日は落ちて、夜の光
「あの時、二つの選択肢を聞かされた時は正直、消えてしまうのもいいかもしれないと、思ったんだ」
「……うん」
それは、この世界に残ることを選んだことで生じる、記憶の消去が理由の一つでもあった。
そして、その記憶が消える範囲は、佐藤さんと出会った時からの記憶。
この世界にはもう、佐藤さんと俺しか居ないというのに、その二人で過ごした僅かな記憶さえも無くなってしまったら、また同じように、佐藤さんと居られるのか、不安だった。
「だけど、昨日佐藤さんと別れた後に、この数日間で佐藤さんと一緒に行った場所を見て来たんだ」
「……うん」
精一杯、腕を大きく広げて、この気持ちが伝わるように。
「一人はあんなにも、静かだった。
今、こんなにも一人で居るんだと、感じさせられた。
見えなくても、触れられなくても、佐藤さんが居ることで俺は、あんなにも救われていたんだって、やっと分かったんだ」
たとえ、もうすぐ終わりを迎えようとしている世界だとしても。
そこで、諦めてしまうのは、こんなにも尽くしてくれていた女の子を残して、先に消えてしまうのは、あまりにも身勝手で、自分の気持ちさえも否定しているようだ。
「俺は、佐藤さんと一緒に、この世界に残りたいよ」
ただ、佐藤さんを見て、押し付けがましく自分がしたいように。
佐藤さんは、その言葉を聞いて、ハッと顔を上げて、また俯いて、絞りだすように。
「それは、私のことを、全部忘れることになっても?」
「あぁ、変わらない、俺はこの選択を覆さない。
……もう、決めたんだ。
二回も出会いをやり直すことになるのは、酷かもしれないけれど、これが俺の選択なんだ」
「……分かった」
そして、今にも泣きそうだった佐藤さんだけど、無理やりに顔を引き攣らせながら表情を整える。
俺も、それに習って佐藤さんを正面から見つめる。
この場所は、とても綺麗だけれど、少し赤すぎて、眩しすぎる。
そんな真っ赤な夕日の光が、佐藤さんの背中を照らしている。
少しの間、そんな佐藤さんの姿を見ていた。
その姿はとても、幻想的に思えた。
そんな短い時間が終わると、佐藤さんが口を開き、最後の確認をする。
「本当に、この世界に最後まで残る。この選択で、いいの?」
「あぁ、構わない。俺は最後まで、今の記憶が消えてしまったとしても、この世界に残るよ」
「うん……じゃあ貴方の、昴の選択はこれで確定、だよ」
そう佐藤さんが言うと、空が一瞬で暗くなった。
夕日がこの場所を照らす時間は終わり、夜になったのだ。
代わりに一つ一つがそれぞれを主張している光が空に点々と輝いていた。
月と、星の光は、眩しいくらいにこの場所を照らしていた。