛れも無い自分の感情なはずだ。
例え記憶の一部が消え去ってしまっていても、今ここに居る自分は自分自身なのだから。
だから、俺は、今この瞬間の自分自身として――。
『ずっと――好きでした』
『あぁ――俺も、佐藤さんのことが、好きだ』
今この瞬間に抱いている、感情を、言葉にして。
この短い時間が終わってしまえば、消え去ってしまう感情だとしても、その気持ちに応えたかった。
それは、佐藤さんにとってひどく辛い未来が待っているかもしれないけれど。
「……ほんとに?」
信じられない、とでも言いたげにこちらを見る佐藤さんに向かって一歩、歩み寄る。
その姿を、佐藤さんは目を逸らすことなく、見つめている。
「本当だよ、まさかこんな場面で嘘をつくような男に見えるか?」
「少しだけ……」
「マジか……」
予想外の返答に、複雑な感情を抱きつつ、佐藤さんをじっと見つめる。
手持ち無沙汰な手を何処へ落ち着かせればいいのか、分からないまま。
「とにかく、本当に佐藤さんのことは好きだから、それは信じてくれよ」
「う、うん」
少し、涙ぐんでいたようで、佐藤さんは目を軽くこすっていた。
「でも、良かったのか? 俺、もうすぐここで起きたことも、忘れるかもしれないっていうのに」
「我慢が、出来なかったの。これが、私の知っている昴と話すことが出来る最後かもしれないって思ったら――例え、色々なことを昴が忘れたとしても、きっと私の気持ちは変わらないけれど」
「……そうか」
佐藤さんの言葉と、気持ちに、ただ返事を返すことしか、出来なかった。




